第5話 喫茶店「風雅庵」での再会

秋の深まる京都の街並み。喫茶店「風雅庵」の朝は、清らかな空気と共に始まった。窓から差し込む陽の光が、店内を柔らかく照らし、温かな雰囲気を醸し出していた。常連客たちが静かに談笑しながら、朝のひとときを楽しんでいる。


藤堂樹は、カウンターの中で静かに働いていた。コーヒーミルから香ばしい香りが漂い、彼の手は慣れた動きで豆を挽いていた。彼の心は、先日の神崎亮との再会によって揺れ動いていたが、ここではその揺らぎを感じさせることはなかった。


「風雅庵」での時間は、樹にとって一時の安息を与えてくれる。客たちの穏やかな声と、珈琲の香りに包まれながら、彼は日常の喧騒から逃れることができた。しかし、その静寂は突然破られることとなる。


扉のベルが鳴り、新たな客が入ってきた。樹はその音に反応し、ふと顔を上げた。その瞬間、彼の心臓が一瞬止まったかのような感覚に襲われた。


「久しぶりだな、樹。」冷静な声が店内に響いた。


その声の主は、神崎亮だった。彼はかつての友であり、今や彼の平穏を乱す存在となっている。神崎は落ち着いた表情でカウンターに近づき、樹と視線を交わした。


「亮……」樹はかすれた声で答えた。彼の心の中で、再び過去の記憶が渦巻く。亮の存在が、彼の静かな日常に嵐を巻き起こそうとしている。


神崎はカウンターの席に腰を下ろし、静かにコーヒーを注文した。樹は内心の動揺を隠しながらも、プロとしての態度を崩さずにコーヒーを淹れ始めた。その手元が微かに震えるのを感じながらも、彼は丁寧に作業を続けた。


コーヒーがカップに注がれ、神崎の前に置かれた。神崎はそれを一口飲み、満足げに微笑んだ。「変わらないな、樹。君のコーヒーはいつも美味しい。」


その言葉に、樹の心は複雑な感情で満たされた。過去の友情と裏切りの記憶が入り混じり、彼の心を締め付ける。しかし、ここで感情を表に出すわけにはいかない。


「ありがとう。」樹は静かに答えた。彼の声には、微かな緊張が滲んでいた。


神崎はしばらく黙ってコーヒーを味わっていたが、やがて口を開いた。「今日は話があって来たんだ。君と、過去のことを清算したい。」


その言葉に、樹の心は再び大きく揺れた。過去の影が再び彼の前に立ちはだかり、彼の内面に深い影を落とした。彼は神崎の言葉の意味を探りながら、次に何を言うべきか迷った。


店内の静寂が、一瞬重苦しいものに変わる。その瞬間、樹は自分が過去と向き合う時が来たことを悟った。彼の心には、再び闇と光が交錯し始めていた。

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