第一章 3話

 一時間もかかることなく突如現れた仮面の男によって、Cポイントの部隊が全滅させられたことを聞かされた時、私は多分驚いていたのかもしれない。

 

 だけれど数千万という大規模の兵士を全世界に送り込んでいる為、早急に全部隊が全滅するとは思っていなかった為、私は第三者からは冷静に見えるだろうという姿で思考を巡らせながら対抗策を考えていた。


 とりあえず各地にいる部隊には、エリア制圧を早急に完了させるよう指示をだした。


 仮面の男の行動速度がどれ程のものかは不明だった為、各地へと向かう途中に妨害工作でも行って時間を稼ぎしようと考えていた。


 完全な妨害を施すことは恐らく、戦闘力的に現状の戦力だけじゃ無駄な足搔きでしかないので、準備を行う必要があった。


 「本部に増援を要請してちょうだい、仮面の男を倒せるかもしれない強化兵士と、超兵士の両方が欲しいとも付け足してね」

『了解』


 とりあえず手っ取り早い対抗策として、本部から戦闘力を人工的に身体能力を高めてくれる薬と機械によって強くしている強化兵士と、もしくは非科学的な現象を引き起こせてしまう潜在能力を秘めた超兵士に助けてもらうという方向で試してみることにした。

 

「自らの力だけでどうにかされないのですか?」


 仮面の男への対抗策を聞いていた無能な監視役が、私の後ろから嫌味を飛ばしてきた。


 「あなた、私の戦闘力を知らないわけないでしょ?」

 「それはもちろん、幹部でもない私が本気を出さずに倒せてしまう程に弱いことは重々承知しております」

 「とても無礼な言い方してくるじゃない」


 一口飲んだ紅茶を皿に載せてから椅子を回転させて、監視役のことを睨みつけているかのように無表情で見つめていた。


「もしかして君、あの者が地球に存在していることを知っていたのかしら?」


 異動した際、嫌な上司からは一言も地球の情報を聞かされていない、多分私が盛大に作戦を失敗させることが目的でしょうね。

 だとしたらこいつは何かしらの情報を持っているんじゃないかしら、だってこの監視役は嫌な上司から派遣されているわけだし、事前に地球のことも何か聞かされているはずだわ。


 「いえいえ、私は何も聞かされてはおりませんよ」


 噓ね。

 彼が馬鹿だからなのかは知らないけど、私に噓を隠していますよって表情じゃなくて、何やら薄気味の悪く喜びながら否定している。


 「あっそう、だったら余計なことを私の側で言ってこないで」


 もはや呆れている返答で興味が薄れているんだと思う、私は警告だけ言って椅子の向きを元に戻して、ディスプレイを操作し成始めた。


 普通、直属の部下ではないとはいえ、幹部位でもない彼が上官である私に侮辱させたとなれば多少の怒りが沸き上がり、何らかの処罰を与えるでしょうけど。

 全ての感情が出せないだけじゃなく、心の中で感じ取ることすらできない体質となっている為、あらゆる出来事が全て直ぐにどうでもよくなってしまうから、無視する以外の選択がこの時の私にはなかった。


 偶に無意識の行動で感情を表現することはあるけれど、それは私自身にはよく分かっていない行動だから、第三者任せでなんとか理解してもらうことしかできないけれどね。


 ブゥー! ブゥー!


