第4話 同じ高校

「春香はどこの高校に進学するんだ?」


 俺が春香に聞くと、春香は不思議そうな顔をした。


「どこって、奏太と一緒のとこに決まってるじゃん」

「えっ?」


 俺と同じ高校?

 偶然同じ高校を受けていたということなら理解できるが、春香の反応を見た感じわざと俺と同じ高校を選んだような言い方だ。


 俺と漫画家になると決めたのがもっと前であればその可能性もあっただろうが、俺たちが一緒に漫画を描くと決めたのは今日の話だ。一体、どういうことだ。


「だって、一緒に漫画を描くなら同じ高校の方がいいでしょ?」

「それはそうだけど、俺たちが組むって決めたの今日だろ?」

「たしかに、組むと決めたのは今日だけど、私は結構前からずっと奏太と組みたいと思ってたんだよ」

「え……本当に?」


 結構前から俺と組みたいと思っていた?

 春香はたしかにそう言ったが、俺はこれまで春香との関りは全くと言っていいほどない。俺は頭が混乱しそうになってしまう。

 そんな俺を見た春香はどういうことなのか詳細を教えてくれる。


「奏太は休み時間とかによく絵を描いてたでしょ?」

「うん。まあ、授業中にも描いてることあったけど」

「それで、絵に集中しているときは周りの声が入らないくらい集中してたよね?」

「あー、たしかに言われてみればそうかもしれない」

「だから、奏太は気づかなかったと思うんだけど、私ね、よく奏太の教室に行って奏太が絵を描いているとこを見てたんだよ」

「そ、そうだったの!?」


 そういうことだったのか。

 春香は俺が絵を描いているところをよく見ていたのか。それで、以前から俺と組みたいと思ってくれていたのか。嬉しい話だ。


「そうだよ。でも、すぐに誘わなかったのはこの仕事部屋をちゃんと用意できてなかったからだね」

「用意?」

「うん。例えばこの仕事机だったり、漫画を上達させるための資料だったり、道具とかのね。それに……」

「それに?」

「私自身の話を作る能力を出来るだけ上達させてから誘いたかったの」


 漫画家になる、アニメ化作家になる、という熱い思いがあることは感じていたがまさかここまで準備をしてから俺を誘っていたとは思っていなかった。それだけ、この夢に本気だということだろう。

 

「そこまでしていたのか……。もし、俺が誘いを断ったらどうするつもりだったんだ?」

「何度でも誘うつもりだったよ。私の情熱を知ってもらえるまで、何度でも。それでも、ダメだったら自分で絵も描いてたかな。上手くなるまでにかなり時間が掛かっていただろうけどね」

「そっか。春香の本気が伝わってきたよ。俺も本気で頑張るよ!」

「そう言ってくれると嬉しいな。ありがとっ」


 春香がここまで準備してくれたのだから、俺も頑張らないとな。

 俺は絵を描くこと自体はもちろん好きだが、プロの漫画家が使うようなペンで絵を描いたことが無い。だから、最初は上手くいかなくて苦戦することがあるかもしれない。

 それでも、絶対に投げ出したりはしない。

 出来るようになるまで挑戦し続けよう。


 春香の覚悟を聞いてからは、俺の中の漫画への情熱も明らかに熱くなっているようだった。


「あ、そうだ」


 突然、春奈が壁に掛かっているカレンダーを見て、そう呟いた。


「どうしたの?」

「奏太はいつからここに住める?」


 そうだった。

 俺はこれからここに住むことになるんだった。もちろん、一緒に漫画を描いていく上では一緒に住んでいると色々と便利だろう。

 少し恥ずかしいが出来るだけ早く住むべき、だよな。


 恥ずかしさなんか考えるな。俺は覚悟を決めたはずだろう。


「あ、明日には住めると思う、よ……」

「本当っ!?」

「う、うん」

「やった! それじゃ、明日は楽しみに待ってるね!」

「うん、本当にありがとう」

「いいんだよ、私が誘ったんだし」


 春香は本当に良い人だな。

 親が経営しているマンションの一室とはいえ、俺も住んでいいなんて。というか、よく考えたら俺と春奈がまともに会話したの今日が初めてなんだよな。

 今まで一度も接する機会がなかったんだよな。そもそも俺には友達がいないんだし。


 そんな俺たちが一緒に漫画家を目指すことになるなんてな。

 人生何が起こるか分からないもんだな。


 とりあえず今日は帰ったら父さんと母さんに事情を説明しないとな。

 俺は高校に進学したら一人暮らしをする予定だった。だから、家を出ることに関しては許可してくれるだろう。だけど、春香と一緒に住むということも伝えないとダメ、なんだよな?


 まあ、そこは正直に伝えるしかないだろう。


 そんなことを考えていると、俺のお腹がぐぅぅぅぅぅぅ、と大きな音を立てた。

 そういえば、卒業式が終わってから何も食べてないな。そのせいで、お腹が鳴ってしまったようだ。

 恥ずかしい。かなり、恥ずかしい。

 隠れられる穴があったら隠れたいレベルだ。


「ふふっ、何か食べる?」

「い、いいの?」

「もちろん! 私もお腹が空いたからね。それに、これからは一緒に暮らしていくんだから遠慮は無しだよ!」

「うん、わかった。ありがとう」


 春香は料理を用意するためにキッチンへと向かって行った。


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