第2話 宗教に潜入してみちゃいました


 新興宗教が、大学で幅を利かせはじめた。

 これはいつの時代もそうかも知れないが、暇な学生は色々なことを考える。


 俺の友人もやられた。

 宗教で体調良くなったとは言っているが、俺から言わせれば生活習慣が良くなっただけじゃね?だし、色々言っているが結局は『勧誘してきたヤツが色男だから』と言う理由に過ぎなかった。

 俺は女友達を放置した。付き合ってらんねーよもう。

 そう思っていたのに蒼都がいいやがった。


 「良いな〜と思ってた子が、聖山教にハマっちゃってさ〜」

 「マジ?その子のこと好きなの?」

 「うん、結構好きだよ!、だから変な噂はちょっと心配だったりするんだけどね。悟なら聖山教での様子探れたりする?」


 俺は、その言葉で立ち上がることにした。

普段世話になっている恩返しだ。単純に俺はそう考えていた…


◇◇◇


 俺は、女友達の口車に乗る振りをして聖山教と接触した。

 聖山教はエグかった。

 いきなり俺のアパートに女をぞろぞろと連れてやってきた。

 しなだれかかる女、なんの宗教なんだよコレ?

 俺は内心呆れたまま、幹部だと言う若い色男に付いていった。

 勿論だが、蒼都から考えると数段劣る。しかし、モテない女から見るとこの程度が丁度良いのだろう。


 聖山教本部もエグかった。

 信者らしき人間達が、必死で修行をやっている。

 しかし俺はなんからかんたらの恩恵により、全ての修行が免除であり、直ぐに女があてがわれるそうだ。なんだそれ?


 俺が雰囲気イケメンに説明を受ける間も、信者は奇声をあげながら修行とやらに勤しんでいる。


 全てが面倒くせえ!


 しかし、恩あるニ郷家及び蒼都の為だ。適当にするわけにもいかなかった。


 「私は、ここで何をすれば良いのですか?」


 丁寧に俺が言うと、雰囲気イケメンが嗤った。


 「貴方は、主に武器の調達や海外との交渉で活躍していただければ良いですよ」


 背中に冷や汗が流れた。

 体質的に顔に出ないのが、これほど有難いと思ったことはなかった。

俺は適当に次回も会う約束をし、次は『有力者の御曹司を連れて行く』そう言って教団を後にした…


◇◇◇


 「…で、俺も行くことになったの?」


 女連れの蒼都が言った。


 「ああ。って言うかさ…」


 俺は蒼都の手を引いて、人目のない場所まで連れて行くと叫んだ。


 「好きだって言ってた女はどうなったんだよっ!」

 「え?どの子?」


 どの子ってなんだよっ!


 「聖山教にハマったとか言う…」

 「あ〜、あの子?、僕より真面目系イケメンのが好きみたいだし、よーく考えたらそれはそれで幸せなんじゃないかな〜と…」


 マジ…かよ…

 俺は激しく脱力しかけた…が。

 いいや、違う。

 女の子をあんな所に置いといちゃダメだろうがあああ‼︎


 「なに?悟、あの女の子のこと好きだったの?」


 ちげーよ!


 「まぁ、悟の好きな子なら仕方ない。助けに行こうよ」


 俺達は、何かが食い違ったまま聖山教に潜入することになった…


◇◇◇


 雰囲気イケメンに蒼都を紹介したところ、あっさりと受け入れられた。

 まぁ、そうかも知れない。

 蒼都には有力者の御曹司と言う特典だけじゃなく、キラキラ族特有のオーラがあった。

 しかし俺は、このキラキラオーラは教団の女はともかく、男や教祖にはウケないのではないかと心配していた。


 『やっぱりか…』


 女信者や女幹部の媚を含んだ声に、雰囲気イケメンは機嫌を損ね始め、露骨に言葉の端々にトゲを入れてきたのだ。

 俺は焦った。


 『ヤバい。俺達はこのまま追い出されるかもしれない』


 しかし、俺の心配は杞憂に終わり代わりに別の心配が生まれた。

 お世話にも容姿が良いとは言えない教祖から熱視線を感じる。

 それは俺の頭を素通りして、一心に蒼都に注がれていた。


 『マジか?教祖は両刀なのか?』


 チーの者を、極限までむさ苦しくしたような教祖は蒼都を指差し厳かに告げた。


 「私の神力が告げている。…この者こそ、我が後継者に相応しい…!、何故ならば私達は前世で双子であり今世でも魂の双子だからだあぁあ!」


 『いや、アンタ、その設定は無理がありすぎねえか?』


 俺が心のツッコミをする前に、周りの幹部や信者共がおいおいと泣き始めた。

 皆、その設定でも良いのだろう、本当に宗教は恐ろしい。

 気付けば教祖まで泣いている、なんでお前も泣いてんだよと俺の心は叫んでいるが、なんでもない風を装い微笑して言った。


 「やっぱりそうだったのですか…ニ郷君と私は大学に入ってからの友人なのですが、私にはない神々しいものをずっと感じておりました。そして私はこの教団に来て教祖様の御姿を見て確信したのです!これが私がずっと感じていた力の正体なのだと!」


 おおっ‼︎


 信者たちが大泣きしながら鬨の声をあげる。

 なんと教祖まで鼻水を垂らしながら鬨の声をあげている。

 一瞬、凄い顔で蒼都が俺を睨んだが、俺は無視して続ける。


 「本日、お忙しい教祖様が教団にいらしたのもクシュリナーダ様のお導き…、さぁ教祖様、今宵は再会の宴を開こうではありませんか‼︎」


 わー‼︎


 …大歓声の中、俺の演説は終わった。

 蒼都にそっと近付いて、彼の尻ポケットに改造レコーダーを忍ばせてやる。

 そして小声で耳打ちした。


 「上手くやれよ」


 蒼都は再び凄い顔で俺を見たが、俺は意に返さなかった。


◇◇◇



 『悟め…』


 その辺の小汚いおっさんにキラキラのインド服を着せたような教祖と、ゴージャスでスイーツな部屋に2人きりにされてしまった僕は、心の中で悪態を吐いた。


 僕の名前はニ郷蒼都。とある有名企業経営者の跡取り息子だ。

 悟とは大学で仲良くなった。

 悟には前から興味あったんだよね、僕。


 「アイツ、IQ180なんだってさ〜」

 「へ〜、なんでうちの大学来たの?」


 うちの大学だって有名私大ではあるけれど、そんなIQの持ち主ってさ、普通は東大や海外の大学行くよね?


 『見た目はそんなに悪くないよね…フツメンに賢さを加えた感じ』

 『洋服は安物だけど、基本的にシンプルだよね…』


 そう思って観察してたら、僕がとても気にいってる人型キーホルダーを悟も鞄に付けてる事が分かったんだよ。


 僕は迷わず声を掛けた、人懐こっさは僕の武器の一つだからね。

 あっさり悟が付いてきた時は、ちょっと拍子抜けしたっけな…


 その後、やっぱ悟は金持ってないんだなって分かったから、親父の仕事を紹介してみたら、すげえ堂々としたプレゼンだったって、親父が舌を巻いていた。

 なのに報酬を支払ったら、滅茶苦茶ビックリしてたっけな。


 金の価値は知らないんだな〜って正直に思ったよ。

 悟の提案書のお陰で、親父の会社が幾ら儲けたか知ったら、あの報酬でも渋いんだって理解出来るのかな…天才くんはさ。


 …いつしか僕と悟はつるむようになった。

 悟は、気が合うだけじゃなくて僕の弱点を補ってくれる奴だった。

 もっとも…


 『僕の悪運は暫くなりを潜めているから、マジでこの先も付き合っていけるかは心配なんだけどね』


 そんな風に思っていたら、今回の聖山教の騒動に巻き込まれた。


 『ああ、またか』


 素直にそう思ったよ。

 しかもかなり大規模だ、マジで命がヤバい奴じゃん!

 即座に思ったけど、悟の好きな子が居るって言うなら仕方ない。多分僕と居ると、この先も色んな事件が起きるだろうし、先に恩を売っておこうと思ったのさ。


 なのに…

 危なくなってるのは、僕の貞操じゃん‼︎


◇◇◇


 教祖は、天蓋付きのメルヘン極まりないデカいベッドに厳かに腰掛けていた。

 こんなベッドに腰掛けといて、厳かぶれば色々誤魔化せると思ってるんだろうな〜と思ってたら直球が来た。


 「実は、先程皆の前では伝えて居なかった真実を告げる」


 なんだろう…


 「私と其方は、前世では“双子の兄妹”。禁じられた恋でもありました。兄様……今世でもまたお会い出来るとは…クシュリナは嬉しゅうございます…」


 『待って!

