第9話 緩衝地帯
「俺は君に教えられるものは全て教えた。君はもう立派な大魔導師だ」
「嘘。私は先生に何も教わって無い」
「いいや。俺は出来得る限りの全てを君に教えたつもりだ。君は気付いていないが、俺から全てを学んでいる」
「嘘! やっぱり先生は詐欺師だったんだわ。先生なんて大っきらい」
気が付けば私は天高くにいた。ずっと使っていない飛行魔法だった。
むしゃくしゃしていた。先生のところに帰りたくはない。ふと、強力な魔力を感じた。辺りを見回す。どこを向いても荒野だった。
緩衝地帯………。
後先考えずに飛んで来たんでどこをどう飛んだか分からなかった。私は魔族の国と目と鼻の先まで来ていた。
向かって来ている魔族は一人。丁度むしゃくしゃしていた。やっつけてやる。
私は地上に降り立った。向かって来る魔族を待つ。そいつはすぐに現れた。完全に見覚えがあった。アビントンに来たお師匠様に恨みがあるやつ。魔族の、あの少年。そいつが言った。
「なんだ。人間が俺たちの領土を飛んでるって思ったら、ただのガキかよ」
ガキとはなによ。あんたこそ、ガキの癖に。
「そんな口、叩いていいのかしら。私はクローディア・エッジワ―ス。カエラ・ラムゼイの一番弟子よ」
魔族の少年は腹を抱えて笑った。
「弟子? こやぁいい。一年前にもそんなこと言ってたやつがいたなぁ。モンスターと間違えるほどの太っちょで、魔法は形だけいっちょ前だったが、中身がすっからかん。正直、相手にもならなかったね。カエラ・ラムゼイもかわいそうだなぁ、あんなのが弟子で」
あれ? 私が分からないの?
「いいのですか。そんなこと言って」
「本当のこと言って何が悪い。お前が一番弟子と言うからには、ありゃぁお前の妹弟子か。いずれにせよ、あんなのと一緒となるとお前もたかが知れているなぁ」
もしかして、魔族は人間を誰もかれも一緒に見えている?
「まったく、好き放題ですね」
「怒っているのか? しゃーないだろ。事実そうなんだから。なんなら試すか。俺が現実を思い知らせてやる」
別種族だから私を見分けられないのはいいとして、面と向かってバカにされるのはやっぱり腹が立つ。
「一つ言っときますが、アビントンであなたに会ったのは私です」
「はぁ!?」
魔族の少年は口をあんぐり開けていた。そして、まじまじと私を見る。
「言われてみればそんな気もしてきた。だが、あいつはお前みたいにべっぴんじゃねぇ。しかも、お前は胸もでかいし、足も綺麗だ。人間がこんなにも変われるもんか。もしかして、お前魔族?」
魔族の少年は目を細めた。
「いやいや、角が無い。間違いなく人間だ。しかも、オーラの匂いが一年前のキングスライム女と全く同じ」
はぁ? 誰がキングスライム女って。
「人間が完全変態するなんて聞いちゃいねえ。が、まぁいい。お前をいじめればまたあいつが来るんだろ。カエラ・ラムゼイが現れるってこともありえる」
モンスターに間違ったり、魔族扱いするなんて許せない。私は好き放題言われて黙っているようなお人よしじゃありませんことよ。
「そううまくいくかしら」
といっても、あれから一年、私は魔法を使っていない。でも、おっさんに頼りたくない。私だけでやる。私の周りに各系統の紋章が円を書くように浮き上がったかと思うとダイヤルが回るようにカチ、カチと動く。
いける。やってみる。風を示す紋章、雷を示す紋章、土を示す紋章、そして、紫色の立方体が描かれた紋章。
「重力」
この前と同じように魔族の少年は、ぐぎぎぎと奥歯を噛みしめ、足を踏ん張って“重力”に耐えている。
紋章がまたダイヤルのごとく動く。止まったのは水の紋章。
「つらら」
上空に巨大なつららが現れたかと思うと魔族の少年に向けて落下する。“重力”と“つらら”のコンボ。魔族の少年はというとやっぱり “つらら”を受け止める。
前はこれで駄目だった。だったらさらに魔法を重ねるだけ。
グシャ!
え?
悲鳴も何もない。魔族の少年は新たな魔法を出すべくもなく、呆気なく“つらら”に押し潰された。“つらら”はというと、まだ地中にめり込んで行っている。
解除。
“つらら”も“重力”も消えた。残ったのは地を大きく穿つ穴。そして、その奥深くに体半分を失った魔族の少年の死体。
死体?
死んでる?
よく見るとピクピク動いている。私は飛行魔法で彼の元に下り立った。やはり、まだ生きている。意識を失っているだけ。
私………、強くなっている。
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あとがき
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