第3話 悪霊が出てきちゃいました 

 「二郷が、大学に来ない」


 聖山教の事件が遭ってから10日、皆が蒼都が大学を休んでいると騒ぎ始めた。

が、事件を知っている俺は黙っていた。大学生がその位休むのは不思議でもなんでもないしな。


 しかし段々とおかしな噂も立ち始めた。なんでも1週間ほど前に蒼都とダブルデートしたヤツがいるって言うんだ。

 更におかしいのが、蒼都とダブルデートした仲間の男が、必死になって霊能者を探しているらしい。

 俺は、仲間の男『上畠』に声を掛けた。

一体何があったのか尋ねようとしたんだが、なんだかさっぱり要領を得ない。

 仕方なく俺は上畠を呑みに連れ出すことにした。人間アルコールが入っているときが一番良く囀るもんだ、そうだろ?


 俺の作戦は成功した。

 上畠は安い居酒屋でおいおいと泣き出し、呂律のあやしい話で俺に遭ったことを語り始めた。


 『蒼都がヤバい』


 上畠の話で、それを理解した俺は牛丼屋とコンビニに駆け込み、牛丼大盛り2つと高い栄養ドリンクを買ってから、蒼都の住むタワマンに向かった…


◇◇◇


 『相変わらず凄えマンションだよな…』


 暫く振りに来た俺はしみじみと思った。

蒼都の親父の仕事を手伝ってる関係で、お礼も兼ねてと言われ、俺も良い住まいに低価格で住まわせて貰うようになってはいたが、やはりそれとは比べ物にならないぐらい豪華だ。


 俺はエントランスを抜け、蒼都に教えて貰っている暗証番号を押下した。

どうやら、俺の入力に合わせ蒼都がロックを解除してくれたようだ。自動ドアが開いて、エレベーターが降りてくる。

 俺はそこでも暗証番号を入力して、最上階に近い蒼都の部屋に向かった。


 部屋の呼び鈴を押下する。

 待つこと5分。


 いやに待たされたことに、文句を言おうと思っていた俺は口を噤んだ。

 そこには、やつれ果てた姿の、蒼都が立っていた。

 なんだか、酷い臭いも漂ってくる。


 「入るぞ」


 俺は、蒼都の言葉を待たずに、蒼都を押し退けるようにして部屋に入って行った。


◇◇◇


 『なんだ、この臭い?』


 鼻をつくような刺激臭が部屋中に広がっていた。

 リビングのドアを開け、入ろうとした途端に何かの気配が消える。

 部屋にはゴミ袋が2つあった、だが臭いの元はそこではなく、部屋中央に近い場所のヘドロのような泥から漂っていた。

 

 「蒼都!、なんで部屋にヘドロなんか持ち込んでんだよ!」


 俺は、怒鳴りながら後ろを振り向いた。だが蒼都は一瞬”信じられない”と言う顔をして、膝を地面に付いて泣き始めたのだ。


 俺は困惑し、慰めの言葉をかけ、それも耳に入らないらしい蒼都を放置してヘドロを掃除した。

 ついでにカーテンと窓を全開にし、ゴミをダストシュートに捨てに行った。

部屋に戻ると、蒼都は落ち着きを取り戻していた。


 「何があったんだ、全部話せ」


 蒼都はぽつりぽつりと話し始めた。


◇◇◇


 僕は、少々腐っていた。

 だってさ、見るからに怪しいおっさんに運命の恋人扱いされて貞操が危なくなったり、ドンパチやって逃げてきただけでも疲れたと言うのにさ、帰ったらモザイクが掛けられてはいるものの、僕とおっさんのやり取りがツイッターとYouTubeで流れているんだぜ?

