第一章 2話

 さてと、晩御飯はできたけれど、私の旦那様がまだ帰ってきていなくて、食べ終わるところまで済んでいないんだよね。

 先に食べてしまうという家庭問題へと発展するらしいことをやれるわけがなく、英里も同じ意見の回答が揃っているから、とりあえず旦那様が帰ってくるまでの間だけ本を読み上げることになったわけだ。


 納得してくれたところで読むとしようか。

 

 今から10年程前、もうじき20世紀の時代が終わろうとしていた時に宇宙から侵略者、アレアバ帝国がやってきた。

 アレアバ帝国は地球から数億光年も離れた宇宙にある惑星、ピィースを支配し、そしていくつもの惑星を植民地として支配を広げ続けていた悪い奴らでさ。


 そんな悪い奴らが、無駄に多いらしい人口と、この星に存在するある物を確保が目的で地球に侵略を開始した。


「我々、アレアバ帝国の支配化となれ、抵抗は無意味だと知りなさい」


 侵略する前に、地球全土に私の声が宣言した後、数百万以上のロボット兵と、サイボーグと化した囚人と生物による機械兵達に攻撃を仕掛けさせた。

 地球から交渉を持ち掛けてあげる時間を待たずにね。


 そう、当時、この地球侵略進行の司令官を勤めていたのは私。


 見た目じゃ判断できないだろうけど、私は地球人じゃなくて宇宙人。

 そしてかつてはアレアバ帝国幹部の一人で、今では名乗ることをやめた異名、パラメラと名乗って、帝国一の科学者として働いていたわ。


 え!? 科学者なのに、地球侵略の司令官を勤めているのはおかしくない?


 と思っている人がいると思うから、軽く説明するんだけど。

 実は元々私は、研究&技術開発って部署の親玉だったわけなんだけど、何を考えているんだか、幹部の位よりも高い位、最高幹部位の一人。

 前々から、私のことが嫌いだった奴から急に異動を言い渡されたことで、地球侵略の指揮を押し付けられたわけよ。


 無理矢理すぎるから、地位の濫用と共に異議を申しだしたらそいつは(地球侵略が成功したら再び戻してやる)と言い返されて仕方なくお勤めを果たしてやるしかなかったわ。


 だってあいつ最後に(気に入られている皇帝陛下のお顔に泥を塗るきか?)って言ってくるから、私は異動命令に逆らうことができず、もはや仕方ないと頭を切り替えて引き受けた。


 そんなわけで上司からの命令の元、地球を侵略するわけなんだけど、前職で分かっているとはおもうけど。

 私は戦の素人だからとりあえず圧倒的物量と、技術力の差を分からせて降伏させようという、とても単純な作戦を立てたんだ。

 別視点から考えたら、凄く脳筋的で、多少の犠牲は出るのかもしれない戦いになってしまうかもだけど、侵略が長引くことなく早々に終われるし。

 上司からの嫌がらせをついでに鼻をくじかせて、私は元の部署に戻ることができると考えてしまえば、凄く効率的じゃないかしら。


「何よりも地球軍の戦力は、侵略開始する前から調査済み。

 これで負けるなんて考えられないわね」


 それと私自身の戦力は皆無だから、兵士を全員降下させて、私は旗艦の艦橋でのんびり椅子に座って、紅茶を飲みながら盛大にフラグを漏らしていた。


「パラメラ様、戦場でそのような慢心はよろしくないかと」


 私が座る位置から右後方に、SF風の軍服を着た中年男性が、私の耳元で注意を言ってきた。

 彼は上司が勝手に派遣された付き人で、戦術に関するアドバイスを1つもくれない役立たずな人よ。


「だったらあなたが作戦案を提示しなさいよ。

 司令官に任命されてからずっと、プライベート以外で私に付き添うだけで暇しているでしょ?」

「私は秘書ではなく監視役ですので、パラメラ様からの命令は一切受けるなと指示されています」


 無言と無表情で部下のことを見つめていたけど、この時は多分驚愕しているんじゃないかしら、表に出すことはできないんだけどね。


 しかし、異動から侵略の期間が非常に短かったせいで、部下との関係を把握する余裕なんてなかったから今初めて知った。


「だったら黙ってそこで見ていなさい」


 呆れてしまったのか、それとも怒っているのかが分からない怖い無表情で、とても冷徹に感じる言い方で部下を黙らせて、優雅に紅茶を飲もうとしたら。


 ブゥー!ブゥー!


