第2話§モノローグ§
§モノローグ§
2015年7月28日───
朝から強い風が吹き荒れて、雨がまるで不吉を呼ぶかのように
こうして姿を現したのは大規模な全ての負を象徴するかのような黒い
それはまるで空に突然現れたどこかの神話に登場する化け物のようだった。
しかし、時に空は雨を優しく降らせてそれを「
だが、7月28日の空は「怒り」や「憎しみ」を地上に
歩道を行き交う人がいなくなり。
虚しく雨粒が強くアスファルトを打ちつける音と道路で車が行き交う音だけが聞こえる。
その街々の
だがその声など取るに足らないように現実は残酷にその小さな声と小さな言の葉を
それが自然の
それが人が作りし、正義と悪を
それが国や法律で作り上げた多くの
──いずれ忘れられていく命の小さな灯火。
生きていた
歩道の横に住宅と魚屋のお店がある。
その立ち並ぶ
このより激しさを
1匹の
その野良猫は薄く瞼を開き、瞳を自身の腹部に向けて何かを伝えるように
その眼差しは「愛」と「不安」で白く
その視線の先を追えば「愛」と「不安」を抱えた瞳の意味がわかる。
その野良猫の腹部では「温もり」を求めるように母のお腹に顔を
子猫は合わせて6匹いるが、残酷なことに母猫に顔を埋めて動いている子猫以外、残りの5匹の子猫は母猫と同様に事切れていた。
まだ母猫の姿さえ、5匹の自分の
しかし、住宅と魚屋の狭いスペースでは誰も発見しないだろう。
まっしてやこの天候。
きっと、その子猫は母猫や姉弟が生きていると思っているのだろう。
だから鳴くんだ。
いつも母猫は子猫を舐めてその顔を
母猫のお腹をまさぐるといつも「温もり」で
その子猫が鳴くと姉弟達も鳴いていた。
だから今も生きている。
母も。
姉弟達も。
でも、なんでだろう?今日は誰も答えてくれない。
だからさらに鳴くんだ。力強く懸命に、必死に母猫のいつもの「愛情」と「温もり」を求めて───
私はここにいるよ?って……
突然の
必死に「みゃーみゃー」と鳴いて母猫を呼ぶ子猫。
自然と現実は心無い無慈悲な風と雨で子猫の体温を、体力をゆっくりと痛ぶるように奪っていく。
フッと母猫とその子猫と姉弟猫達に降り注がれる雨がその
この狭いスペースに壁と壁で囲まれた
そこで
女児は「聞こえたよ、キミの鳴き声。」と幼くて小さな唇で囁く。
女児は鳴き声を上げる子猫を見て、「大丈夫。今からパパとママを呼んでくるから待ってて。」
と言い、傘を母猫と子猫と姉弟猫達に
子猫はずっと、ずっと女児と女児の両親が来るまで、いや、来ても鳴き続けた。
女児の父親は残酷な現実を目の当たりにして、吐息を深くついた。
女児の母親もこの子猫の置かれた環境に胸を痛める。
女児は意味がわからない。
確かにこの目の前で鳴いている子猫がいる。
そして───
その
しかし、女児には目の前の母猫と姉弟猫達が生きているとしか思えない。
死んでるなんて理解したくないのだ。
まだ助かると都合良く思っている。
女児の父親は女児の肩に手を置いて、「一緒に見送ってあげよう…。」と言うと女児の肩に置いた手を女児の頭の上に置き、
そうしてまずは鳴いている子猫を拾い上げて、バスタオルで濡れているとても小さな身体を拭うように包んだ。
その子猫を女児に持たせると父親は薄く瞼を開き、「愛」と「不安」をその白く濁った瞳に
「さぞかし必死だっただろう…。
自分の子供のために必死に我が子を見て……自分の命よりも子供を何よりも生かしてやりたかった…
わかるよ。その目を見たら……。」
女児の母親は鼻を
父親は次々に子猫達5匹をバスタオルにくるみ、最後に母猫をくるんだ。
母猫を抱えると女児の父親は「よく…頑張った……。キミの残した命は大切に…そう、大切に育てるから……
だから……」
「ゆっくりお休み───」
女児の母親はうつむき泣いていた。
父親も泣いていた。
車の後部座席に母猫と姉弟猫達を乗せて、女児は「みゃー。」と鳴く子猫を抱えて車の助手席に乗ろうとした。
母親は後部座席で母猫と姉弟猫達の横に乗り、父親も運転席に乗った。
すると不意にカラスの鳴き声が聞こえた。
女児が抱える子猫もそれに
フッと雨がいきなり止んだ。
風も勢いを弱めた。
女児は陽射しがあたるのを感じて空を見た。
空は不思議と晴れて、暗雲の狭間に大きな穴を開けてそこには眩しい太陽がまるで何かを「祝福」するように、「見守る」みたいな装いで辺りを温かく照していた。
それはまるでこの抱える子猫の定められた運命が
眩しい空を太陽を眺めてると父親が「どうしたんだ?」と運転席から出て女児を見た。
女児の視界に空より一枚の葉がひらひらと舞い落ちた。
その葉は大きな
葉は水溜まりでゆらゆら揺れ、女児の父親は意味がわからない様子で「何かあったのか?」と女児に
女子は水溜まりの葉から視線を離すと首を振り、「ううん、なんでもない。」と答え、胸で鳴き声をずっと上げる子猫を抱えて助手席に乗り込んだ。
そうして車が動物病院へと向かい走り出すと「不安」や「心細い」と感じさせる鳴き声を子猫は女児の抱える胸の中で鳴いた。
女児はさきほどの空より舞い落ちた葉は太陽からこの子猫へのメッセージに思えた。
女児は胸の中で鳴く子猫にひっそりと静かに囁いた。
「キミは太陽に守られているから泣かなくていいんだよ。
きっと、キミの声は太陽に届いたんだ。
だから、雨が止んだ。
キミは私がこれから守る。
私の言葉がわかればいいけど……だからキミも聞かせて。
キミの言の葉を……」
子猫は「みゃーみゃー。」と相変わらず鳴いている。
なんだかそれが女児に問いかけてくれる言の葉みたいで、女児は思わずその意味を聞き返すみたいに。
「キミの言の葉は───」
と静かに答えのない問いかけをして、胸の中の子猫を
母猫が必死に守った命が繋ぎ止められた。
それは「愛」と「不安」の中で自分の子供を自分の命に変えても守ろうとした母の想い。
母猫の命が絶えても注がれた「愛」。
それは「変わらない愛」で我が子の命を繋いだ母猫の短い命の軌跡の
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