第3話 在ドイツスパイ
ジョン・ハリスは今年で27になる。今はドイツで食器や文具を売り、細々としたスパイ生活を送っていた。
学生時代にドイツへの留学経験があり、ドイツ語も流暢に操れる。
寒いある日ハリスを驚かせたのは、フランスのパリがドイツ軍の電撃戦に落ちたというニュースだった。そしてそれからまもなくさらに驚かせることに、大英帝国へのフランス経由の情報網ができていた事だった。パリが落ちて一週間そこらである。
ハリスの任務は地味で、商品に関する手紙の中にドイツの世間話を盛り込む事である。
ただの世間話、されど世間話である、大英帝国が誇る
春が始まった。金髪碧眼で首に小さなホクロのある少女がやってきた。大きなアタッシュケースは少女には大きすぎる気がした。
最初、ハリスはドイツで徴兵が始まり男が減る前に引き継ぎを寄越したのかとも思ったが、どうやら違うらしく、たった数日家に泊めやればいいらしかった。
任務の全体像を教えてこないのはいつものことで深くは詮索もしなかった。
「ジョン・ハリスだよろしく、君の名前は?」
「最近読んだ小説は?」
「小説......変身、カフカの」
「ではグレーテとでも呼んでください」
愛想よくニコッとグレーテは笑うと、「私のことは......」と言いながら人差し指を唇の前に持ってきた。
ハリスは何だかめんどくさそうだぞ、とできるだけ関わらない、話さない方針に決めた。
グレーテが来て1日目は、朝食を二人分作って、習慣として新聞を読み、大英帝国に送るべきことがないか探していたら、ドアが開く音がした。グレーテが出っていたらしいかった。
二日目はいつものルーティンを過ごし、誰も来ない店内で一人。
ラジオを聴きながら、漠然とどうやってドイツに来たのだろうかと考えていた。というのもドイツは陸空海問わず、ドイツに踏み込めば無条件で攻撃をしていたから。本国から来たのだろうかという疑問だった。
3日目の朝、
「しばらくありがとうございましたでは、帰ります」
グレーテはそれだけ言う声を聞き、気がついた時には風の様にふらっと去っていた。一人になると急に部屋が広く感じれた。
その日の午後、ベルリンの軍の施設が爆発したニュースで持ちきりになった。
その施設は反重力軍艦、反重力装置の研究施設らしく、反重力装置が暴走し爆発したのではと、しきりに放送された。
ハリスはスパイとして、こじつけ物を考えてはいけないと分かってはいるが、どうにも少女がやったことに思えてならなかった。
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