第34話 教室縦断スペシャルQ (文化祭編#12)

12時を回り文化祭も中盤、前の仕事の人と交代したクラス長はカメラを充電しながらロッカーの上に立てていた。


横並びの机によって生み出された境界線の向こう側から輪ゴムを飛ばし、洗濯ばさみで挟んだ紙を打ち落とす単純な遊びで稼ぐ一回500円のそれは中々な商売。


「三人さ...めっちゃ暇じゃない?」


嬉しいと悲しいの合間の感情を持ちながら輪ゴムを拾ったり景品を触ったりして廊下を眺めて客を待つクラス長含め四人のメンバー。


「三田はどっか行った?」

「俺はブラスバンド部と軽音部の対バン見てきた。」

「え、そんなんやってんの?」


交互にやってくる管楽器と弦楽器の波で耳の穴が凄いことになったらしい。


「すごいな...澪島さんは?」

「私は給食の再現してくれる喫茶に行ってきたわ。」

「それ大人になってから行くやつじゃない?」


どうやら看板に貼りつけてあった袋入りソフト麺の写真を見て胸にこみ上げる何かがあったらしい。


「まあ、気持ちは分かるけど...木見君は?」

「僕はレンタル一緒に回る人使って色々行ったよ。」

「え、なんか何でもありすぎない?うちの学校。」


自分の所が一番の盛り上がりだと思っていたが、それよりも面白そうなところがあったのかとまだ見ぬ場所が楽しみになっていた。


「まあ多様性の時代だからじゃない?」

「そういう問題なのか...?」


よく考えたら開幕からカジノに行ったり、情報屋がいたり、でっかいスクリーンを用いてのゲーム大会があったり、ラジオに飛び入り参加などを経験している彼は今更気にするようなことではない。


