第3話(僕の場合)

朝の大阪のS線は相変わらず、席が空いていて助かる。僕は会社の鞄から本を1冊引き抜いた。今日は、G・ポリア『いかにして問題を解くか』を持ってきた。最近、動画サイトで、顔がトーマスという某アニメキャラクターに似ていると有名な予備校のノリで学ぶ教師が解説していた本だ。あと少しで、ありさが乗ってくる駅につく。


ありさが乗ってくる駅についた。

ありさが「おはよう、佐藤さん」と声をかけながら、僕の横に座る。

僕も「おはよう」と答えながら、彼女が座るのを待った。


ありさが興味しんしんに、今日の僕の本を見る。

すると、ありさが本のタイトルを見て目を輝かせた。

「これ、この本ってさ、顔がトーマスに似てる人が、解説してた本でしょ?あの人、物理専門だけど、数学も解説してくれてて、面白いよね。でも、私はまだ、この本読んだことないんだ。」

と少しばかり、ありさはしょんぼりした。


僕は、答えた。

「じゃあ、終着駅までいっしょに読もう。その後は、ありさに貸してあげる。」


ありさは驚いた目をした。

「良いの!!?わぁ、嬉しい。私の親、女の子が数学や物理にのめり込むなんて、みっともないっていう、古い認識の親だからさ、今まで、本屋で、立ち読みばかりしてたんだ。佐藤さんといると、数学の本読めるから、超ラッキーだよ

。」

と笑顔で僕を見る。


「数学に、性別は関係ないよ。人種も、国籍も、何もかも関係ない。ただ、答えが正しいか、誤っているかが重要だよ。ありさはとても良い子なんだから、そんなくだらない呪いなんかに負けないで。」

僕はありさに真摯に答えた。


ありさは僕の言葉を聞いて、少し瞳が揺れていた。


「大丈夫?」と聞くと、

ありさは「目にゴミが入っただけだから。不意打ちとかズルい。」と答えた。


さぁ、読もう。早くしないと駅についちゃう。


こうして僕とありさは、本を読みはじめた。


(第3話 僕の場合 完)








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