第2話 貴人の座具

ドキッとした。


ハンサムオーラ? 部屋の空気が一瞬変わったような。え? おっさんが私を見ている。ええええええ! なに? なになに? その熱いまなざしは。


おっさんが言った。


「で?」


ん? でって?


「お前さぁ、先生って呼んでいる人の前でなんでプカプカ浮いているわけ?」


長い話になると思って話の途中から風魔法の派生、飛行魔法で体を浮かしていた。


「それがどうかいたしましたか」


「先生の話は集中して聞くものだ。何かをしながら聞くものではない」


出た! これがお父様のおっしゃっていた異世界人特有のこだわり。


「お言葉ですが、先生。妖精たちはいつもプカプカ飛んでますわよ」


「お前は妖精か?」


「いいえ」


「なら、自分の足で立て」


「先生は御存じないでしょうが、風使いは社交界で人気ですのよ。ダンスの時は華麗に飛んで殿方をリードするの」


宙でステップを踏んで、クルクル回って見せた。そして、スカートを摘まんで軽く会釈する。キマった。ニコっ。


「ここはどこだ?」


「はい?」


「王都から2300キロも離れている元は魔王の領土で、森の真んまん中だ」


2300キロ? 45ディールでしょ。


「見れば分かりますが」


森の中の一軒家。エレガントとは遠くかけ離れている。


「ここで踊ったらさぞ注目の的だろうな」


「はて? 誰がここで踊ると言ったのですか」


おっさんは顔をしかめた。私の話、ちゃんと聞いてなかったのかしら。


「ですから、誰がここで踊ると言ったのですか、と言ったのです」


困ったものだわ。どこに居ようとも女はエレガントじゃないとねっていう例え話なのにね。汗かいて、足をプルプルさせて突っ立っているなんてはしたない。


「おめぇぇだろ。っていうかさっき踊っていただろうに」


「いいえ。言ってませんし、踊ってません。ただの挨拶です」


おっさんはため息をついた。


「まぁ、いい。ともかく、魔法を解け」


「はい?」


ドンっと、おっさんはテーブルを叩いた。


「魔法を解け!」


まさかの癇癪持ち。でも、全然迫力ない。お父様の方がよっぽど怖い。


「分かりました。魔法を解きますが、そこに座らせてもらってもよろしいでしょうか」


テーブルにある木の椅子を指差した。おっさんの視線がそこに止まると、ああっ!てなった。


「おお、わりぃわりぃ。そういうことか。熱くなってごめんな。さぁ、座ってくれ」


おっさんは反省したようだ。悪い人じゃなさそう。私は浮遊したまま椅子の所まで行き、椅子に腰を下ろした。そして、魔法を解く。


「で、話の続きだが、君は白魔法から闇魔法まで全ての系統を手に入れている。これ以上教えることがないとカエラも手紙に書いている」


腕を組んでいるおっさんが微妙に右に左に揺れている。っていうか、私が揺れている。


「世の中には金では買えないものがある。それは分かるな」


お尻の下からギシギシと音が聞こえた。椅子の足が踊ってる。


「君は規格外過ぎるんだ。その体に見合った魔法を手に入れなくてはならない。お嫁に行きたいのなら君は君にとってプライスレスなものを手に入れる必要がある」


やばいかも。


「カエラが俺を君の先生に選んだのも、親父さんが俺に君を預けたのもそういうわけだ。俺が転生者だからだな。俺ならこの世界の常識に捕らわれない」


グシャ! ドカンッ!


椅子の足が弾けて飛んだ。私のお尻は床を突き破っている。椅子があまりにチャチくって、私の体重を支えきれなかった。


「だ、大丈夫か!」


おっさんがテーブルの上から血相をかいて覗き込んでいる。


大丈夫。ちょっとお尻がズキズキするだけ。


「大地を司る精霊ムーアの名をもって命じる。出でよ。貴人の座具」


床に魔法陣が描かれると石造りの椅子がフローリングを突き破り、床下からせり上がって来る。


イメージ通り。背もたれはクジャクが羽を広げたようであり、肘かけはまるで堅牢な城壁のよう。その肘かけに手を伸ばすと山でも登るように這いあがり、よいしょっと腰を落ち着ける。


テーブルの向こうにはおっさんの顔があった。眉をしかめて変な顔だ。お騒がせしました。さぁ、話の続きをお願いします。


「お前さぁ、何も分かってないようだな。先生と話すのにフワフワ浮いていたら失礼だろと俺は言ったんだ。だが、これはもっと失礼じゃないか?」


私は自分の椅子を見て、おっさんの椅子を見た。背もたれなんて棒っきれの寄せ集め。言うまでもなく肘かけなんてものはない。まるで手作り。


「これは失礼、私としたことが。先生にはもっと立派な物を作って差し上げますわ」


おっさんの顔が、はぁ?ってなった。そっからおっさんは腕を組んで何もしゃべらない。私は椅子の背もたれにゆっくりと体重を預ける。





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あとがき


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