第6話 過去と向き合う対話

神崎亮の言葉に、藤堂樹の心は大きく揺れ動いた。カウンター越しに向かい合う二人の間に、張り詰めた空気が漂う。樹は静かに息を吸い込み、冷静を保とうと努めながら、神崎の目を見つめ返した。


「過去を清算するって、どういう意味だ?」樹の声には微かな緊張が滲んでいた。


神崎は一瞬ためらった後、静かに話し始めた。「あの頃のことを、全て話したいんだ。君が去った後、何が起きたのか、そして今、何をしているのか。過去を振り返り、未来を見据えるためにも、話さなければならないことがある。」


樹はその言葉を聞きながら、胸の奥に再び蘇る記憶の波に飲み込まれそうになった。彼は冷静を保つために、深呼吸を繰り返した。


「ここでは話しづらいだろう。店が閉まった後、どこかで話そうか?」樹は提案した。


神崎は頷き、再びコーヒーを口に運んだ。「そうだな、夜に落ち着いて話すのがいいだろう。」


その後の数時間、店内は再び日常の静寂に包まれた。しかし、樹の心の中では神崎との対話が繰り返され、次第に深まる不安と共に時間が過ぎていった。常連客たちが店を後にし、夕暮れが近づくと、樹は店の閉店準備を始めた。


「亮、少し待っててくれ。片付けが終わったら行こう。」樹は神崎に声をかけた。


神崎は静かに頷き、席に座ったまま待っていた。樹が最後の掃除を終え、店の鍵をかけると、二人は静かに店を出た。外の冷たい風が二人の頬を撫で、秋の夜の静寂が彼らを包み込んだ。


「近くにいい場所があるんだ。そこで話そう。」樹は神崎に声をかけ、歩き出した。


二人はしばらくの間、無言で街を歩いた。紅葉が夜の闇に溶け込み、静かな街並みが二人を迎える。やがて、樹は小さな公園に辿り着いた。そこは、かつて彼らがよく訪れた場所だった。


「ここなら、静かに話せるだろう。」樹はベンチに座り、神崎を促した。


神崎もベンチに腰を下ろし、しばらくの間、夜空を見上げていた。星が輝く夜空は、二人の心の中にある混沌とは対照的に、静寂と安らぎをもたらした。


「樹、あの頃のことを、全部話そう。」神崎は静かに口を開いた。「君が去った後、組織は大きく変わった。多くのことが明るみに出て、そして多くの犠牲もあった。」


樹は神崎の言葉を聞きながら、自分の中に渦巻く感情と向き合った。過去の痛みと罪悪感が再び彼を襲い、心の奥底で激しく揺れ動いた。


「俺も、逃げてばかりじゃいられないんだな。」樹は静かに呟いた。「過去と向き合って、未来を見つけるためには。」


神崎は頷き、「そうだ。過去を清算し、新たな道を歩むためにも、今ここで全てを話し合おう。」と答えた。


その夜、二人は長い時間をかけて過去の出来事を語り合った。静かな公園のベンチで、彼らは再び友として向き合い、未来への一歩を踏み出す決意を固めた。夜空の星が二人を見守る中で、彼らの心には、再起動の兆しが確かに芽生えていた。

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