第6話 ナフタの性別


 

 あれから一週間、俺は能力を鍛えた。

 どの能力も大体は五秒あたりは続けて使えるようになった。


 一番最初は一秒くらいで頭が痛くなったり、汗がドバドバ出てきたが、一週間経ったらそういうのも無くなった。


 最も、ナフタが俺が疲労する度に、俺の身体に手をかざし、回復の神託術でも唱えているのか、すぐにそういう疲労は回復した。

 

 そういうこともあり、神託術も鍛えることができた。


 そして二週間が経とうとしていた。


「零人様、今日は珍しくどこかに出かけるんですか」


「ああ、久しぶりに、な」


「差し支えなければ付いてきても構いませんでしょうか」


「いや、お前その格好は……」


 メイド服はアウトだろ、と言おうと思ったがその言葉は止まった。

 

 何故か今日に限ってナフタは、ピンクに染まる白のワンピースにピンクのジャケット、そしてスカートを履いている。なぜかいつものメイド服じゃなかった。


「何か問題がありますか」


「問題……無いな」


「では付いてきても」


「まあ仕方ねえ、良いよ」


「ありがとうございます」


 そう言うとナフタは無表情のまま俺よりも先にドアから外に出た。俺はカバンとその中にカメラ一式を一応持って外に出た。

 

 久しぶりにまともに外に出たが、街並みは全く変わらない。どこも五月蝿い。


 俺の部屋にはカレンダーは無い。だからしばらく出ていないと今の季節がいつなのか、分からなくなってしまう。

 

 だけど道に時々、さくらの花が落ちているのを見ると、今が春を過ぎるか過ぎないかのあたりだとなんとなく予想できる。

 

 多分、四月か五月あたりだろう。別に外れていてもどうってことはない……いや、少しはあるか。でもそれは一端の写真家になったらの話だ。ほとんど技術が無い俺なんかがそんなことを気にする必要は無い。


 それに写真というのは気まぐれ、いわば運命の巡り合わせの部分だってかなりある。


 だから、今日行く場所で何か奇跡の瞬間に巡り合わせることもあるかもしれない。


 そう思い俺は、まずバスに乗った。そこから五つ進んだ停車場で俺は降りて、次に電車に乗る。


 そこから気まずい時間が流れ始めた。


 はっきり言うと目的地までここからかなり時間がかかってしまう。最低一時間以上かかってしまうのだ。その間ずっと一人だったら外の景色見たり、スマホいじるなりして、時間を潰すからまだ大丈夫だった。


 だけど、今回は同行してる奴がいる。しかも会って間もないメイド服の正体不明の女だ。


 いや、そもそも女かどうかも怪しい。


 チラとナフタの胸を見る。何というか無いよなこれ。でも今更性別を聞くってのも何か気が引ける。


 あ、そういえばこいつ自分のことを天使とか言っていなかったか? 天使って性別あるのか? 


 そう思うと早速、天使についてスマホで調べた。え〜と、女性だったり男性だったりすることがあるということらしい。


 要するに、はっきりとは分からないってことだ。でもあの胸を見る限り、無いと思うんだけどなぁ。


 でもワンチャン胸にそういうプロテクト付けてる可能性はある。……てか俺そこまでしてコイツが女でいて欲しいのか? まぁ欲しいか。すごく可愛い顔してるしな。


 言うこと何かキツイけど。それだったら女性であることを求めても仕方ないな。俺は男女関わらずキツい言葉遣いの奴は嫌いだからな。


「零人様、どうかなさいましたか」


「うおっ」


 いきなり話しかけて来たからビックリした。こっちが考えてること全部見透かしてるんじゃないだろうなコイツ。なんか怖いんだよ、そういうの分かってそうで。


「零人様」


 いや詰められても困るんだが。

 待てよ? もしかして、見逃していたが今日コイツはメイド服ではなく白いワンピースを着ている。


 ということはもしかしてワンチャン胸にプロテクトかかっているかどうか見れないか?


「ああ、いや、別に、なんにも、無いけど」


「零人様、どうして言葉を区切りながら話をするのですか?」


「え? そんな、こと、ない、けど?」


「いえ、明らかに区切っています」


「そう、かな?」


 まずいな、コイツの話とかもうほぼ集中して聞いてないから、難しい話されたら悟られるぞ。


「あの、零人様。零人様はどうして先程から私の胸元を執拗に見るのでしょうか。何か変な所がありますか?」


「いや、そんなこ、はあ!?」


 いきなりナフタは、自分の胸を俺のそばに近寄らせた。こんなのされたら女でも驚くぞ。


「どうですか、異常はありますか?」


「いや、何で急に」


「ではこうするとどうですか」


 は? ん!?!? 


 思いっきり悲鳴を上げそうになった。


 いきなりナフタは俺の手を掴んで、自分の胸に触らせた。初めて俺はナフタのことを天使だと思えた。こんなに天使な女いないぞ!? 胸を見てたら相手の手を掴んで自分の胸を触らせるなんて。


「どうですか、満足ですか」


 ナフタは俺の手を自分の胸で回し、更に俺の手を握り、揉ませる形にする。


「どうですか、何かわかりましたか」


 ここが二席の座席で周りに誰もいなくて良かった!! いたら駅員呼ばれることになってた。


 それにしてもこいつ恥ずかしく無いのか?

 こんなことさせるなんて……あれ? 今気づいたけど、手で直接胸を触っているのに、全然ナフタの心臓の音が聞こえない。


 え? こいつ人間じゃないのか?


 ああ、そういえば天使って言ってたけど、本当に天使なのか? だから胸を触られても何とも無いのか? 心臓が無いのか?


「ナフタ」


「はい、なんでしょう零人様」


「お前、マジで天使なのか?」


「はい、天使です」


 なんだこのアホの会話は。そういうことを聞きたいんじゃ無いだろ。


「えっと、ナフタって性別どっち?」


 何でこんな言葉が出てきた? 


「天使です」


 まあ、そう答えるもんな。


「天使には性別はありません。性器も存在しません。バストもほどほどです」


「ああ、そうか。悪かった。変なこと聞いて(零人はバストとチェストの違いが全く分からない)」


「ご理解いただけて何よりです」


 そんな会話を交わしていると、もう目的の駅に近づいていた。

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