 画像見るたびにオエッて感じだし、助けた女の子からの秋波も凄いし。


 『あのさ〜君達はつい最近まで、あの教祖様が大好きだったんじゃないの⁈』


 僕は、イラっとする気持ちをぐっと抑えていたが、そんな時に上畠が合コンに誘ってくれたんだよね。

 上畠は所謂 ”雰囲気イケメン” ムードメーカーでもありお喋り上手な男だ。


 「いいね、それ」


 僕は、上畠の話に乗り合コンに参加した。

 女の子を持ち帰れたのは僕と上畠のみ。

 そのまま盛り上がって4人で呑みにいき、そうこうしてるうちに怪談話になった。

 心霊スポットや、やっちゃいけない事とかその類の事。男も女もどうせその先が欲しいのに、何か言い訳しないと大人の関係になるのは照れ臭いんだよね。


 『ま、どうせそんなのある訳ないんだけどさ』


 僕はタカを括っていた、みーんなちょっとした刺激が欲しいだけだから、酔った勢いで廃ビルに押しかけ、怖がったり叫んでみたりして、いい気分で帰宅した後につい気紛れに姿見の前でお辞儀をしながら右を向いた。


 『あはは、発祥は2ちゃんねるの怖い話みたいだけどさ、マジそんなのが出てきたら笑うって!』


 僕は笑いながらリビングに入った。

そうしたら居たんだよ、話通りのヤバい女がさ。


◇◇◇


 そこまで話して顔をあげると、そこにはとても気の毒そうな顔をした悟の姿があった。


 「だから、マジで出たんだって!」


 僕は、一時的なヒステリーを起こしながら叫んだが、悟は気の毒そうな表情を全く変えずに僕に言う。


 「なんもいねえじゃん」

 「だから〜!悟が来るまでは居たんだよ!」


 その言葉に悟はハッとしたような顔をするも、すぐに笑顔になって言った。


 「牛丼を買ってきた。まずは腹ごしらえしてから考えねえか?部屋の臭いも大分マシになったし、これなら飯も食えるんじゃね?」

 「そうだね…」


 僕は有り難く、悟が買ってきた牛丼を平らげ栄養ドリンクを飲み込んだ。すこし元気が出てきた僕は、一度シャワーを浴びさせて貰って髭を剃り、服を着替えて小ざっぱりした所で悟と今後の手を考えることにした。


◇◇◇


 『大丈夫なのか、コイツ⁈』


 それが、蒼都の話を聞いた俺の最初の感想だった。

 世の中は広いから、怪しげなモノの1つや2つは存在するんだろう。

 だが、俺には何故蒼都がこんなになっているのかが理解出来なかった。

 蒼都を問いただそうとも思ったが、部屋に最初に入って時の感覚と、蒼都の首のできものが目に入った。


 『できものはストレスでも出来る、そうじゃね⁈』


 とにかく買ってきたもんを食わして、栄養ドリンクを飲ませる。

 少し元気を取り戻した蒼都を見て思った。

人間、食って寝て外に出て風呂に入らないと病むんだよ。

 そう…蒼都が、今抱えているのは心霊現象じゃなくって単なる神経疾患かも知れないのだ。


 とは言え、部屋に入った時のあの軽くなった感覚は本物だし、呑んで調子こいたとしてもヘドロを部屋に持ってくるのはなんか変だ。持ってきたり撒いたりしたら、色んなとこにヘドロが散ってると思うが、綺麗に人1人分だったしな。


 「蒼都、お前は顔が広いだろ?親父さんのツテもある。グループLINEやメールでとにかく情報を集めろ。親父さんにも頼れ」


 コクコクと頷く蒼都。


 「俺もちょっと席を外す、分かりそうなヤツに頼ってみるわ」


 俺は、蒼都を残して電話を掛けに行った。


◇◇◇


 「悟っちぃ、元気ぃ?」


 変人の甲高い声が、俺の耳を劈いた。

 痛え。

 コイツの名前は”北条葵”

 だがコイツの風貌は、華奢でも可憐でもなかった。

 言うなれば、バキ童を何発か殴ったようなご面相だ。だがコイツは俺と同じIQで機械系に才能があった。

 こないだツイッターとYouTubeに動画をあげたのもコイツだ。蒼都部分の加工は完璧に仕上げられており、あれだけバズったと言うのに、未だ関係者以外には蒼都だと特定されていない。


