第37話 寒空を見上げたら
皆さんいかがお過ごしでしょうか。
僕はとある高校の一年で、クラス長を務めています。
クラス長と言っても基本的には普通の学生と特に変わることは無く......
「クラス長、ティッシュある?」
「あぁ、はい。」
「サンキュー!」
テストの点数が高いってわけでもなく、運動神経が良いわけでもない。
墓場まで持って行きたい隠し事もあれば、水面下で長い間喧嘩をしてそのままプチっと切れた縁とかもある。
「クラス長...もう一枚ある?」
「え?あぁ、はい。」
「サンキュー!」
もしかしたらクラス長だからという理由で、少しだけ頼られることはあるかもしれないが、普通のクラスと何も変わらない。
「クラス長...もう一枚」
「どんだけだよ!」
秋花粉の時期は過ぎたはずなのにもかかわらず、鼻を真っ赤にして人中をティッシュで擦っている彼の名前は仲田。
中学の頃陸上部だったらしく、とにかく足が速い。
...だが最近は、足じゃない部分もはやい気がする。
ご飯を食べるスピードとか、それこそ鼻をかむスピードとかも。
「余ったら返すわ。」
「余ったらってなんだ、メダルゲームじゃねえんだから。」
と、このように休み時間を過ごしている。
普通のクラスメイトと何も変わらないだろう。
「...メダルゲーム、やっぱクラス長は視点が違うね。」
「なんだよ急に、恥ずかしい。」
「今思った、視点が変わったよね。」
「なんだそれ。」
視点が違う。
なぜかこの言葉にとても引っかかったが、なぜかは分からない。
これまでと何も変わっていない。
まあ確かに仲田の言う通り、体育祭、文化祭を終えてかなりクラス長という肩書に自信を持てるようになった。
決して勉強が出来るわけではないし、その他ステータスが上昇したわけではないが。
「てか、その机のやつなに?」
机の上...?
仲田が指を差した自分の机の上には、一枚の手紙があった。
「なんだこれ、いつの間に。」
"長暮さんへ"の文字はとても凛々しく、今のご時世的に決めつけるのも良くないが絶対男だと思う。
その場で開けようとしたが、なんとなく雰囲気的に今開けるものではない気がした自分は、そっとカバンの中にしまいこんだ。
「ま、次の授業の準備しようか。」
ムズムズしながら授業を受けた。
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その日の放課後、授業を終えた僕は家へと向かおうと扉を開く。
「...あ、忘れてた。」
カバンの中で落っこちた手紙を拾い上げ、周りを見渡しながら個室トイレに隠れて中身を開けると、小さな紙に大きくでかでかと筆文字で一言。
"屋上に来い"
告白か因縁か
文字だけ見れば百パーセント後者だが、小中高どの時代も因縁を作ってきていない....ハズ。
となると告白だろうか。
因縁同様、小中高どの時代も彼女を作ってきていないのでどうしたらいいか全く分からない。
どっちにしろ胸が高鳴った僕は、クラス長としての尊厳を無くさないように走らずゆっくり階段を駆け上り、扉の前で呼吸を整える。
「てか、こんな早いスパンで屋上来る?」
僕はゆっくりと扉を開け、横から吹く冷たい風を遮りながら前を見る。
「...誰もいない。」
っ、いたずらか。
まあ確かにそうだ、こんなのよくお話であるじゃないか。
罰ゲームなのか、ドッキリなのか。
因縁という択を捨て、告白一点掛けをしていた僕にとってダメージは相当なものだが、その気持ちを抑えて涙をこぼさないように上を向く。
「...え?」
「あ、ようやく気付いた...?」
目なんて会うはずのない首の角度。
でも確かにその位置に立っている。
自分より少しだけ小さな光が、人の形をして宙に浮いている。
「視点が変わったからさ、僕の声が届かなくって。」
何言ってるんだこの人....というか人なのかも分からない。
その光はゆっくりと地面に降り立つと、手を差し伸べてきた。
人間、あまりにも現実的じゃないことが起こると体が動かないもんだ。
でもなぜか分からないが夢だとは思わなかった。
僕は差し伸べられた手を握り、異生物とのあいさつを交わす。
「どうも...ナレーションです。」
「...え?」
聞き間違えじゃなければ、その異生物は"ナレーション"といった。
意味が分からない。
「君のことをずっと上から見ていた。」
「....え?」
「というか最初の方とかちょっと会話した気がする。」
「はあ...。」
うっすらと記憶として存在している気がするが、なんのことかいまいち理解できずに頭を悩ませていると、そんな話はさておきと言いながら本題に入る。
「今日はサヨナラを伝えに来たんだ。」
「え?さよなら?」
ナレーションを名乗る男は悲しそうな表情で語り始める。
「僕の役目っていうのは、君がクラスに馴染めるまで学校の感じをなんとなくわかりやすくすることだったんだ。」
なにを言っているのかいまいち分からない...が、分からなくて正解な気もするしそもそも彼の存在が何なのか全く分からない。
「僕が消えたら君たちの記憶から僕は消えちゃうけど...」
正直、彼の説明では言ってもほぼ初対面のはずなので、あんまり悲しいとかはない。
「これからは一人称でやっていける?」
意味の分からない質問に戸惑っていると、だんだん心配そうな顔になって行くので何もわかっていないがとりあえず頷いた。
「また不安になるなら帰ってくるけど、とりあえず今日の日はさようならだ。」
「は、はあ。」
不安になっても帰ってきてほしくない。
なんのことか分からないのにまたやってきたら余計に不安になってしまう。
「じゃあな僕ちゃん、僕は僕が必要である場所に飛んでいくために僕という存在を隠し新たな世界の"僕"を証明させるためにこの世界を飛ぶよ。」
「え、今何て....うわっ!」
上に舞う彼の姿。
普通だったら驚くことまみれのはずが一気にいろんなことが起こりすぎて、そしてそれぞれが驚こうとする感情の邪魔をして全く驚けなかった。
あっけらかんとした僕の目には光の粉となった彼が秋の風と共にさらさらと流れ、沈んでいく太陽を追いかけるように消えていった。
「マジで何だったんだ...ヒックシュン!」
最後まで意味の分からない彼の光の粉の一部が鼻にすげえ入り込んできた気がしてクシャミが止まらなかった。
仲田からティッシュ返してもらえばよかった。
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