 船内全体に響き渡るアラームの音が突然鳴り響いてきた。


「何かしら?」


 突然鳴り響いた音ですら驚くことができない私は、紅茶を一口だけ飲んでから手前のデスク上に表示されているホロディスプレイを操作して、状況報告を部下から求めた。


『緊急事態ですパラメラ様、Cポイントに降下した部隊が全滅しました』

「……それは本当かしら?」


 さっきまで慢心していた奴なら、大慌てしながら再度聞き返してくる場面なんだろうけど、感情が出せない私は冷静に見える態度で聞き返した。

 因みにCポイントは日本のことを指している。


『事実であります。

 先ほど、Cポイントを3割まで侵攻を進めていたのですが、30分程前に突然現れた一人の男によって、全員が倒されました』


 状況を細かく説明してもらいながら、ホロディスプレイにCポイントの部隊を全滅させた元凶の男が、上空視点にして映像が表示された。

 見る限り年齢は若い青年が顔を隠す仮面を付けて、ボロボロとなった私服を着ていた。


「こいつは何?

 偵察からの報告書には載っていなかったわよ」


 自称じゃなく、事実の天才である私が見間違えることなんて有り得ない、だから疑問にはせずに問いただしてみると。


『そ、それは……』


 こいつも知らなかったって様子で言葉を詰まらせて、私に何を言えばいいのか分からなくなって困っているわね。


 なら偵察隊の報告不足かしら、それとも調査不足かな。

 まぁ、どちらにせよミスであることには変わりないのだから、原因を探るのはもうどうでもよくなっていた。


 とりあえず作戦後、任せた偵察隊、全員には問答無用で肉体改造手術の刑にしてやろうと、非人道的な思考を迷いなく考えていたな。

 こういう非人道的な考えが出てしまう辺り、この頃の私まさに悪役らしかったんだよね。


 といっても私が執行する肉体改造刑は大して重くないらしくさ、こっちは実験台として扱うつもりでいるのに、罰する兵士からはウェルカムって感じで罰を受けてくるから、罰としての効果があまりなかったわね。


 まあ、私が犯した悪行の歴史について今はどうでもいいから、今はたった一人で数十万以上の軍団を全滅させたあの男が何者なのかについて考えないと。

 アレアバ帝国での常識じゃあ、ロボット兵&機械兵は最強の戦力じゃないのだけど、地球人相手なら最強と評することができる戦力だったのにな。

 

 もしかして、私達の存在に感知されていて、隠し玉として準備していたとか?


 いや、地球人が私達の侵略を感知できたとしても、文明レベルの低さが原因で足をとられ筈だから、即対策を構築しておくのは無理だわ。

 

 となると偶然か、またはあの男自身の判断で隠れていたと考えれば納得できるかもしれない。


「……興味があるわね」


 私はいつの間にか仮面の男について興味が沸き始めていた。


 ――


「ねぇ、お母さん、それって一目惚れだったの?」


 本を隣で読み上げている途中、英里が物語の世界から現実へと呼び戻されて、手を真っ直ぐ上に挙げながら問いかけてきた。


「……英里、貴女何処でそんな言葉を覚えたのよ」


 色恋に関する単語をまだ小学生にもなっていない子供が覚えるなんて変だし、私が教育した覚えもないから、左頬をつねって問い返した。


「うう、痛いよぉ〜」


 まぁ、この子たら、痛くないように軽くつねっているだけなのに、嘘泣きして私の問答から難を逃れようとしているわ。


「こら、ヒーローの子が、問答から逃げようとしないの」


 頬つねりから、両脇に手を移動させて、くすぐり刑で娘に拷問を開始した。


「あはは、お母さんだって言い逃れしているじゃん」


 嫌がるよりも、遊んでもらえて楽しいって顔を浮かべる英里は私の拷問に屈さず、ブーメラン返しを発動してきた。


 ふふ、しかし、甘いわね、英里。


「確かに娘の問答を先に答えられないのは、親としてどうかと思うでしょうけどね、英里。

 私は元悪者よ、悪者は相手から問答を逃れることなんて当たり前のことなのよ」


 どういう理屈なのだろうと、思われるかもしれないけど。

 別にいいのよそんなことは、半分からかっているつもりで言ったことだから。


「あはは、そ、そんなの、ず、ずるすぎるよ、お母さん、あはは」

「ふふ、さあ、そろそろ観念して答えなさい」


 娘とのじゃれ合いが段々と楽しくなってきた私は、のりのりとなって悪者演技を始めて、ぐすぐりの拷問を続けた。


「た、助けてマジェイ!」


 ドタドタ! ガチャ!


