第3話 え、一緒に住むの?

「コンビ結成が決まったところで早速、行こっか!」

「え、どこに?」


 一緒に漫画家を目指すことが決まった途端、春香は俺の手を引いてどこかへと連れて行こうとする。

 行くってどこに行く気なのだろうか。


 まさかもう出版社に!?

 ……いや、流石にそれはないか。そもそも、まだ作品を書いてすらいないのだから。

 となると、ますます分からなくなる。

 一体どこへ連れて行く気なのだろう。


 ♢


 歩くことおよそ十五分。

 俺たちはとあるマンションの前に着いた。


「ここは……?」

「私たちの家兼仕事場だよ~」


 仕事場か。

 もう準備していたのか。ということは結構前から一緒に組む人を探していた感じなのかな。

 うん、確かに漫画家には仕事場は必要だよな…………って、ちょっと待てぇ!!!

 家兼仕事場って言わなかった?!


 家?

 しかも、家兼仕事場って言ったよね!?

 待て待て待て! どういうこと!?


「ちょ、ちょっと待って! 私たちの家兼仕事場ってどういうこと?!」

「え、そのままの意味だけど? ここがこれからの私たち家であり、仕事場になるんだよ! あ、厳密にはこのマンションの二階の一室なんだけど」

「え、はあ!? 一緒に住むってこと?!」

「ん? そうだけど」


 春香は本当に何を考えているんだ。

 年頃の男女が一緒に暮らすなんて、良いはずがないだろう。というか、春香はいいのか?

 俺みたいなやつと一緒に暮らしていくことになんの躊躇いもないのだろうか。


「ほ、本気で言ってるのか?」

「そりゃあ本気だよ~。こんなことで嘘なんか言わないよ」

「でも、いいのか? 俺なんかと……」

「あー、吉川さんのせいで相当心に傷がついてるみたいね。思考がネガティブ過ぎるよ。アニメ化したら付き合うって言ったでしょ? どんなに夢の為とは言ってもなんとも思ってない人にはそんなこと言わないから!」


 春香は頬を紅潮させ、俺から視線をそらした。


「え、それって……」

「これ以上は聞かないで。それを聞くのは、アニメ化してから、ね?」

「わ、分かった……」

「とりあえず、行こ」

「……うん」


 春香は数回、深呼吸をしてからマンションの中へと足を踏み入れた。

 俺もその後ろをついて行く。

 恐らく、俺の顔も赤くなっていることだろう。きっと、春香以上に。



「さ、この部屋だよ!」


 部屋の前に着くと、春香はすぐにテンションの高い春香に戻っていた。

 二階の一番奥の部屋。

 そこが俺と春香の家兼仕事部屋のようだ。


 春香がドアを開けると、そこには広々とした空間が広がっていた。

 かなり広い。

 家賃、結構するんじゃないだろうか。


「ここの家賃、高いんじゃないの?」

「んー、まあ、高いね。でも、上のほうの階ほどは高くないよ。このマンションの中では安いほうの部屋だよ」

「大丈夫なの?」

「実はここ、私の親が経営しているマンションなんだよ。だから、この部屋だけ使わせてもらってるの」

「てことは、無料……?」

「そういうことになるね! だから、家賃とかは気にしないでもらって大丈夫!」

「そっか」


 そういうことだったのか。

 親が経営しているマンションの一部屋を使わせてもらっているという感じだったのか。凄いな。


「そんなことより、仕事部屋行くよ」

「う、うん」


 仕事部屋に着いた瞬間、俺は驚きを隠せなかった。

 部屋の中の棚には数えきれないほど多くの漫画が並んでいた。かなり昔の作品から最近話題の作品まで。

 漫画好きであり、漫画家を目指す者としては興奮を抑えきれなくなってしまいそうなほどに最高な部屋だ。


 俺は今後、この部屋で漫画を描くことになるのか。

 まさに理想の部屋だ。


「どう? ビックリした?」

「ああ、かなり。色んな時代の名作漫画が置いてあるな。宝の山じゃん」

「色んな漫画読んでたらいつの間にかこの量になってたんだよね、えへへ」

「本当に漫画が好きなんだな」

「うん、もちろん!」

「なんかこの部屋みたら異様にやる気が出てきたよ」

「ホント?!」


 この漫画の量には漫画好きの俺でも驚かされた。

 それに、よく見てみると、没にしたとみられる自作の漫画が置かれていた。

 恐らく自分一人でも漫画を描こうとはしたのだろう。だけど、話は作れても絵が思うように描けなかったと言ったところだろうか。

 それで、俺を頼ってくれたってことかな。


 春香は本気で漫画家を、アニメ化作家になることを目指しているんだろう。

 俺も本気で彼女のために頑張ってみよう。


「ああ、本当だよ。一緒に大ヒット作品作ろうな」

「うんっ!」


 今日、春香に出会わなければ俺は吉川さんに酷いフラれ方をされたことによりずっと絶望の底に囚われたままの状態になっていたかもしれない。

 そんな俺に手を差し伸べてくれた春香と一緒に漫画で上を目指していきたい。


「あれ、そういえば……」


 漫画へのやる気が出てきていたところで、俺はとあることに疑問を抱いた。

 俺と春香、進学する高校は違ったりするのではないだろうか。まあ、学校が違えば一緒に描けないというわけでもないが、同じ高校に通っている方が何かと都合がいい。




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