③ アヒオとリドミコ
がちゃん。
「失礼いたしますっ! 遊団長っ、不定期の蟲が着きましたっ!」
そう言って背筋を伸ばす兵の隣でもう一人、同じように踵を揃えて畏まる兵が宙を見つめて指示を待つ。手には小さな吹鳴器と十数匹ほど捕らえた虫篭を提げて。
「そうか。蟲使い、再生させろ。」
まだこの威圧感の中での職務に慣れていないのか、蟲使いと呼ばれた男は震える声で「はい」と返し虫篭を遊団長の机の上に置いて吹鳴器を口にする。
きーん、きーん、きぃーん。
そんな、普通の者には聞き取れない高い音がこだますると蟲たちはザワザワと騒ぎ出し、それぞれの羽音をきれいに折り重ねてヒトの声を紡ぎ出す。
~~ キョウイク ヲ イソギ カンスイ セヨ
ヨウナレバ ギセイ モ ヤムナシ ~~
多数の蟲に録音させた声を届ける「蟲伝え」は「紙鳥」のように遠隔地からの連絡には欠かせないものだった。
生き物を媒体とするため一長一短はあるが、飼育と調教が比較的簡単な蟲伝えの方が広く使われている。また紙鳥と異なり、使いこなせるのは専門の訓練を積んだ蟲使いや一部のシム人だけということも兵団をはじめさまざまな組織がこぞって用いる理由でもある。
「なるほど。音拾いはできるな?」
自分の耳には聞こえない音で蟲を操るのが蟲伝えだが、その中でも「音拾い」は蟲たちの基礎記憶と呼ばれる、抹消も上書きもされない「音」を拾い上げる高等技術だった。
走性のように蟲たちが向かいたくなる匂いを付けた、帰るための巣となる「帰宿」と、そこへ声を吹き込み飛ばす「字打ち」の名前を再生させるものだからだ。ただ現在では安価な字打ちからの一方送信より、値が張っても往復送信のできる種類が主流となっている。
また基礎記憶に覚えさせた名前といっても偽名になるのだが、横から第三者がデマを記録させた蟲とすり替えても判るようにするための目安と考えれば利用価値は皆無ではない。もちろん第三者に音拾いの技術があればそれも覆せるが、そもそも聞こえない音を頼りに調律するのだから蟲使いの中でも音拾いができるのは有用な存在だった。
~~ ジウチ、フローダイム・・・キシュク・・・ ~~
「ふむ。お上もずいぶんと焦っているようだな。・・・仕方ない。確か第二連隊がその子どもを保護しているのだったな? ならばココへよこせ。俺の下に直接つける。」
がちゃがちゃと防具を鳴らすその大柄な男の目は、凶暴な躯体とは裏腹に凪いだ海のように静かだった。それでも声の低さ、重さ、圧倒的な力強さに怯まない部下はいない。
「り、了解いたしましたっ! ・・・し、失礼しますっ!」
がちゃん。
そう声を張る伝令係と蟲使いはついに遊団長と目を合わせることなくその場から逃れるように出て行った。
精鋭部隊であり規律を重んじる職ではあるが、『スケイデュ遊団』の長といってもこの男ですら駒の一つなのだ。しかしだからこそ恩義のためとはいえ、この男にはそれに殉じる気構えがまだ足りていなかった。
「・・・俺とて、獣ではないのだ。」
どずんと叩かれた机の音もただ空を彷徨うだけ。
やがて消えゆく痛みにも音にも虚しい同情が灯るだけ。
「ニタ家の名を守るということは、・・・こういう、ことなのか?」
悩み迷う間もなく伝令係は今も第二連隊へ急行している。
その虚しさに哂う男を遊団は怖れでもって支え、そしてその男に遊団は動かされていた。
立て付けの悪い窓の隙間から射し込む朝陽に風読みは目を覚まし、大きな法衣から突き出した手で木窓を開け放つ。
「・・・ふう。」
常人よりも痩せ細った棒切れのような手は歳月と共に皮膚が硬化し筋肉は硬直していく。遥か昔の時代であればそれは読み手の証明であり誇り足り得たのだが、枯れた己の手を風に曝すたびに、やはり一抹の物悲しさを覚えてしまう。
「さ、キペ。朝ですよ。」
そんな精進の足りない自分を笑いながら、風読みはベッドに横たわる若いヌイの青年を起こした。
「あ・・お、おはようございます。」
まだ少し寝ぼけていたものの、キペは頭をぶるぶるっと振って階下の洗面所へ歩いた。頭を醒ますためではなく、今日すべきことを整頓するために。
そして朝のよく冷えた水で顔を拭い、なるべくきれいな布を湿らせて戻ると、風読みの顔も拭いてやる。
威厳を保つ意味もあるのだろう、法衣を脱がせることが許されているのは各神殿に仕える読み手の従者だけだった。
そんな読み手に「痒くならないのかな」と思ってしまうキペは、せめて顔だけでもと世話を焼いてしまうのだろう。
お節介で心配性の生真面目は、そんなことに風読みが礼をくれるだけでうれしくなれた。
「ありがとうキペ、さっぱりしましたよ。とはいえ起きてすぐですが出発するとしましょう。どうやらハユ探しは思ったよりも長くなりそうです。準備はいいですか?」
それでもこうなると知っていたかのような支度の催促の甲斐あって、肩提げの皮袋ひとつで用意はできた。
「はい。ハユもきっと今ごろ不安になっているでしょうから。」
そうして多くの宿泊客がまだ眠る宿をそっと出ると、いくつか別れる岐路を聖都に向けられた南の道へ二人は進んだ。朝食には町の終わりの出店で肉を挟んだ練り焼きを買い、風読みと分けることにする。
「さてキペ。この先、小さな集落を通る道もあるのですが林を抜けることにします。早い午後には出られるでしょう。そうすれば、今夜の中継地へ行けます。」
今夜の中継地。
その言葉に長い旅は容易く予感できた。
町を出よう、と残したハユの投げかけにすら怯えていたキペに、それは目を覆われるような暗く重たい言葉だった。
「風読みさまには、ご迷惑かけます。」
だから、すみません、と、よろしくを込めねばならない不甲斐なさが、口に出すと一層苦く広がってゆく
「いいのですよ。好きでやっていることなのですから。ふふ。」
そう言って前を行く神官の心の大きさに、まだ若いキペはしみじみと頭を下げてついていくだけだ。
「・・・はい。」
そうして歩くと間もなく山道へ差し掛かる。
ときたま荷車を引く者と挨拶を交わす程度だった道はいよいよ静けさを増していった。
そんな中、
「そこの者ぉぉ、道を空けぇぇ!」
ことさら大きな音を立てて油幕を張った真っ黒な幌馬車が向こうからやってくる。
「あぅあ、風読みさま、こちらに。」
端に避けようと思うもどうにもそれは大きく、仕方なしにキペも風読みも草むらを割って道を譲ることにした。
「・・・ふあぁ、ずいぶん大仰な馬車でしたね。あれは何に・・う、うわっ!」
「キペっ?」
とその瞬間。
「うわぁぁぁぁっ!」
何か強いものが足に絡まったと思うより早くキペはなだらかな斜面をひきずり下ろされてしまう。
「んがぁぁぁぁぁぁっ!」
「キペっ?」
それでも、ごろんごろんと転げ落ちながらキペは足に巻きついたロープを解いて不気味に揺れる茂みの中に目を凝らす。
「・・・はぁ、はぁ。・・・なんなんだ?」
すると。
「アネさぁーんっ! ヌイのヤツでーっすっ!」
そう叫ぶ少女の声が響く。
目を遣れば、そこには白い煙を細く上げている例の鉄巨人が倒れているのが伺えた。
どうやらその傍でこしょこしょ動いているのが先の声の主なのだろう。
「よくやったぁーっ! あ、そだっ! ヤシャが故障中だった・・・ちぃ、仕方ない。コマっ、ヒマっ! 来いっ!」
聞き覚えのある声・・・
それは二日前に村を襲われた時に耳にしたあの女の声だった。
「パシェ、あんたはすっこんでな。コイツはあたいがカタをつけるっ! やいヌイの男っ、ウチの党首をどこへやったかは後でゆっくり聞かせてもらうよっ!」
何がなんだかさっぱり判らないものの自分の窮地にはさすがに気が付いた。
「な、なにを、言ってるのかわからないけど・・・・あ、そうだ、像を返せーっ!
そしたら、そしたらきっと、ハユは戻ってくるんだーっ!」
そこは逃げるべき選択肢だったが、木々がまばらに生える地の利を活かせばなんとかなる、そう判断したキペは二体の鉄巨人の脇へ後ろへ回り込もうと駆け出す。
案の定、細くもしなやかな木の枝は折れることなく絡み付いて巨人の動きを妨げた。
「かーっ! ったく、ちょろちょろちょろちょろとっ! しゃーない。コマっ! どりるだーっ!」
そう命じる女の声に従うよう、四角い箱のような巨人の右手のギザギザ円錐がものすごい轟音を立てて回転し始めた。
「へ?・・・うそ、なんっ?」
びくっ、としたのも束の間、突き出されたそれは枝も下草も木の幹さえ削りとって疲れも知らずまたこちらへと繰り出されてくる。
「う、うわぁ!」
もう何が何だかわからないキぺはただ見たこともない道具に目を奪われてしまう。
そうする間に、もう一体の巨人は視界からその姿を消していた。
「今だ、いけーヒマーっ!」
その声に目を向けると今度はずどーん、と上から巨大な大槌が振り下ろされてくる。
「え、ちょ、なんなんだよっ? なんなんだこれはっ?」
息はむしろ得体の知れない恐怖に上がってしまう。
それでもなんとか死に物狂いで避けられたはしたが、唸るギザギザ円錐の箱巨人は眼前まで迫っていた。
「うわぁぁっ!」
そこへ。
「そいやっ!」
と茂みから控えめな男の掛け声が鳴り
「ん? どしたコマぁーっ?」
同時に、がたーんと豪快にギザ箱巨人が倒れる。
「へ?・・・助かっ、たの?」
その一瞬に何が起こったのかと見遣ればギザ箱巨人の足元にはツタが絡まっていた。足がもつれて転んだらしいがどうやら偶然ではないようだ。
「ボヤボヤするな青年っ、こっちだっ!」
そう頭を巡らせている中、大槌の筒巨人の後ろで手招きする長い黒髪をなびかせた鋭い目のハチウ人が目に入る。
「え? だって、筒巨人が・・・」
そして振り見ようとしたその時、がたーんと迫って来ていた槌筒巨人も倒れてしまう。
「ほれ早くっ!」
まだ判然としないがならもキペは幾何学模様のマントを翻すハチウ男の後を追って走った。
降って湧いた両者どちらもが謎なら「良さそうな方を」と思っての選択だ。
「ちぃっ! こんにゃろーっ! 覚えてろよーっ!」
とまぁ何事か後ろで恨み節がしばらく聞こえていたが、聞こえないフリをして二人はひとまず逃げ切ることに成功した。キペにしてはまずまずといった判断だろう。
そうして身を隠せる木陰まで辿り着くと、安堵もあって二人は大きく息をついた。
「ふー危なかったなぁ。・・・ところでおまえさん、どうやって街道に戻るか知ってるか?」
・・・。
「あ、えっと、とりあえずありがとうございました。・・・あっ! 像を取り戻さなきゃっ!」
あー倒れた隙に奪い返せばよかったのに、といった後悔も遅く、いま自分にとっての難局はといえばこの目印の乏しい林を抜け出すことだった。
改めて見回してもどこがどう違うかわからない植生が目の利く限りに続いているだけだし、フカフカの落ち葉のせいでいま来た道すら覚束ない始末なのだ。
「そか。わからねーか。よし、しゃーないな。いっちょおれについてきな。」
そう言って立ち上がる男はマントを翻してカッコをつけた。
それはそれでカッコよかった、と後にキペは述懐している。
そして四半刻。
「ふーっ、やるなぁこの林。この、林野郎っ! へへ、ついてきな。」
指をちょいちょい、とやってまた歩き出す。
そして四半刻。
「ふーっ、やっとここまで来たかぁ。な、青年。へへ、ついてきな。」
ここまでがどこまでかが判らないキペもまた歩き出す。
そして四半刻。
「あっはっは。こりゃお手上げだなぁー。な、青年。へへ、ついてきな。」
心配は既に不安になっていたが奇跡を信じて二人はまた歩き出す。
そして四半刻。
「ふーっ。ひと休みするか。な、青年? ひと休みしろってことなんだよ、これはよ。腹が減ったろ、茶の一杯も飲んでゆったり木洩れ日の下で俗世の憂鬱を忘れてみろってそういうことなんだよ。な?
