第6話 オリジナル奥義




グゥゥゥゥゥゥ! キュルキュルキュル!


ムムム。目が覚める。窓に夕焼け。やっぱり私のお腹は正確。


私は飛行魔法を掛けるとアイテムボックスからイブニングドレスを取り出した。ふわふわ浮いている。両手を広げるとラウンドドレスが体から離れて行く。換わって私の体はイブニングドレスに包まれた。


クルッと回った。ばっちり。


下の階に向かう。流石この町一番のホテル。ドアも大きいし、階段も広い。あっという間にダイニングについた。


ウエーターが席に案内する。席に着くとさっそくオードブルが運ばれて来た。次にスープ。で、魚料理。口直しのソルベからのぉ、メインディッシュの肉料理ヴィアンド。それからデザートでカフェ。


前まではそれぞれ三皿同時に持って来させたけど、最近は三巡することにしたの。コースは二巡に入ってた。やっぱり私の考えは正しかった。毎回新たな気分で料理を楽しめる。なぜもっと早くこれに気が付かなかったのかしら。我ながら大発見。テヘ。


さて、二回目のメインディッシュ。さっきはウェルダンだから、今回はミディアム。どんな感じに味が変わるのか楽しみだわぁ。わくわく。


テーブルに皿が置かれた、と思った次の瞬間、ホテルがドンっと、落ちたように揺れた。テーブルの皿が跳ね跳ぶ。


地震? いや、違う。


ダイニングは騒然としていた。割れた皿や食器が床に散乱する中、ジェネラル・マネジャーが私に駆け寄って来た。私のメインディッシュが床に転がっている。


「魔族が現れました」


魔族って。きっと残党。許せません。


「広場で大魔導師を出せって騒いでいます」


はぁ? お師匠様を? ぬぬぬ。それは一大事。食事を邪魔された恨みもある。尚更見逃すわけにはいけませんね。待ってなさい。この私が成敗してくれます。


席を立つとダイニングからフロントに向かう。逃げ惑う人々をすり抜け、ホテルを出ると上空高くに舞いあがった。


グルリと見渡す。広場が見えた。まがまがしいオーラも感じる。私はそこに向けて急降下した。


少年が立っていた。額に角が二本あって、金の胸当てに小手。子供の見た目に騙されてはならない。きっと名のある魔族。けど、私の敵ではない。


「なんだ? モンスターかと思えば、人か?」


失礼にもほどがあります。魔族は私を目の前にして、ぷいっと目をそむけた。モンスター? 誰のことをおっしゃってます。


「あなたね。私のお師匠様を探しているのは」


「はぁ? 師匠? なるほど。そういうことか」


魔族の少年は顎に手を当てた。


「カエラ・ラムゼイの弟子ってわけだ。それで俺は間違ってしまったのか」


魔族は視線を私に戻した。


「使えそうだな」


「使えそう? 何に?」


「決まってるだろ。カエラ・ラムゼイをおびき寄せるんだ」


お師匠様に恨みがあるのね。親でも殺されたのかしら。まぁ、仕方が無いわね。先の大戦で人と魔族は血で血を洗うほどの闘いをしたというから。


「そう上手くいくかしら」


最初っから全力で行く。子供の姿をしていたとしても魔族は長生き。既に何百年も生きているはず。私は全系統を解放した。


私の周りに各系統の紋章が円を書くように浮き上がる。その紋章が、ダイヤルが回るようにカチ、カチと動く。風を示す紋章、雷を示す紋章、土を示す紋章、そして、紫色の立方体が描かれた紋章。


「重力」


時空間魔法。魔族の少年は上からの突然な圧迫に、ぐぎぎぎと顔をしかめ、太ももの血管を浮き上がらせて、押さえ付けられるのを何とか持ち堪えている。


これは私のオリジナル。詠唱速度を上げるために考え抜いた。私の周りに描かれた紋章がまたダイヤルのごとく動く。止まったのは水の紋章。


「つらら」


上空に巨大なつららが現れたかと思うと魔族の少年に向けて落下する。


“重力”と“つらら”のコンボ。私の必殺技。でも、魔族の少年もなかなかのもんね。“重力”に耐えつつ、加速して落下する槍先のように尖った“つらら”を受け止めた。


さすが、お師匠様に挑もうとするだけはある。でも、いつまで持ち堪えられるかしら。“つらら”を受け止めた手は凍りだす。いつか腕は使えなくなるはず。案の定、“つらら”の先端は魔族の少年の額に迫っている。プルプル震えている膝の片方が地に着く。


「なんてね」


“つらら”はボっと燃え上がった。次の瞬間、“つらら”はあっという間に形を失い、霧となって辺りを包む。


えっ? やばい! 視界が閉ざされた。紋章のダイヤルが回り、風の紋章で止める。


「ガストフロント」


突風が霧どころか街を凪ぎ払った。魔族の少年はいまだ“重力”で動けないはず。間髪いれず次の攻撃。


え?


居ない。っていうか私の目の前にいた。こぶしを大きく振りかぶっている。


え、えええええええ!


死んだ。


と思ったら、こぶしは私のほんの鼻先で止まってた。誰かが魔族の少年の手首を握っている。


「俺の可愛い生徒をいじめるな」


先生! 


すごいキラキラオーラ。そして、ヒーローな横顔。きゃぁぁぁぁっ! めっちゃかっこいい!




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あとがき


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