第2話 漫画家
整った顔立ち。
特徴的な明るめの茶髪を腰の方まで伸ばしている。
誰が見ても美しいと思える容姿をもつその少女は俺のことを指差した。
「このままでいいの?」
俺に向かってそう言い放った。
このままでいいの? というのは何に対してだろうか。俺が無様にフラれるとこを見ていたのなら酷いことを言われたままでいいのか? という意味だろうか。
とは言っても、どうすればいいというのだ。
やり返せとでもいうのか?
申し訳ないが、俺にはそんなことできないし、やるつもりもない。
それに、今の俺は絶望していて何をする気も起きない。
「俺にはどうしようもないよ」
「悔しくないの?」
悔しくないわけがない。
だけど、吉川さんが言っていた通り俺が勘違いしてしまっていただけなのだ。毎日話しかけてもらって、優しくされただけで仲良くしてもらえていると都合の良い勘違いをしてしまっただけなんだ。
だから、悔しい気持ちがあったところで悪いのは俺なのだ。
「悔しいけど、悪いのは俺なんだよ」
「そんなことないと思うよ」
「え?」
「二人の会話を聞いてたけど、どう考えても悪いのは吉川さんじゃない?」
「でも、勘違いしてた俺が悪いんだよ。俺が勘違いなんてしなければこんなことには……」
目の前にいる少女は俺は悪くないと言ってくれている。
それだけで、少しではあるが心が楽になったような気がする。それでも俺の心がまだ傷ついてしまっていることに変わりはない。
「勘違いしなければこんなことにはなってなかったっていうけど、毎日声を掛けてくれたり褒めてくれていたら仲良くしてくれていると思うのは当たり前だと思う」
「そう、なのかな」
「だからこそ、吉川さんの発言は許されるべきじゃない。君のことを馬鹿にしたような発言をした上に、君の好きなことまで否定してきた。それはどんな理由があってもしちゃいけないはずでしょ?」
少女は声を荒げなげながら、吉川さんのしたことは許されるべきじゃないと言ってくれた。
否定された俺の何倍も吉川さんのしたことに対して怒りを感じているようだった。
彼女の言葉は彼女が本気で言っていると感じる。
だからこそ、その言葉は、直接俺の心に届いているような感覚だった。
俺の代わりに怒ってくれているみたいだ。
今日まで話したこともなかった俺のために。そう考えると、さっきまでの傷心していた俺の気分も少しだけマシになった気がする。
「俺のために……ありがとう」
「別に大したことしてないよ。ただ、人の好きなものを否定する人はあまり好きじゃないの」
「その気持ち、分かるよ。まあ、さっき俺自身が否定されたから当たり前なんだけどね」
「私は絶対に否定しないよ」
「本当に優しいんだね」
その少女は少しずつ俺のほうへと近づいてきて、突然俺に問いかけてくる。
「絵を描くのは好き?」
他の人から同じ質問をされていたら俺は答えることに躊躇しただろう。また、否定されたくないからね。
だけど、彼女は否定しないと言ってくれた。
だから、俺は何も誤魔化さずにそのまま答える。
「もちろん好きだよ」
「じゃあ、漫画とアニメも好き?」
「うん、好き」
俺の答えを聞くと、嬉しそうに満面の笑みを見せた。
そして何度か頷き、何かを決心したような表情になった。
「私と組んで漫画家になってよ!」
「は?」
「そして作品がアニメ化したら付き合ってあげる!」
「はあっ!?」
「あ、さすがに上から目線過ぎたか」
ちょっと待って。
上から目線過ぎたとか関係なしに何を言っているんだ?!
一緒に組んで漫画家になって、作品がアニメ化したら付き合う?
急展開過ぎて頭の処理が追いつかない。
いや、待て。
俺の聞き間違いかもしれない。
そうだ。きっとそうだ。
「今なんて?」
「やっぱり上から目線過ぎたよね。言い直すね」
「いや、そうじゃなくて」
「私と組んで漫画家になってほしい。そして、作品がアニメ化したら付き合おうよ!」
「っ!?」
やはり俺の聞き間違いではなかったらしい。
だが、まだ分からない。勘違いは禁物だ。
彼女の言う『付き合う』は交際の意味なのか、何かに付き合うかで意味合いが変わってくる。
「付き合うって言うのは……」
「うんっ、交際するってこと!」
うーん、勘違いじゃなかったぁ~。
こんな超絶美少女と俺が交際? めっちゃ嬉しいけど、なぜ俺?
というか、一緒に漫画家になるって……マジなの、か?
だけど、正直興味はある。
漫画家は俺が小学生の頃の夢だ。だけど、途中で諦めた夢でもある。
理由は簡単。俺が面白い話を作り出せないから。
だけど、話を作る過程を俺以外が担当してくれるとなると、話は変わってくる。
挑戦してみたい、叶う可能性は低い夢かもしれないけど、可能性があるのなら挑戦したい!
俺は覚悟を決める。
「わかった! 俺、君と組んで漫画家になるよ!」
「ホント!? やったぁ!」
「うん、だから一つ教えてほしい」
「うん、何でも聞いて!」
「名前を教えてもらってもいい?」
俺は彼女の名前を知らない。
コンビを組むのにお互いの名前を知らないままではマズいだろう。
「私は、
「俺は、
「わかった。よろしくね奏太」
「こちらこそよろしく春香」
俺と春香は固い握手を交わした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます