プロローグ 魔法の国、テルモミレーユ

 バッと一斉に水鳥が飛び立ち、霧が晴れた。

 そして現れたのは、魔法の国、テルモミレーユ。

 目の前に広がる街に、ミナ・イェルマンは思わず歓喜の声を上げた。

 そこはまさに、新たな世界だった。

 果てなき革命を経て、辿り着いた境地。嘗て国の革命の為に戦った神狼の仲間達、リリアンナ・ラディ、シルバー・ライネルと共に旅を始め、向かうは海の遥か先。永遠の地、ヨルムンガンド大陸の極東。

「ここが……魔法の国、テルモミレーユ。」


 ミナは息をごくりと呑み込むと、その景色に釘付けになった。

 色とりどりな軒を揃える果物屋に、雑貨屋、武器屋などなど。

 三角屋根の三階建ての一軒家が立ち並び、間に隙なく敷き詰められた石のタイルは、小高い盛り上がりの大地の上の教会へと繋がる道の様で、華麗な服をきたテルモミレーユの住民達が自由気ままに闊歩していた。

 港から繋がる景色からは、ミナ達の故郷、嘗て「ユートピア」と謳われたフェンリル大陸一の大国、アルカンテネスで見た景色と似たものを感じた。

 

 見惚れていたミナにシルバーが話しかける。

「綺麗な街並み……こりゃ、うちらアルカンテネス国のライバル出現、って感じかな?」

「いや、相手は魔法の国だよ。魅力的にはなんなら負けてるのかも……」


 ミナはその本来の威力を失った”レヴァーテイン”を手で揺らす。

 うっとりとするシルバーに対し、定期的に激しく揺れ動く船に酔っていたリリアンナは、長椅子にもたれかかると口を押さえながら街を眺めていた。

「魔法がどうとか、もうどうでもいいので、この吐き気を何とかしてもらいたいものです……景色について呑気に語れる状態が羨ましいですよ……ウゲェェ」

「あとちょっとだからね。着いたら魔法で治して貰えるかも?」

「もう無理、もう、本当に無理無理……。」

「革命の日、あんなにもかっこよかったリリーちゃんはどこに行ったのやら。」


 さざなみが静かに聞こえる頃、船は徐々に陸地に近づき、手を振るテルモミレーユの住人が見えてきた。

 左手には魔法の国特有の“杖”。アルカンテネスにおける“レヴァーテイン”と同様に、大地の力を源に機能するものなのだという。

 シルバーは笑顔でミナに微笑みかける。

「遂に始まるんだね。私達神狼の、第二章が。」

「うん、そうだね。」

 ミナはこくりと頷き、空を見上げた。

 ――お兄ちゃん、私、冒険に出たよ。

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紅のフェンリル2 魔法の国テルモミレーユ編 水波練 @nerumizunami

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