「...にしてもさすがに客来なさすぎるか。」

「俺、二年生が完全に上位互換の射的やってたぞ。」

「え、マジで?」


コルクを詰める銃、カードゲームのボックスやプリペイドカードなどの景品、高校生の心をくすぐる完璧なセットが並んでいたと三田は語る。


「ゲームのコントローラーとかもあった。」

「マジで?そりゃ来ないわ。」

「張り合えるのこのでっかいランタンくらいか。」


ハロウィン前ということで雑貨屋に並んでいた大きなランタンを手に取ったクラス長。

調子のいいスイカくらい大きなそのランタンは特に箱とかがないため、近づいてみてみるとゴムの跡がちょこちょこついているのが分かる。


「クラス長...凄いキラキラして見てんな。」

「三田...見ろよ、めっちゃ可愛く見えてくるぞ。」


文房具や芳香剤、無機質に並ぶ景品の真ん中にどっしりと構える大きなランタン。

ハロウィンらしい色合いにくりぬかれたハロウィンらしいオバケの笑顔。

モノクロの世界に一色混じり込んだようなのようなその個性に、四人全員が惹かれていく。


「もし、これ取られなかったらジャンケンしないかい?」

「木見!賛成!」

「...しょうがないわね。」


木見の提案に目を輝かして賛成する三田とクールなふりして実は一番欲しがっている澪島。

しかしその三人の意見に表情で反対するクラス長。


「ダメだよ、俺が買ってきたんだから。」


もし余った景品は買った人間が持って帰ってもいいというルールがあるこの射的、当然クラス長が持って帰ってもいいしその否定はどんなものであっても通用しない。


「えー、そこをなんとかクラス長。」

「ダメだ、ここで折れたらクラス長の威厳とか無くなる気がするしなにより俺はジャンケンがあんまり強くない。」


クラス長はブイの字に眉を上げ、大きなランタンを強く抱き寄せた。


「分かった、クラス長が得意なルールでいいから。」

「......うーん。」


クラス長は思った以上の三人の思いに唇をしまって深く考える。

チクタクと流れる時計の音だけが響く教室、相変わらず客はだれ一人としてやってこない。


「やっぱだめだ、そういうルールにしても結局俺より上手い奴とか出てきて威厳とランタンどっちも無くなるオチが見える。」

「...じゃあクラス長クイズはどうかしら?」


澪島はカッコつけながら前のめりに案を出す。


「クラス長クイズ?」

「三人がクラス長に関するクイズに答えて、優勝者に与えられるルールよ。」


確かにそれなら威厳は残さずにゲームバランスはクラス長が自由に決めてもいいので彼にとって悪いことが全くない。


「...いや、俺貰えねえじゃん!」


バレたか、と歯を見せて小さく悔しがる澪島の横でピカリと何かひらめく木見は手を挙げて三人の注目を集める


「じゃあ間違えた人からドボンにして、全員ドボンしたらクラス長が持ってくルールはどうだい?」

「おー木見!それいいな!」

「まあ、初登場ですから。」


合計三問の用意と、不正の内容に先に答えを書いた紙を裏側にして伏せて早速第一問目を始める。


「クラス長の、好きな動物は何でしょう。」

「はい!エビ!」

「ブー、はい三田ドボンね。」


なんの根拠もないエビに思わず吹き出しそうになったが、ランタンがかかっていることを思い出して何とか真顔でMCを続ける。


「はい、えーネコ。」

「ブー、猫はアレルギーですので澪島さんドボン。」


二人に託された木見はプレッシャーを感じながら手を挙げて答える。


「さあ木見君、答えをどうぞ!」

「...キツネ?」

「はいシンプルに違います残念!」


クラス長は笑顔でランタンを持ち上げ、勝利の舞を踊る。


「えー正解は?」

「オジサン。」

「は?」


意味の分からない回答に三人はちょっと待ったをかける。


「オジサンって人間ってこと?」

「いや違う、魚の名前よ。」

「オジサンなんて魚いねえだろ!」

「いやいるから!」


クラス長は写真フォルダを開き、魚の方のオジサンの写真を三人に見せる。


「これ見た過ぎて一人で水族館行ったし。」

「見た目全然オジサンじゃねえし...」

「フグとかの方がオジサンじゃないか....。」


分かるわけない問題に落胆する三人のブスっととした表情に、だんだん申し訳ない気持ちになってきたクラス長は大きな声を上げる。


「...第二問!」

「いや、いいよどうせわかんない系だし。」

「そうね、どうせオジサンクラスが来るでしょうね。」

「次の答えはヒイオジイチャンとかでしょうか...。」


背中を向けて指をツンツンする三人を見ながらも、一応第二問の問題を読み上げる。


「クラス長が、一番好きな教科は何でしょう!」

「...行けるんじゃね?」

「...行けるわ!」

「...行けますね!」


グラデーションのようにだんだんと光を取り戻した三人は考えても分かんないことを必死に考えながら手を挙げる。


「はい!公民!」

「三田違います!公民が好きな高校生なんていません!」

「そんなことねえだろ!」


「はい、体育?」

「澪島さん違います!体育で良い思い出ありません!」

「そうだった....。」


「...はい、音楽?」

「あー惜しい!音楽は二番目!」


あっという間に三人はドボンをし下を見て凹む三人。


「...正解は?」

「月曜一限のLTロングタイムですね。」

「もういい!解散!!」


三田は呼び込み、澪島は会計、木見は軽い掃除をしてクラス長の前から離れる。


「ちょ、ごめんって三田。」

「いやもういいっすよ、なんだLTって。」


「ごめん澪島さん。」

「もういい...うん、もういいから。」


「ごめん木見君。」

「初登場からこんなんって...。」


落ち込むどころか若干クラス長を嫌いになっている三人。

このままではいけないと第三問の問題を急いで書き換えて三人を呼び戻す。


「なんすかLTオジサン。」

「おい誰がLTオジサンだよ。」


「Lオジ。」

「澪島さん、略さないで。」


「最終問題の文章は長いロングタイムですか?」

「お前ら徹底的に叩きに来てんな!」


正直、クラス長は正解されたくないという思いで当たらないようにふざけていた部分もあったとみんなに謝る。


「まあ、いいっすよ。」

「最終問題は正々堂々ね。」

「お願いしますよ?」


熱い目に変わった三人、クラス長はそんな彼らの目を真正面から受け止めながら最後の問題を出題する。


「クラス長は、いつも昼休み自販機で何を買っているでしょう。」

「うわっ!なんか見たことある気する!」

「ちょうどいいの来たわね。」

「分かんなくても当たる可能性は高い!」


学校に設置されている自動販売機は六つ。

中身の種類で言えば50種類くらい、メモ帳を取り出した三人は顔を近づけて考える。


「クラス長コーヒー無理だった気がする。」

「うん、あとゼリー系も論外ね。」

「大体下の自販機使ってるからこれは消えるんじゃない?」


「なんで俺の飲み物事情こんな詳しいんだよ。」


メモ帳に書いた案から要らないものを横線でどんどん消していき、残った選択肢は後四つにまで減らした。


「まあ三人で答えれば四分の三」

「行ける、絶対いけるわ。」


一人ずつ手を上げ、。


「...みかんジュース!」

「...三田、違います。」


「あの乳酸菌の小さいやつ!」

「...澪島さん、違います。」


まさか自分の晩まで回ってくると思ってなかった木見は焦って喉がグッとなって吐きそうになるが、希望を持った二人の視線からなんとか小ゲロを飲み込んで二分の一を大きな声で唱える


「...メロンソーダ!!」


クラス長は本当にそれでいいのかという顔で木見をじっと見つめ、冷徹な表情のままゆっくり口を開く。


「...正解!」

「よっしゃあああ!!」


クラス長はしてやられたと上を向き、三人は肩を寄せ合って優勝したかのように喜んだ。


「クソ...ランタンはお前らのもんだ。」

「...あぁ忘れてた、俺は良いや別に。」

「...え?」

「私もなんかどうでもよくなっちゃった。」

「僕もいいです、なんかスッキリしたんで。」


ランタンなんかよりもクイズの方が大事になっていた三人はランタンをクラス長に渡し、何事もなかったように仕事に戻る。


「みんな...ありがとう!」


あまり関わりの無い四人だったがより一層深い友好関係になった彼らは文化祭を通して楽しいだけではないアツい何かを手にしたのであった。


そしてその後、唯一やってきた来客にランタンを打ち抜かれ、泣きながら渡したクラス長であった。









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