スチームパンク時代は陰謀の時代
澁澤弓治
第1話 不思議な少女
1923年 マン島付近海上
エドガー・ブロンドは今年で23歳になる、Ucl卒業し、軍の研究所で働いている。
ブロンドは名前の通り、髪はブロンドで、ヒゲは生やしていないから童顔、18歳と言っても気づかれない。
ブロンドは戦時中いや戦時中だからこそ、ある研究で反重力船に乗っていた。
狭い部屋は窓が一つとベットと小さな机椅子のみで牢屋と区別がつかないほどだ。
既に夜だから、外の高さにソワソワする必要は無くなった。ブロンドは自室で安心して資料を整理し、アタッシュケースに順番に詰めていた。
「はぁ」
今日の実験成果は芳しくなく、投下した物も回収できない海中だ。何がどう駄目だったかよくわからず、自然とため息が漏れる、ブロンドの狭い部屋は何度もため息を聞かされただろう。
反重力船に突如として、ぶつかった様な衝撃が走った、落ちるんじゃないかとブロンドの肩はビクッとなった。
衝撃からすぐに、部屋のドアがノックされた。
「どうぞ」
粗末なブロンドの部屋には鍵もカーテンなかった。
「ブロンドさんですね」
軍の反重力船だというのに現れたのは少女だった。金髪に碧眼、首に小さなほくろがあった。ブロンドは思わず吸血鬼カーミラを思い出した。
そして異様な事はそれだけでなく、少女は右手に黒光りするオートマチックの拳銃を握っていた。
「あぁ、そうだよ」
相手が拳銃を持っていると少女相手でも怖気付く。
「とりあえず、部屋の電気を消していいですか?」
「あぁ」
ブロンドには内容が全く掴めなかった。しかし大事な機密の入ったアタッシュケースを閉める余裕はあった。
少女は言うなり、スイッチを消し、ドアを閉めた。
殺されるのかとさえ思ったが、少女は敵対的ではない、しかしそのアンビバレントなところが気持ち悪くもあった。
銃声が響き出した。ブロンドはアタッシュケースを胸の前にだき抱え、屈んだ。
「窓際にいたほうがいいかもしれませんよ」
ブロンドは少女の忠告に、子鹿の様に従った。
銃声は各地から響き、もしや自分は少女の人質なのではないか、と思い始めた。泣き出したくなった。横目でチラリと見た少女は窓を挟んで、壁際に身を寄せていた。
少女がハッとした様に、拳銃を胸の前で構えた瞬間、パリンと窓ガラスが割れ、男が足から勢いよく部屋に入ってきた。きっと上の方で紐にでもぶら下がり、勢いをつけたのだろう。
少女は後ろから男に銃を放った。ブロンドは初めて聞く銃声に、痛くもないのに自分が撃たれた気がした。乾いた音が複雑に反響し、血は扇形に部屋に散った。ベットの上にも血はべっとりとつき、所々盛り上がっていたもしかしたら肉片かもしれないが、月光で全て真っ黒に見えた。
ブロンドは顔から血の気が失せ、もう少しで吐き出しそうだった。
それからしばらくはブロンドと少女と死体は小さな部屋で動かなかった。次第に銃声が鳴り止み、少女は、
「もう大丈夫でしょう。仮にも軍人でしょ拳銃ぐらいありますよね」
「あぁ一応......」と言ったもののブロンドは人生で一発も打った事は無かった。「あの、一つだけ聞いていいかな? 君の名前は?」
少しでも少女の素性を探ってやろうという魂胆だった。
「最近何か小説、劇は見ましたか?」
「え? えぇーと吸血鬼カーミラかな」
「いいチョイスですね、じゃあ私の名前はカーミラだとでも思って下さい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます