第17話 起死回生

マズイのら、どうにかしてこの水瓶から出ないと確実に溺死するのら!


一応、げぇむが始まったときには全員にナイフを渡されていたって聞いていたけど、この距離だと、ナイフのリーチが届かない!仕方ない、おじいちゃんの形見を使うしかないか…。連れ去られたとき、おじいちゃんの命日だから持ってたのが助かった。


「せい!」


私は木刀を縦に振るう。無理だとは分かっていたが、木刀は虚しく、水に包まれただけだった。だけどこれで分かったことがある。水瓶と言っているが、ガラスが周りにあるだけだということ。


そのガラスをぶち破れば、ここから脱出できるのら!


「あ、良い忘れてたけどさ、それ、防弾ガラスだから。壊そうとか考えないほうが良いよ。逆に酸素を失うだけだし。どっちにしろ死ぬけど。」


くっ…でも私は生きたいのら!どんな手を使ってでもここから脱出してやるのら!


その後も私はもがくように、技を出し続けた。ここから逃れようと、だが、その攻撃も防弾ガラスの前には屈した。


だんだんと視界が狭くなり、音も聞き取りづらくなった。頭も全く回らない。


「も…らめれ…のに…くる…だけ…ないか。」


なんて言ったのら?欠けた言葉を継ぎ合わせる必要もないのら。もう諦めよう。さっさと目を閉じて死を受け入れよう。


私は目を閉じる。ふっと体が軽くなった気がした。すると、目を閉じているはずなのに、おじいちゃんの笑顔が浮かんできた。走馬灯ってやつなのか…


「愛理、人が出せる木刀を使った最大威力の技はだ。突きの威力は人を死亡させる事ができるぐらい強いんだ。だから非常事態以外は絶対に使ったらいけないぞ。」


それに小さい頃の私が返す。


「はーい。でも、非常事態になったらどうやって突くのら?」


「非常事態になったらな、すべての感覚を狙う一点に集中させて、出せる最大の力を出すんだ。そうすれば、どんなに硬いものでも壊すことができるぞ!使うときがこないと良いな!はっはっは!」


おじいちゃんが小さい私を軽くポンと叩く。すると、私の体にも衝撃が走る。


「頑張れよ。」


そう言われた気がした。


次に目を覚ましたときには、まだ水瓶の中にいた。記憶が鮮明に残っている。今なら…


私はすべての感覚をさんざん傷つけたガラスの一点に集中させる。もう失うものはない。これが失敗したら死ぬだけ。私が出せるすべてをこの木刀に捧げる。


私は全力で木刀を押し出す。その木刀は水を切り裂き、ガラスに突き刺さる。そして、これまた全力で横に振る。


ガラスが割れる音と、木刀の先端が折れる音が混ざり、響き渡る。


そして私は水と一緒に外に投げ出される。急に空気を取り入れたせいで、肺がびっくりしてむせる。左腕が限界を超えて軋み、激痛が走る。


だが、そのときには、痛みなんて感じていなかった。


「ゴホッゴホッ…見たか…抜けられるのらよ…!この木刀と一緒だったら!」


鬼は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐに笑顔へと変わる。


「へぇ、面白いじゃん!僕と貴方の戦いと行こうかね。もうあの5人は力尽きちゃったし。まぁ、すぐに倒してあげるよ。苦しまないようにね。」


「こっちのセリフのら…、水野郎が!」


私は走り出す。

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