 おや、先も艦内全体に鳴り響かせた警報音が鳴り始めた。

 仕方がないわね、私の体質がこんな風になってしまっているのかについては、また今度に話すよ。


 ディスプレイを操作して警報音を直ぐに停止させて、オペレーターの子に通話を繋げた。


「報告をお願い」

『はっ! たったいま世界各地にて、Cポイントに現れた人物と同じ力持つ者が現れました』

「……そう、同種が複数人も居たんだね」


 どの感情かは分からない反応をしたけど、直ぐに次の手を考えながら、戦況の確認とらせた。


『被害の方は現在軽微とのことです』

「仮面の男みたいに、一騎当千の威力はもっていないと言うことね」


 まあ、あんな奴と同じ奴が地球に沢山存在していたら、侵略する前から何かしらの情報を手に入れている筈だから、普通に考えればありえないことよね。


「それじゃあ時間をかければ、制圧はできそうなの?」

『いえ、それが……』

「無理なの?」


 通信越しで顔は見えないのだけど、口調から恐る恐るな雰囲気になってきた。


『いえ、不可能とは呼べない障害物なのですが、Cポイントに現れた仮面の男が』


 ホロ画像で仮面の男がいる位置を表示させてもらった。


「もしかして彼、空中を移動出来るの?」


 今仮面の男がいる場所はFポイント、中国にいつの間にか到着していた。


 音速で飛んでいく飛行機に搭乗したわけでもなきゃ、地上を走り、海を泳いで来たというわけでもなく、自らが宙に浮かんで中国にたどり着いたとのこと。


「そう、音速並みに飛んでいける能力を持っていたとなると、ロボット&機械兵が全部全滅するのも時間の問題というわけね」

『おっしゃる通りかと思います。

 いかがいたしましょうか、パラメラ様』


 口調が常に平常心となっているお陰か、オペレーターの彼は少し落ち着いた感じで私から指示を仰いできた。


「ひとまず撤退する準備に入ってちょうだい」

「『て、撤退ですか?』だと!?」


 うん? 今も物凄く驚いたのはオペレーター君じゃないよね、てことは監視役の声かしら。


「何をそこまで驚くことができるの?」


 顔だけを監視役の方に振り向いて、とりあえず聞いてみた。


「アレアバ帝国の幹部として撤退行為は許されないことですよ」

「何を言うのかと思えば、そんなことを気にしていたの?」


 それってたしか大昔に武人の心を持った戦士達が広めた碌でもないプライドじゃなかったかしら、だったら科学者である私には関係のない話じゃない。


「そんなことを言うのなら、あなた今すぐに地球へ降りて玉砕しに行ってくれるのしら?」

「え?」


 私の反論に、コイツ何を言っているんだ? って感じで驚いていた。

 

 言っておくけど私は何もせずに撤退する訳じゃないわよ、全てのロボット&機械兵を地球に全て降下させて、艦隊は全てを撤退する予定でいた。

 あいつらは無尽蔵に補充が効く道具だから、玉砕覚悟で暴れまくりながら、仮面連中の戦闘力データを送信してもらうという指示をこの後に出す予定だったのだけど。


「あなたが戦えるなら、あいつらの戦闘力データをなるべく採取してきてもらえるかしら?」


 消耗兵を消費せずに、コイツがある程度のデータ入手してくれるなら、多少の儲け物になるわね。

 

「あ、いえ、それはちょっと……」


 あらら、大口叩いてた癖に、弱腰になっちゃってるよこいつ。

 まぁ、理由は多分仮面の男に怖気付いたからでしょうね、2回目の警報音が鳴り響く前に彼の戦闘を見ていたのだけど、あれは幹部位が10人か20人位でかからないと倒せないレベルだと思うわ。


「そう、じゃあ撤退することに余計な文句はないわね?」

「はい……」


 まだ何か言いたげな顔で私に睨みつけてくるけど、当然私はそれを無視して、先程説明した作戦で撤退指示を全艦隊に送った。


 ……。


 無能監視役とは違い、他の者は私の指示には従順で動いてくれて、残り10分程で撤退の準備が完了する。


『パラメラ様』

「何かしら?」


 喋らなくなり、暇をしていた監視役に淹れてもらった紅茶を飲んで、完了の報告を待っていたのだけど、早い報告ね。


『被害状況についてご報告なのですが、Fポイントの部隊が全滅しました』

「そう、船の被害とかはでたの?」

『いえ、船は無事に大気そうからの離脱には成功しています。

 艦に関しましては、被害は1つも無しとのことです』

「それは良かった」


 兵はどうでもいいのだけど、消耗品としてはそこそこデカい軍艦を沈められたら、確実に私は軍法会議にかけられて位を剥奪されてしまうでしょう。

 それに今後も兵器と兵士の輸送の為には、軍艦は必需品だから、こんな所で1つも失うわけにもいかない。


「報告ありがとう、引き続き各艦には気おつけて、撤退を完了させてちょうだい」

『はっ!』


 とは言ったけれど、この後にきた報告は全て、降下部隊の被害か、各艦の準備が完了したという報告だけだった。


『準備完了です。パラメラ様』

「はいはい、ご苦労様」


 最後の報告を聞いて、テーブルの上に付いているホロスイッチを押して全艦隊へと通話をつなげた。

 個人的に面倒な役割なのだけど、司令官である私が艦隊への指揮を出す必要があるのと、行動目標の再度確認を説明する役目も私が勤めきゃいけないから、こうやって全艦に通話を繋げたわけ。