クシュリナってたしか男神だよ?

って言うか、君が妹側⁈』


 「前世では兄妹で、結ばれない運命でした。でも、今世は血は繋がっておりませぬ……兄さま……口キッスしてくださいませ…」


 クシュリナと名乗るおっさん教祖は、ぶりぶりしながら言い放つ。


 『待って、待ってよ!

今世だって君と僕は男と男で…』


 そんな僕の気持ちを読んだように、教祖が更に言い放つ。


 「今は、…便宜上男の姿をしておりますが、神通力で子は成せます…」


 『じゃあ、初めから女の子で居てよ!』


 僕は冷や汗をかいていた。手のひらにもぐっしょりと汗が滲んできて、それをズボンの後を触ることでさりげなく拭おうとして、悟のくれたレコーダーに触った。

 頭が、パニックして忘れていた機械の手触りに、口元が微かに緩んでしまうのが分かる。

 僕は、慌てて表情を引き締めて、先ずはベッドサイドを足で触った。

 思った通り、引き出しになっている。

 出来るだけ魅力的に見えるように笑顔を作って言った。


 「クシュ。ちょっと目を瞑って下を向いていてくれるかな?」


 教祖は、可愛らしくはにかんで目を瞑って俯いた。

 頬はピンク色に染まっている、怖い。

 僕は教祖が俯いているうちに、ベッドの下の引き出しを開けた。


 『う、わ…ぁ…』


 僕は、その内容にドン引きした。明らかに教祖の趣味なのだろうがあまりにも酷い。

 しかし、…だからこそ使えそうなものがゴロゴロしていた。


 僕は引き出しの中から特にヤバそうな物を掴むと引き出しを締め、教祖に服を渡して言った。


 「良く、僕の趣味を覚えていたね。クシュ……先ずはそれに着替えて欲しい……」


 僕が歯を見せて笑うと、教祖は頬を染めながら僕の言う事に従った。


 僕は、ポケットに手を回して悟のくれたレコーダーのスイッチをこっそり押下した。

 きっとこれで教祖の痴態を録音するのだろう。

 そう思っていたのに。


 バーン!


 大きな音を立てて乱入してきたのは、武装した男達十数人だった。


 『ヤバい、僕死んだかも…』


 そう思った瞬間に、男たちの後ろから大きな悟の声がした。


 「助けにきたぞ、蒼都!」


 僕は、嵌めていた腕時計を外して男どもに投げつけた。


◇◇◇


 『まだか…』


 俺はとても焦っていた。

 いきなりの、修行中の信者も合わせたパーティにも関わらず、よくもまぁこれだけの食材を用意出来たなと思ったが、あの強欲教祖のことだ。普段からこのぐらいの食いもんは用意させているんだろう。


 俺は、教祖の魂の双子?ってことになっている蒼都の友人だって言うだけで周りの幹部や信者共に取り囲まれており、その者たちに、和洋中の宗教をミックスさせて表面だけをインドにしたようなインチキ教典に、適当に有り難そうなお告げ的ジェスチャーを加えながら滔々と話していた。


 信者や幹部はありがたそうに聞いている。

 再三ヤツらに問いたいのだが、


 『アンタらは、それで良いのか⁈』


 そんな気持ちが拭えない。

 俺は、席を移動するたびスピーカー用の小型機を3、4個テーブルの下に落として置いた。

 仕込みは上々、あとは放送を待つだけだってのに…


 『まだか…もしや何かあったんじゃねぇだろうな…』


 俺の背中を冷や汗が流れて行く。

 そう思ってたら、やっとスピーカーが話し始めた…


◇◇◇


 「クシュ、良く僕の事を10年も待っていてくれたね…その間寂しい想いをさせてごめんね」


 わざとらしい蒼都の声が響いた。


 「いえ、違いますわお兄様。クシュは30年もお兄様をお待ちしておりましたのよ、拗ねても構わなくって⁈」

 「え⁈30歳じゃなかった⁈公式サイトには…」

 「おほほ。ムー大陸の時間に直すと30年。…この世の中の単位に直せば、クシュは生まれ出て50年と言うことになります♡」


 なん…だと⁈

 そもそも年齢不詳の見た目だけどな、あの教祖、ただのチーの者の究極体じゃなかったのかよ!


