第7話(僕の場合)
終着駅に着いた。
朝の大阪のS線は、人が少ない。
僕らの他には、まばらにしか人がいない。
肩越しに寝ているありさを、僕は起こす。
「ありさ、ありさ。ほら起きて、終着駅に着いたよ。」
僕はありさの肩に手を回して、身体を支えながら言った。
身体細いな。石鹸のいい匂いがする。かわいいなと心のなかで思う。
ありさは、むにゃむにゃ言いながら、「あと少しだけ〜。」と頬をスリスリする。
僕はドキドキしていた。朝から心臓への負荷が半端じゃない。ありさへの好意がまた、あがる。僕にはどうしようもない。かわいい。好きだな。
キスしたいな…なんて考えてしまう僕を欠片の理性でなんとか、社会人の矜持をたもつ。
ありさは「うーん~~」と伸びをして、僕を見た。
そして「起こしてくれてありがと、佐藤さん。」と言った。その後に何か言っていたがアナウンスの声でありさの声はかき消された。
終着駅のカフェに入る。
全世界に展開し、ハンバーガーが売りのチェーン店のカフェに入る。何年か前に、このチェーン店には、カフェの部門ができたこともあって、人気を博している。
常にCMはたくさんの芸能人が、でていて飽きさせない趣向が凝らされている。
スマイル0円が売りだ。
僕はホットコーヒーを、ありさはマカロンとアイスコーヒーを頼んだ。
あいにく、ホットコーヒーが切れたから新しく淹れてくれることになった。
席まで持ってきてくれることになり、席を確保した。
ありさと二人席に座ると、僕は聞いてみたかったことを話しだした。
「どう、学校はうまくいってる?」
ありさは、顔を伏せて答える。
「うまくいってないよ。全然。先生の授業は、つまらないし。2時間も同じ授業の時は逃げ出して、先生に、怒られる。生徒指導室で反省文と説教聞かされるし、気が滅入る。成績は取ってるんだから、あんまり干渉されたくないのに次から次へと、話しかけてくる同級生がウザい。」
僕は苦笑する。
「ありさ、授業を抜け出してるのか。やるなぁ。高1から逃げ出してるとあとが大変そうだな。行きたい大学とかあるのかい?」
ありさはさらに突っ伏して答えた。
「行きたいけど、両親が系列の大学にしか進学させないって、中学の頃から言われてるから、絶望的。もう、進路は決まってんだよね。Fランだよ。Fラン大学。最終学歴、Fランの学士で終わり。私はМ大に行きたかった。」
ありさは泣きそうな声で吐き捨てた。
僕はありさに、「僕の目を見てくれるかい?」と話しかけた。
突っ伏していた状態から、ありさは座り直した。そして僕を見る。ありさは少し目に涙をためていた。
そこへ注文した商品が届いた。
ありさはアイスコーヒーを一口飲む。
僕はできる限り、優しい声でありさに語りかけた。
「ありさ、ありさは優秀だよ。それは会話していて僕が一番良くわかる。いいかい、こういうときこそ、この本が役に立つんだよ。」と僕はポリアの本を出す。
ありさはポリアの本をみて、ハッとする。
「私の未知のものって、もしかして、可能性」って言いたいの?
僕は軽く頷いた。
「ありさ、よく聞いて。東野圭吾も作品の中で言ってるけど、数学の研究に時間や場所は関係ないよ。ただ、熱意があるかどうか。それだけだよ。ありさは、今、自分の課題を発見したね。おめでとう」
僕はホットコーヒーを飲む。
すると、ありさは、目の前ですごく笑顔になった。
「佐藤さん、私の問題解決に付き合ってくれない?一人じゃ解けそうにないから。先生役、佐藤さん、してほしい。」
僕は「喜んで。」と笑顔で答えた。
第7話 (僕の場合 完)
初恋 久村真央 @Kei16956
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