第35話 回らない頭、回るカメラ (文化祭編#13)
文化祭も終盤、仕事は終わったがカメラ仕事はまだ終わっていない。
「...なんと、充電出来てませんでした。」
立ち上がる気力もなにもないクラス長はロビーのソファに腰を掛けて数十分、何も考えずに買った焼きそばをボーっとすすっていた。
「まあ自分自身も電池切れということでご愛敬...。」
大体が店閉めを始め、廊下を歩く人もだんだんと減ってきている校舎に数分前の騒がしさは無い。
地元にあったショッピングモールが潰れる数週間前に行った時のあの風景と重ねながら少しだけエモーショナルに浸りながら、パックの中身をたいらげた。
「食べ終わりまし...」
「おーい!おいおい!」
見つめたレンズの中に現れた細めの手。
クラス長は驚いてカメラで腕の先を辿ると、朝にあったはずなのにどこか久しく感じる男が調子よさげに立っていた。
「おお、仲田。」
「連絡全然通じないから死んだと思ったぞ!」
「...え?」
そう言えば全く開いていなかったスマートフォン。
中を開くとそこには
"仲田からメッセージが届いています"
"文化祭実行委員に画像が送信されました"
と、パンパンの通知が画面を占領しており、クラス長は目を疑う。
「うわ、ほんとうだ。」
「お前、心の充電切れてんな。」
「おう...ごめん、さっきそのくだりやったわ。」
クラス長はスマホをスワイプすると、メンバーそれぞれの文化祭を楽しむ内容が情報が現れて驚愕する。
その場のノリで作り、準備期間中は一切稼働していなかったはず文化祭実行委員のグループが、なんスクロールしても届かないほどの写真館へと変貌していた。
「そんで、どうしたんだ?」
「あぁ、そうそう...」
クラス長は仲田にスマホを渡し、画面を一番下までスクロールさせると、仲田の伝えに来た理由がそこに書いていた。
「屋上で写真?」
「あぁ、実は今日だけ開放日だったんだよ。」
クラス長は太ももあたりから首までべったりソファにくっつけ、ふんぞり返りながら大きな考える。
正直こんな一生の思い出に残るような話、いかない理由はない。
しかし、行きたくない理由はある。
めっちゃくちゃ疲れている。
朝からカメラの事を考えて撮れ高を追い求め続けた結果、足と心が一日中動き続けて普段の生活とは比にならないほどに濃い一日を送ってしまったのである。
「まあ、行きたいけどちょっと待って。」
「...オーケー!じゃあ行くぞ!」
仲田はクラス長のイエスをもらうや否や、後半の言葉など気にも留めず猛スピードで大階段を駆け上って行った。
「...あー、行きたいけど動きたくねえ!」
クラス長は重い腰を上げて席を立つと、彼のスピードにはかなわないと分かりつつも、背中が小さくならないように必死に追いかけた。
「はぁ...はぁ...。」
「なに、まだ充電あんじゃん。」
「...イチパーセントって意外に持つからな。」
残りの力を振り絞ってなんとか開けた扉の先には、息を切らしたクラス長をマラソン番組の終わりのようにワチャワチャしながら到着を待つメンバーたちが待っていた。
「クラス長連れてきたぞ!」
「なんか...最終回みてえだな。」
彼は、素早く胸を打つ鼓動をゆっくりな深呼吸で相殺させて、手を振る彼らの元に近づき声にならなかった大きな息で挨拶を吐き出す。
「遅えよ、寒くて死ぬかと思ったわ。」
「一番乗りで来てたんだからそりゃ寒いわな......。」
「白佳君だけずっと写真おくってたしね。」
「二釈君も湯瑠川さんもやめたげなっての。」
ポスター係は手を擦り寒そうにする白佳をからかっていると、尾辺は不思議そうにクラス長のタスキを指差す。
「文化祭楽しみすぎじゃあないですか?」
「これはどうやら......。」
急な運動に息が上がり、口の中で若干血の味が広がっているクラス長に変わって伊須が尾辺に説明をする。
「みんな!もう時間無いから撮ろう!」
「...ちょっと待った!」
そう言って仲田がみんなを集めると柴北はクラス長の元へ近づき、彼からビデオカメラを取り上げて床に置く。
「一枚くらい自分のスマホに残しなよクラス長。」
「確かに!カメラ回してて全然撮ってないだろ!」
遊部はクラス長のスマホを開いてカメラを無理やり起動させた。
「クラス長、号令よろしく!」
「え、あぁ...。」
伸ばす右手、慣れない自撮りで慣れない表情を作るクラス長を先頭に十人の生徒が画角と思い出でギュウギュウに詰め込まれたその写真は、クラス長にとって最初で最後の一枚であり、かけがえのない思い出になったのであった。
「...お前らもう鐘なるぞー!」
「うわ、六澤!みんな急ご!」
置き去りにされたカメラ。
遠くで叫ぶ彼らの声を最後に、彼は電源を落とした。
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