 俺は、耳から少しスマホを離し音量を調節してから電話の向こうの変人”北条”に話し掛けた。


 「悪霊を祓う関連のヤツを、おまじないから秘術まで、とにかく情報をたくさん欲しい。今回は報酬も出せると思う」

 「報酬なんて、何処かから貰うから良いよぉ〜それより何?激レア秘術的なのも欲しいのん?」


 キイキイ声に悪意が混じる、コイツは根っからの情報収集家なのだ。


 「ああ、出来るだけ早く欲しい」

 「了解!(ぐふっ)タイムアタックも楽しんじゃうでござるよ(ぐひっ)」


 北条は、キショい嗤い声を残して電話を切った。


 --10分後。

 例の場所に送って置いたからアクセスしてちょ♡


 葵



 キショいSMSが届いた。


 『早えな、おい!』


 Googleフォルダを見ると、情報が綺麗に区分けされて入っている。

 見ているうちにフォルダが増えた、どうも付け足してくれてるらしい。

 俺は蒼都がダチや親父さんと連絡を取っている間に、フォルダ内の文章を頭に叩き込んだ。


 「悟っ!」


 蒼都の、泣き出しそうなデカい声で集中が途切れた。


 「うちの…僕も子供の頃に逢ったことがあるんだけど…お世話になってる寺の尼僧さんの方から親父に連絡があって『蒼都さんに何か遭ったかも知れません』って言ってるって!」

 「マジか!!」


 俺たちは早速、蒼都の実家にタクシーで向かった。


◇◇◇


 --都内某所。

 タクシーで、10分も掛からない場所に蒼都の実家、そしてそこから5分程歩いた場所に、問題の寺があった。


 蒼都の親父さんお袋さんは、蒼都を見て真っ青になって心配しているが、え⁇何⁇なんで俺と蒼都のみで来いって尼さんが言ってんの?


 「西園寺君、…報酬は弾むからどうか一緒に行ってやって欲しい」

 「そんな…バイトさせて貰ってるだけで充分で」


 俺が、言い切るまで待てないのか、蒼都の親父さんは必死の面持ちで話してくる。


 「既に振り込んで置いた。足りなければ2倍でも3倍でも、いや10倍でも払う」


 あの、幾ら振り込んだんですか?

 なんてことを聞ける訳もなく、俺と蒼都は歩いて5分の距離なのに、運転手付きリムジンに乗せられてしまった。


◇◇◇


 俺は、蒼都の家が世話になっていると言うぐらいだからと、無駄に豪奢な寺を想像していたのだが違った。


 ちょっと大きな一軒家に、人が頻繁に出入りしている。実際、俺と蒼都が門を潜ろうとした時も、管理職風の知らないおっさんに声を掛けられたしな。


 「懐かしいなぁ、こっちだよ」


 蒼都に付いていく俺。あれ?蒼都…お前随分と楽そうな顔してねえか?

 俺は首を傾げながら、古めかしい門を潜った。


 玄関を通ってすぐの襖が開いていた。

 12畳ほどの畳み部屋に、デカい仏壇が置いてあり、仏壇の前に座布団をひいて一心に経を唱えていた尼僧が振り向いた。

 尼僧は一瞬固まるも、すぐに柔らかな笑顔を浮かべる。


 『上品な婆さんだな』


 素直に俺はそう思った。だが、尼さんが一瞬酷く疲れた表情をしたのを、俺は見逃さなかった。


 「大丈夫ですか?」


 俺が、尼僧に駆け寄ろうとすると尼僧がそれを制した。


 「大丈夫…それより西園寺悟さん、貴方は大丈夫なのですか?」

 「?」


 なんのことだ?