いわばこれは林からのもてなしみたいなモンなんだよ。笑えるうちに笑っとけ、ってな。はっはっは。」
自信のありすぎるヒトを見て、初めて自信のない自分に自信が持てた。そう、後にキペは述懐している。
「それにしても、広い林ですね。あ、僕、干し焼きと干し果物があります。よかったら、どうぞ。」
村から持ってきた物だからそうたくさんはなかった。それに昨日の町では保存食を買わずじまいで来ている。とはいえ危機を救ってくれた恩人に出し惜しみはしたくなかった。
「お、こりゃありがたいな。遠慮なく頂こうか。えーっと、おれはといえば・・・ササくらいだな。やるか?」
くぽ、と木瓶の栓を抜いて醗酵水を男は飲み、こちらへ差し出す。祖父も時にたしなんではいたがキペにはどうしても好きになれないものだった。
「あ、いや、僕は。・・・それよりあなたは、なんでこんな林の中にいたんですか?」
キペの話を聞きながらも男は出された干し物をおいしそうに口に含む。
マントで体つきはよく見えなかったものの、先の俊敏な動きと精緻で的確な判断や対処を見る限りただの旅行者とも思えなかったのだ。
「その前におまえさんだな。あいつらは何だ? 特にあのガタイのいい鉄野郎は。あんなモン初めて見たぞ。命すら狙われてるようだったが?」
傾き始めた陽光が梢に漏れてここへ届くと、ハチウ人独特の縦に細い瞳孔が線のようになる。鱗に見立てられる硬質化した皮膚が顔の所々で滑らかに光を反射すれば、それは脅しにも似た表情に見えてくる。
「えと、僕も、詳しくはわかりません。うんと、ただ、あの連中は僕たちの村を襲って家にあった神霊・・・貴重品を奪っていったんです。
僕個人に恨みがあるのか、ヌイだから狙われたのかはわからないんです。そして、彼らのことも。何も。」
十円前の〈出像祭〉の時の襲撃と関係があったかどうかも判明していない今、キペが答えに辿り着くのは不可能なことだった。
「そうか。なんか大変なこ・・・誰だっ!」
しゃり、と後ろで葉を踏む音が聞こえるより早くハチウの男は中腰になって構えていた。腰に提げていた指投げ刃を持って。
「は、はぉぉおう、なんだリドかっ!」
見るとそこにはなかなかお目にかかれないユクジモ人の少女が目を閉ざして微笑んでいた。ふさふさの柔らかく大きな葉のような髪を揺らして、胸に大きな何かを抱い・・・
「あっ! 神像だぁっ!」
と目がそれを捉えるなりキペは何も考えずてけてけと走り寄っていく。
一方の少女はといえば身じろぎもせずそれを差し出してくれる。
「あ、やっぱり。・・・はあぁー、よかったぁ。・・・あ、あのきみ、これどこで?」
まんべんなく打たれたニビの木の像は硬く締まるために道端に放り出されたくらいでは容易く折れたり壊れたりしない。それが幸いしたのだろう、まったくの無傷でそれはあった。
「・・・あぁ、うん。そこかぁ。」
そして何もしゃべろうとしない少女が、ぴ、と指差した所にはなんとなく大きな重いものが二つ倒れていたのかな、と思えるへこんだ地面があり、傍には引き千切られたツタがあった。
結果オーライ、という古の言葉を子ども時分に習ったことを思い出すキペであった。
「ふんふん、なるほどな。青年、だから言ったろ。おれについてくれば道が拓けるって。」
もう何が正しくて何が間違いなのか、楽器があればそれを奏でて歌ってみたいやと人知れずキペは強く思う。
「というわけだリド。街道はどっちいけばいいと思う?」
それにリド、と呼ばれた少女はニコっと笑って斜面を登り始める。
確かに、キペは斜面を転がり落ちたのだからせめてどこかで登る必要はあったはずだ、と今さらながらにこのセピア色の時間を遠い目で思い返したそうな。
そうして。
「よっこらせっと。」
落ち葉に滑りやすいそこを登り終えると街道では風読みが待っていてくれた。柄にもなくそわそわしながら。
「ああ、キペですか。よかった無事で。大きな音が聞こえたものだから心配していましたよ。・・・そちらの方々は?」
とそこでぱんぱんぱん、と汚れてもいない少女の服を払ってやる落ち葉まみれのハチウ人が、おお、と一つおののく。
「こりゃ本物に出会えるたー驚きだな。おまえさん、風読みサンの知り合いだったのか。巡礼にでも付き合うことにしたのか?
