第3話§プロローグ①§



§プロローグ①§








いつも同じ夢を見る。



二階建ての木造で出来た家を真夜中に大きな石に座り、そのれ出す明かりを見つめる。



それはとても懐かしい風景のように確かに僕の心に小さな灯火ともしびいくつも浮かび上がらせた。




ゆるやかに風が吹いて、フッと空を見上げると月が主役の物語みたいに小さな星の群れは闇夜を輝かしいものへと変えて、その夜空は息を飲むほど美しい。




大きな石から真っ直ぐ行けば玄関前の引き戸があり、その僕から見て左横には埋め立てられた井戸があり、そこには水がられ、大小様々な金魚がいた。



僕は家かられ出す懐かしくて、温かい光にみちびかれるみたいに引き戸を開けた。




引き戸はガラガラと音を立てて開いたが、どうやら中にいる人は誰一人として気づいていないようだった。




うん。やっぱりそうだ。と、納得する。




玄関扉を渡った先の左に階段がある。それは左側にあり、右側はガラス細工ざいくの戸が邪魔をして、その先へ進まないとあの時を見ることは出来ない。




かすかににぎわう声が聞こえる。それはとても心地好く、胸の中いっぱいに感情の波が押し寄せて来て、切なくなる。




僕は中へと入った。玄関でいているくつぎ、それがあたかも夢ではなく、現実のように靴を丁寧ていねいに並べた。



中へと入ると左はキッチンやトイレや風呂場とつながっていて、右は一間ひとまはさんで見慣みなれた光景こうけいを目にする。




平凡でどこにでもあるかもしれない家族団欒かぞくだんらん。その光景を僕は立ち尽くして見つめていた。



いや、見とれていたのかもしれない。



母と父と姉と弟。



そんな構図こうずがすぐに浮かぶ家族構成かぞくこうせいで、立ち尽くす僕の足は一歩一歩何かをおそれるように、そしてまた、何かに期待きたいするように近づいた。




平べったいテレビのモニターの野球中継やきゅうちゅうけいを見ている父にささやかな反抗期はんこうきを見せる姉はどうやら見たい番組があるらしくほおふくらませていた。



母はそんな姉を優しくなだめて好き嫌いの激しい姉がちゃんと食事が取れるようにとうながしている。



弟はまだ幼くお母さんッこなのか、母の近くでちびちびと小さな口で食事をしている。




僕の存在そんざいに、そこの誰も気づかない。




にぎやかな光景だった。そこで立ち尽くす僕はその光景の影であり、まだその記憶にとらわれているのだと思う。



その内、家族団欒の光景があまりにまぶしくて、知らず知らずの内に視界しかいなみだにじみ、あふれたしずくは押し出されて頬をつたう。僕はしばり、うつむき、苦笑くしょうする。



戻れるなら戻りたいと──────




毎日、見るこの夢の終わりには必ずサプライズがある。母が僕を通りすぎキッチンに行く。



あまりに唐突とうとつで弟は理解出来てない。




父は奥のふすまへ向かい隠してあったものを丁寧に取り出す。




そうして、父と母の連携れんけいで、母からは6本の蝋燭ろうそくが並んだ誕生日ケーキと、父から包装紙ほうそうしに包まれたプレゼントが弟、つまり当時の僕に与えられた。




幼い僕は「見ていい?」と包装のふうけようとしていた。母は蝋燭に火をつけながら、「まだだめ」とたしなめて、姉は蝋燭で光輝くケーキを見つめていた。



どうやら食べることを諦めたようだ。姉は元来がんらい、少食であまり食べれない。




蝋燭6本に灯火がつく、父と母と姉は、あのハッピーバースデーの短い言葉を手を叩いて歌い、姉は手元にあるクラッカーを鳴らして、「おめでとう、遥斗はると」と言い、父も母も微笑ほほえみ、「おめでとう」を口にする。



立ち尽くして、うつむく僕はそれからたまらず目をそむけた。もう涙でいっぱいで、心は痛くて悲壮感ひそうかんに包まれている。




幼い僕は包装紙を乱雑らんざつに開けた。その中からは今、流行りの携帯式ゲーム機と欲しかったソフトが入っていた。




僕は、そう当時の僕は幼い顔に幸せな笑みを浮かべた。




一連の流れを垣間かいま見て、声音こわねれ出るほどに僕の心は痛んだ。




そして、僕は囁く───「もうたくさんだ…」と様々な痛みをはらんで───









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