 俺が、尼僧に問いただそうとすると、尼僧が蒼都に話し始めた。


 「…蒼都さん、貴方の怪異は10日ほど前から始まったのね」

 「はい」

 「本当は、直ぐに貴方のお母様にご連絡しようと思ったのよ?でも貴方は子供の頃から好奇心が旺盛で…旺盛過ぎて余計なことをいつもしちゃって悪いことになっちゃうから…先生、ちょっと懲らしめるつもりでほっといたのね」

 「…」

 「でも急にとんでもなく悪くなって、“ しまった“ そう思ったら、消えたの。まだ怪異は存在してるのに、存在が把握出来ない。先生オロオロしちゃってね…そうしたら貴方のお母様から電話があったから、“ 今、蒼都さんと一緒にいる方も連れて来てください“ そうお願いしたのよ」


 へぇ、蒼都がいつも悪運を呼んでるってことか?

 前は、そんな噂も聞いたような聞かないような…

 俺が考え込んでいると、尼僧の凛とした声が響いた。


 「西園寺さん、貴方は自分が運が悪いって思っていますね?」


 突然の言葉にドキリとした。


 「…違うんですよ。貴方は確かにここ一番で力を出せない。でもそれは貴方の“思い込む力“ が強すぎるんです」

 「それはどう言うことですか?」

 「貴方の守護霊はとてつもなく強い。…それでも…西園寺さん、貴方の“思い込み“ の方が強いんです。“失敗したらどうしよう“ そして必ずその通りになる。そうでしょう?」


 確かにその通りだ。


 「貴方の“想いの強さ“は、最強に近い貴方の守護霊を凌駕します。だから必ず悪いことが起きるのです。…もっとも、東大に不合格だったのは、貴方の守護霊の意図なんですが。…滑るのが運命だったのです。何故なら貴方は…」


 そこまで話して、急に尼僧が無表情になった。

 蒼都からは恐怖が伝わってくる。

 蒼都が叫んだ。


 「なんで僕なんだ!上畠だって一緒に心霊スポットに行ったし、あんな儀式は好奇心でやってる奴だって多い筈だあぁあ!どうしてなんだあぁああ‼︎」


 すると蒼都のいる右側から、変な声が聞こえてきた。


 「ドボシッテ…ドウチッテ…ドウ……ドウシテ…」


 俺は右側を向いた、蒼都の直ぐ隣に立ち腰を曲げて、蒼都の顔を覗き込んでいるボサボサの長い髪の女がそこにはいた。

 女は呪文のように“ どうして“ と繰り返しながらニタニタと嗤って、顔にいっぱい貼り付いているお札を捲ろうとしていた。

 パニックを起こして、腕を滅茶苦茶に振り回そうとした蒼都の腕を掴んで俺は言った。


 「あの…俺お化けって初めて見たけどさ、蒼都も尼僧さんも、なんでこんなのにビビってんですか?」


 俺は、中途半端な敬語を使って話した。

蒼都と尼僧さんはポカンとして俺を見ていて、表情にうっすら俺への恐怖も見える気がする。


 『なんでだよ!』


 イライラしながら俺は叫んだ。


 「だってコイツ、プルプルしながら人の顔覗いてるだけでしょ?後は変な土残して消えたり、オウムみたいに話したり、蒼都の首に湿疹起こすぐらいでしょ?男なんてヤンキーに絡まれた方がよっぽど酷い怪我しますよ。てかコイツ性格悪くないですか?大したことも出来ねえのに蒼都や尼僧さんがビビってるからって、わざとらしくお札捲って楽しんでるんでしょ?」


 俺は、呆気に取られている蒼都を押し退けて女に言った。


 「てかさ、なんでお前死んだの?」


 プルプルしていた女の動きが止まった。


 「アンタが、生前どんな酷いことされたか俺は知らねえよ。でもさー、死んで全然知らねー人間驚かしたり傷付けたりしてんだもんさー、性格は十二分に悪かったんじゃね?大体歯も磨いてないだろうに、そんなに顔近づけてんじゃねぇよ。口臭とか気にならないの?だから嫌われるんだよ」


 ずいっ、俺は女の方に一歩進んだ。

 女は逆に後退り始める。


 「てかさ、その札の下見て欲しかったんだろ?俺が見てやるよ。でもさ、その札ファッションで付けてるって訳じゃないよな?もう効力はな」


 俺の言葉は、尼僧さんに遮られた。


 「西園寺さん、新しい札はここにあります!」


 俺は、尼僧さんから受け取った札を掴んで女に飛び掛かった。顔から何枚ものお札を一気に引き千切ると、意外にも綺麗な顔が出てきた。


 バシッ!