ま、いいや。おれはムシマ族のアヒオ。こっちは何族かは知らないが、リドミコ。〝嘘見〟の風読みサンなら信用してもらえると思うが?」
そんな簡素な紹介にリドミコは微笑みを添えて会釈する。
「ええ、ムシマのアヒオ。あなたの友好的な笑顔に〝色〟は見受けられません。それより、そのお嬢さんは? 老婆心がいよいよ板につく歳になってしまったので。」
立ち話もなんだから、とそこでひとまず一行は聖都に向けた道を進むことにした。どうやら目的地は同じようなので日が暮れる前にと次の町を共に目指すことにする。
「よくはわからないんだ。記憶を失くしちまったみたいでよ、目と声も・・・。とにかく一人じゃ危ない、ってんで都まで、な。」
アヒオによると、ここからずっと遠い森でピンチ(おそらく迷子)だったとき、リドミコが現れて道を案内してくれたそうだ。
冷徹なイメージの強いムシマ族だがやはり情に厚い者も中にはいて(つまりアヒオのことだ)不自由極まりないリドミコの世話をしようと思い立ったらしい。今までにも幾度かの危機(たぶん遭難)に出くわしてきたアヒオは強力な助っ人(ユクジモ人は不思議な方向感覚を持っているので複雑な森でも迷うことはないのだそうだ)を得て、一路、聖都オウキィを目指している途中とのこと。
ちなみに先ほどの林でキペたちに出会ったのは、おいしそうなハシリ鳥を追いかけている途中で絶望(リドミコを置いてきたまま林に入ったことだろう)に見舞われていた偶然によるものだそうだ。
「ところで、やはり他の霊像は見当らなかったのですか?」
キペたちとの出会いが偶然であったにせよ、神像と風読みがいればやはり事の顛末を話すべきだということになり、事情はアヒオ、リドミコにも伝えることにした。
「はい。リドミコも無かったと言っていますし。あ、まぁ言ってはいないですけど。・・・あの、アヒオさん、素朴な質問なんですがリドミコの名前はどうやって知ったんですか?」
見事に関係ないのだが好奇心が旺盛なので許してやってほしい。
「あーそれか。ほら、おれたちって使ってる文字が違うこともあるが名前だけは上代文字のループ・ハーベトを使うだろ? で、リドんトコでも上代文字が主流らしくてほら、布袋の裏に刺繍してあるだろ。読み方も間違ってないみたいだからイイと思うんだが。」
なるほど、と刺繍の文字を読んでみたもののキペには何と発音すればよいかはわかっていなかったそうな。ただ雰囲気的に頷いてみせただけだ。ここも許してやってほしい。そういう子なのだ。
「あぁーそだ。そんで、何をみんなしてそんなに躍起になってるんだ? って聞きたかったんだ。
像なんかまた作りゃいいし、間に合わないなら代替品でもいいだろう? どうせ形式的な儀式の奉納物なんだからよ。なにも『スケイデュ遊団』まで動かなくったって・・・」
ん?と首を捻って考えるキペ。
弟をさらった(っぽい)のは『スケイデュ』らしい、とまでは話したのだが。
「その『スケイデュ遊団』って、え? 像を狙ってたんですか? ・・・どうして。」
やはりそこに気が留まったのか、風読みもアヒオの答えに注視していた。
「さあな。チヨー人の行商人からササと情報を買った時に仕入れたモンだから。敵が増えるのはご免だなや、って言ってたな。・・・あ、んでどうなんだ、像の話は。」
ダイーダだ。彼の損得勘定の基準はようとして知れないが、発信源はダイーダだ。
「ふむ。少し込み入った話になりますねえ。町で宿を取り、そこで説明したいと思います。いかがでしょう。」
一同、異論はなかった。
「あぁ、それで構わないさ。な、リド?」
風読みの反対を受けつけない語気もあったが、一同は何よりお腹が空いていたのだ。
そのためリドミコも軽快に頷き、四人に増えた旅路は続く。
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