「向かう先は月の裏側、地球からは見えない軌道にまで撤退。

 しばらくの間艦隊はそこで停泊となるのだけど、地球には偵察兵とデータ収集兵器を送り込んで、あの連中への対策兵器を完成させたらまた地球侵略を再開させましょう」

『『はっ!』』


 よかった。

 誰一人、私の作戦に異議を唱える奴がいなくて一安心となり、艦隊を月へと撤退させることに無事成功した。


 それから5日後、偵察兵から全てロボット&機械兵達が全滅したという方向を受け取った。


 ――


 私の初陣だった侵略作戦が、見事に失敗してから早一年半が経過した。


 今は地球に仮面の男とその他達の戦闘データを取集する為、専用の機械兵器作ってを送り込んでは破壊され、再び作って送り込んでは破壊されの繰り返しを続けている。

 一見すると侵略進行が順調そうに見えないかもしれないけれど、作戦は問題なく進んでいるわよ。


 もうじき戦闘データ取集完了し、対抗策兵器が完成するんだけど。

 実はこの兵器完成するの、私の予定していた時期よりも大分遅れているのよね、あの嫌な上司から課せられた条件のせいでさ。


(作戦失敗の処罰に関して陛下が、お前なんかの為に免罪として可決させるようにとのおったしがきたのだ、処罰の代りとして地球を兵の増援無しで支配してみろ)と難易度上げる条件を押し付けやがったから。


 ただまぁ、時間はかかってしまったけれど、他に問題が発生することなく準備はもうじき完了する訳だから、いつまで根に持っているのはよくないと聞くからね。

 といっても最初から根を持ってはいなかったから、あの上司が期待してそうな失敗にはなるわけがない。


 それから地球の情報も常時収集させていて、特に仮面の男と他連中についての情報は、陛下への手土産としては十分な程だと思うよ。


 彼らの体内には数千億年前、創世神プライミリティが全宇宙にばら撒いたエデルタルていう力の源を仮面の男と他連中に宿っている事が分かった。

 

 エデルタルは単体じゃなんの力はなく、動力で駆動しても大したエネルギー源にはならない代物なんだけど、あれの本領発揮は生命体に宿ることで力をできるらしい。


 例えば手足などからビームのような物を発射したり、通常の身体能力から数百倍にまで増幅したり、物質を様々な形に変異させたり、自身も含めた他の物を宙に浮かせて移動させることも出来たりと様々な現象を引き起こせる。


 一見凄そうに聞こえるかもしれないけど、エデルタルは個々によって発揮できる力が限られるらしく、弱い奴なら一般人と変わらないとのことだ。


 因みに仮面の男が発揮できる力は先に語った項目全て使えて、強さも1から10までのレベルで分かりやすく説明すると、彼は10、いやもしかしたら陛下と同等かもしれない。


 そうだとしたら現状の戦力で勝てるとは到底思えないんだけど、実は彼らには致命的な弱点を持っている。

 それは地球人であることだ。


 エデルタルは無限に宿した者の力を増幅させられる力ではあるけど、人間という原型を失いたくない者多数である為、常識を超え、神に近い存在へと変えるという強制力はないんだよ。


 数千万はいたロボット&機械兵をたった一人で壊滅させられる仮面の男は神に近いかもだけど、未だに地球から離れて攻撃を仕掛けていないとなれば、彼はまだギリギリの所で人を止めているんでしょうね。


 となるとさっきの実力レベルは10で間違いないかもしれない、陛下の実力は正に神の化身って噂だし。


 いけない、いけない、このまま語ると日が傾きそうだから、話しを進めるわね。


 私達はエデルタルと呼んでいるんだけど、地球ではエデルタルのことを知らないのか、名称はなく、仮面の男達のことを超上種と呼んでいるらしい。


 安直すぎるネーミングだけど、どうやら人数はそれほど多くないらしく、更に実力のある者となるともっと限られている人数しかいないとのこと。


 前までは個人で活動をしていたらしいけれど、私達の侵略によって組織化され現在は世界政府の管理下においてヒーローと名乗り、定期的に降下させてるデータ収集兵器の対処と、以前からやっている個人活動を行っているようだ。


 一年半もかけて人手した情報と、経緯はここまで。


 あ、あと最後に仮面の男について教えておくけど、情報は厳重に隠されている為、公開されている情報しか入手できていないわ。


 ヒーロー活動に関しては、データ収集兵器が降下してきた時にしか活動していないようでね。


 以前は手作り感が強い仮面にボロボロの私服だったけれど、現在は世界中の技術者が制作したスーツと仮面を身にまとい、マジェイとヒーロー名を名乗って地球を守っているらしい。


 うん、何処かで聞き覚えのある名前じゃないかって?


 まあ、彼についてはもう少ししたら紹介してあげるから、待ててちょうだい。


 ここまで語って分かる通り、戦況に変化はないのだけど、状況は刻々と逆転できる状況だったのよ。


 余計なアクシデントさえ起こさなければ、私が作戦スムーズに進んで、地球を支配することができたかもしれなかったのに。


 ビー! ビー!


『緊急事態発生、緊急事態発生、パラメラが裏切った。

 繰り返す。

 パラメラがアレアバ帝国を裏切り、地球に寝返った』


 私が搭乗している艦全体に、緊急事態時を知らせる警報音と、あの腐れ監視役の声が響き渡っていた。

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