第2話 ドイツ人スパイ

 フランク・スミス、名前は偽名だが年齢は今年で30になる、カウンターインテリジェンスとしてかれこれ十年近く働いている。

 ウェストミンスター寺院の地下だとかロンドン塔の中に施設があるが、当然一般非公開の事である。

 スミスはロンドン塔で受けた命令はドイツ人スパイの暗殺。階差機関ディフェンスエンジンが炙り出し、裏の取れた人物である。

 ホシについてのファイルは一度見ただけですでに破棄したが、住所などは一発で暗記した。

 今回の任務はいつもと違い、金髪に碧眼、首に小さいホクロのある少女が一緒だった事が少し気がかりだった、新人研修だろうか。

 外は10メートル先は見えないほど濃いスモッグで、スミスと少女はゴーグルにマスクをつけた。多少息苦しいが、喉も目も痛くならない。

 二人は馬車に乗り、UCLの方向へ向かい、三十分ほどかけストランド街まで南下した。冬が近く肌寒い散歩になった。

 テムズに近づくが、マスクのおかげで匂いは感じなかった。

 ストランド街の一角にその写真屋はある、ドイツ人は資料によれば、写真屋を営み、その上の階を住居としているらしい。

 少女はただスミスに着いて来るだけだったから、逆に自分が研修を受けているのではないかとさえ思った。

 昼間だが、濃いスモッグで視界は効かず、下手に夜任務をするより、今すべきだと考えた。

 写真屋は今日はスモッグで営業しないらしく、どうにか扉をこじ開ける必要があった。ガラスを破るか、ピックで開けるか。静かさで言えばピックだが速さで言えばガラス破りだ。

 スミスが悩むうちにどこから出したのか、少女の手にはオートマチックの小さな拳銃が握られていて、拳銃そのものでガラスを割ると手を回し鍵を外して入っていってしまった。

 自分より若い少女を先に行かせるのは、紳士としてもどうなのかとスミスは急いで少女よりも前に出た。

 写真屋のバックヤードに階段があった。おそらくこれが住居に繋がるのだろう。

 少女に横につくよう手で指示した。階段の上のドアを念の為、壁に身を隠しながら開けた。すると開いた瞬間扉が爆ぜた。扉が内側から撃たれたのだ。

 スミスが何か行動を取るよりも早く、少女は部屋に飛び込むと、数発の銃声が聞こえが直ぐに銃声はやみ、金属が擦れる小さい音だとかが聞こえ初めた。

 スミスはあぁ少女は死んでしまった。と思い自分が静止しておけば......と思った。

 胸の前に拳銃を持ってきって、スッと部屋を覗く、早撃ちには自信があった。

 しかし少女は窓際でラジオを弄り、男が血を流し倒れていた。スミスは予想外の展開に無意識に後ろに身をそってしまった。

 少女はスミス目もくれず、片っ端方機械類をバラしていた。

 スミスには少女の目的がはっきりと分かった。盗聴器や暗号関連の物を探っているのだ。

 写真屋ともなれば、薬品でも機械類でも怪しまれず買えるだろうしマイクロフィルムにでも記録しているかもしれない。

 少女が来たのは数多い写真屋の道具、写真の中から逆にドイツを探れる物を手分けして探させるためらしいと一人合点した。

「じゃあ君は2階を見ててくれ、僕は屋根裏を見てくるから」

 少女は小さく頷いた。思えば初めての会話である。

 スミスが屋根裏を改めて二階戻った時、既に少女の姿はなく、バラされた機械も元通りだった。

 スミスは狐につままれようにポカンと取り残された。

 





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