 そろそろ限界がきそうになっていた英里は、白状してくれると思っていたら、最後の悪あがきとして助けを叫んだ。

 するとリビングの外から足音が急に聞こえて、扉が開いた。


「え!?」

「娘の助けを呼ぶ声が聞こえて、私が参上!」


 右手に片手バックを持ち、作業用の服を着た筋肉質で、顔はイケメンの男性が変なポーズを取りながら現れた。


「ちょっとアナタ、いつの間に帰ってきて……、あ!」


 この人が急に帰宅していることに一瞬だけ驚きはしたけれど、私が気づけなかった原因は娘の力であることに気づいて、英里をじろりと見つめる。


「ふふん。

 うぇん、助けてマジェイ」


 うわぁ、この子ったら、母親にドヤ顔をかまして、とんだ悪者らしいことしてきたわ。

 こういう事を平然とできてしまう、この子の親の顔が見てみたいわね。


「任せてくれ、せい!」

「ふぇ!? きゃあん!」


 英里にガッチリとくっ付いていた私が、一瞬にして場所が移動させられて、マジェイと名乗る男に抱えられた状態、いわゆるお姫様抱っこにされて捕まってしまった。


「ハハハ、もうこれで大丈夫だよ英里ちゃん、悪いことをしたママは、パパが懲らしめるから安心してくれ」


 ぐぬぬ、離れようしているんだけど、私の非力な腕力じゃ引き剝がすことできるわけがないよね。

 

 ギュ!


「ありがとう、お父さん」


 私のくすぐりから解放された娘は、ソファから降りて男性に向かって、普通は有り得ないジャンプ力を見せながら抱きついてきた。

 そして男に捕まっている私のお腹の上で、英里が乗っかっている状態のまま感謝していた。


「もう、アナタ、家に帰っていたのなら一言、メッセージかテレパスが欲しかったわ」


 軽くため息を吐いて降参のサインを出して、不審な男性じゃなく、私の旦那様に、せっかくのお姫様抱っこ状態だから抱き寄せながらじろり目を旦那様の顔に向けた。


「いやぁ、家の前で英里からテレパスをもらっちゃってさ、ついついこの子の作戦に乗っかってあげたんだよ」


 私と娘を二人も抱えているのに、旦那様は涼しく、とても余裕にした笑顔で訳を話してくれた。


「英里……」


 旦那の胸に埋もれている英里の頭を人差し指でツンツン! とつついてやった。

 すると少しだけ私の方を見て、直ぐに再び旦那様の胸に顔を隠していた。


「まあまあ、それよりも二人はなにしていたんだ?」


 喧嘩になりそうだと思ってくれたのか、旦那様は私達をなだめてから、状況を訪ねてきた。


「英里のテレパスで聞いてないの?」

「いや、こっそりと家に入ってきて、私をお母さんから助けてとだけ伝えられただけでね。

 二人がどうしてじゃれあっていたのかが分かっていないんだよ」

「あら? そうだったの」


 旦那の肩を軽く叩いて、降ろしてというジェスチャーをして私と、英里を降ろしてもらった。

 英里はまだお父さん成分が足りなかったのか、抱っこをねだられていて、旦那はそれを即了承していたわ、羨ましい。


 後で私も独占してやろうかしら。


 ゴホン、とりあえず旦那様が帰ってきたことだし、中断になっている物語の読み上げはご飯を食べ終えてからにしましょう。


「晩御飯がもう出来上がってるから、食べながら話してあげるわよ」

「そうか、じゃあ先にご飯するか。

 英里もそうするか?」

「うん、ご飯にする!」


 この子ったら、まったく、お父さんの前だと精神年齢が年相応になるのよね。

 多分、さっき気になっていた一目惚れに関しての言及はもう忘れているんじゃないかしら。


 一応言っておくけど、仮面を付けた男に一目惚れなんてしていなかったわよ。

 あれはただ単に、彼の潜在能力に興味が沸いたという、科学者のあるあるな理由だけだからね。


 ――

 

 くだらない雑談を交えながら楽しい晩御飯を食べ終えた後、料理する前から沸かしおいてあげたお風呂に入ってくると旦那様は言って、今リビングにいるのは私と英里だけとなっている。


 英里も一緒に入らないかと誘われていたのだけど、今日はお母さんと一緒に入るからいいと振られて、ショボショボな後ろ姿を見せながらお風呂に向かっていった旦那様が少し可哀想だったけど、驚愕して落ち込んだ表情が面白くて笑いをこらえていたことは内緒。


 旦那様が風呂から上がってくるまでの間に、私は食器と調理器具を洗い済ませておいたけれど、それでも時間に多少の余裕があったから本の続き読んであげることとなった。

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