 「そ、そうなんだね。でも…」


 蒼都の狼狽が伝わってくる、しかし続く蒼都の言葉の方に俺は驚愕した。


 「僕、男の娘よりも男の熟女のが好きだから丁度良いかな♡」

 「あらん♡」


 俺は、口をあんぐりと開きかけて慌てて口を塞いだ。だが周りも、教祖と蒼都の会話に気を取られている。

 凄えよ陽キャ!宇宙人とコミニュケーション取れてんよ!


 「そういえば。…クシュ…強欲な君はどこに行ってしまったんだい?」

 「…なんのこと?…」

 「クシュの教団の経典を読んだんだけどね、宝石大好きだったクシュらしくないなって思ってね♡…前世は綺麗な宝石を良く僕に見せてくれたね。どれも本当にクシュに良く似合っていたのに、今世では見せてはくれないのかい?」


 上手い!

 さすが遊び人の噂がある蒼都!

 でもちょっと早急過ぎてバレねえか?


 …だが、そんなことはなかった。


 「あらお兄様♡♡♡宝石ならここにありましてよ?」


 ザラザラザラザラ〜

 大量の金属が流れる音がした後に教祖が言った。


 「教団の皆がお風呂に入った後にぃ〜髪の毛を回収して真っ黒に染めてからぁ〜同じ大きさに切ってフライパンで炒めて〜ペットボトルに水を詰める時に一本いれて〜“クシュの髪入り飲料水”ってラベルを貼るとみんな買ってくれますの♡」


 マジの核心をゲロしやがった!

 これ。ヤバいやつじゃね?そう思ってたら武装した連中が十数名程駆けて行く。

 俺は彼らの後を追いかけて走った。多分この先に蒼都が居るに違いない。


 「助けに来たぞ、蒼都!」


 俺はデカい声で叫びながら部屋に突入したが、続く言葉は出てこなかった。

 教祖はゼッケン付きの体操服を着ていた。

 蒼都は、右手に鞭のように縄跳びを持って居た。

 俺の世界は、停止しそうになった。が

 次の瞬間に白煙が上がった。


 「遅ぇよ、悟!」


 武装集団の1人に蒼都の飛び蹴りがキマり、一緒に数人が押し倒された。

 続けて正拳、縦拳、裏拳、小手返しと決めて行く蒼都に驚いて叫んだ。


 「お前、武道なんて出来たのかよ!」

 「誘拐され慣れてるからね!それ、今聞くこと⁈」


 蒼都は呆れた声をあげながらも、今度はネックレスのヘッドを引きちぎって投げた。


 ドッカーン!


 マジか?小型爆弾じゃねぇの、アレ?

 ってイカン!正気に戻らなきゃ


 「逃げるぞ蒼都!」


 俺たちは教団を脱出した…


◇◇◇


 ーーその後。

 直ぐに教団は崩壊した。話の内容もアレなのだが、予めパソコン変人の友人に、Twitterと YouTubeに音声&画像アップデートを頼んでおいたのだ。


 蒼都の声にはイコライザーが掛かっているが、教祖の声はそのまま。

 画像も、蒼都だけ他の人間と入れ替えてあるが、蒼都が持つ縄跳びと教祖の体操服はそのままだ。

 普通、教祖がとんでもない事をしても教団は残るものだが、とんでもなさすぎたのだろう…


 俺の女友達も、蒼都の知り合いの女も無事に大学に帰ってきた。

 しかし。帰ってきた女どもの熱視線は蒼都にのみ注がれている。


 『俺だって、お前らを助けに行ったんだぜ⁈』


 蒼都は蒼都で、クシュことチーの者究極体のショックで数日学校を休んだが…

 そのぐらいの痛い目には遭っても良いんじゃねえかな〜クソっ


 全く、イケメン死すべしである。


(続)

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