 俺が、女の顔に乱暴にまとめてお札を貼った直後だった。


 パァン!


 尼僧の柏手が、響き渡り辺りが白く輝く。同時にその強い光に押されたのか、女が苦しそうに消えていく。


 「おい!変な土は残して行くんじゃねえぞ!」


 俺の声が届いたのか、女の後を追い掛けるように土も消えた。


◇◇◇


 その後が、結構大変だった。

 尼僧さん(寂静さんと言うらしい)は、安心してぶっ倒れるし、蒼都の親父さんとお袋さんはおいおいと泣いて、成功報酬として既に振り込んできてた1000万の10倍振り込もうとしたりで、もうてんやわんやだった。

 だが、怪異はもう完全に消えたと寂静さんは言った。


 なら、やることは1つしかねえよな〜


 「蒼都の快気祝いに、焼肉とビールでも食べに行こうぜ!」

 「いいね!」


 蒼都の親父さんやお袋さんは、もっと良い物を用意すると言ってはくれたが、せっかく開放感を得られたのに、気取って食うのは疲れるしな〜


 俺らは、安い焼肉チェーン店でたらふくビールと焼肉をキメた。

 勿論これは蒼都の奢り。まぁこのぐらいなら、働いた報酬としちゃ丁度良いよな。


◇◇◇


 ーー後日。

 僕は、悟に頼んで北条葵君を呼び出して貰った。

彼にも活躍して貰った訳だし、何かお礼をしたかったんだ。


 『うわ…ぁ…』


 北条君は古に近い見事なオタクで、話し方もそれっぽい。しかし金は受け取る気がないらしい。幾らでも手に入るからと嗤うので少しばかり怖くなったが、彼の申し出で収入源が分かった。


 「ニ郷チャンって呼んでも良い?、チミがこないだ聖山教で体験したことを同人誌にしたいのよん」


 そう言って、北条君が見せてくれた代物は…

 聖山教のあのヤバい教祖が、見事なオタク好きそう美少女に生まれ変わらせられていた。

 僕は、少しばかりの頭痛を覚えたが、逆にこうやって美少女化にして貰えた方が、僕の嫌な記憶も塗り替える事が出来るかも知れないよね。


 僕はしぶしぶ許可を出した。

 女の子が、可愛かったってのはやっぱりあるよね。

 そして気になっていたことを聞いた。


 「あの…貰ったデータには秘術とかも入ってるんだろう?あのままにしといても構わないのかい?」

 「いいよん♡話のネタに欲しかっただけだし、それよりもなんだけど…」


 北条君は、オタクリュックから1つのUSBを取り出した。


 「これは呪いのUSBと言われてるモノなんよ。ニ郷チャン、このUSB欲しかったらあげるよん、その代わりまた話のネタに…」


 スマホにいきなり着信があった。

 僕が反射的に電話を取ると、


 「いけません!」


 寂静さんの大きな声が響いた。


 「蒼都さん、全く貴方って人は…あれだけの目に遭ってまだ懲りていないのですか!呪物から今すぐに離れなさい!」

 「で、でも、持ってきた北条君はなんともないよ?」


 僕が弁明しようとすると、寂静さんが言った。


 「そこにいる方も、…普通の人ではないのです…西園寺さんと違い、ナニカを退けることは出来ませんが、その代わりにナニカの影響を全く受けないのです」


 僕は、並んで僕を見ている悟と北条君をチラ見する。


 『悟って、大学の学生全部が見てる、あの部室の霊も見たことがないんだよね…』


 僕はそっと溜め息を吐き出す。


 『でも、悟は女の霊は視ることが出来たんだよね。…それなのに北条君は視ることも出来ないのかよ』


 やっぱ、生きてる人間が一番怖いのかも知れないね。


(続)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

また巻き込まれちゃいました じぇーんどぅ @jane_doe1

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