第32話 クウキイス (文化祭編#10)
一人カメラ旅にも一時的に仲間が付き、ようやく文化祭をワクワクできそうと思った時その仲間が廊下でフードをかぶり不穏そうに立っている男をにらむ。
「不審者っぽいのいるな......。」
「あれか、確かに怖いな。」
使っていないはずの教室の前、カメラに映るのは腕を後ろに組みながら周りをゆっくりキョロキョロする細身の男。
「ん、あれって......。」
「二釈、おい待てって!」
大きな身体の彼は大丈夫だと言いながらゆっくり近づく。
そんな巨体がズカズカと攻め込んできても堂々と立ち、むしろ二釈の目をギロリとにらむその男はどこかで見覚えのある男であった。
「やっぱり勝男じゃん.....。」
「...僕は...俺は勝男じゃないでござ...じゃなくて、勝男じゃねえ。」
「全然キャラに入り込めてないじゃないの。」
久しぶりの登場、情報処理研究部出身の彼はフードを外すと改めて自己紹介をした。
「俺は情報屋のアドバジ・ンテー。」
「アナグラム適当だな......。」
「てかンで始めんなよ。」
そういえば情報処理研究部は部活の出し物が午前中にあるため、店番は午後からという話を聞いていた。
「情報はこの世で一番のアドバンテージなんでげ...なんだ。」
「まあなんかそれっぽいけど.....。」
「え、てか情報屋が出し物なの?」
屋がつけばなんでもいいのかとツッコみたくなる二人は彼の中々つかめないキャラクターを優しい目で見つめる。
「君は視聴覚室でやるゲーム大会を知っているかい?」
「あぁ、伊須さんとか出る奴だよな。」
「もちろん知ってる.....。」
勝男は二人が知っていたことを知らずに少し慌てる。
「...え、あ、しってるででげ...知ってるのかい?」
「うん、なんか生徒会が来てな。」
「時間的にもうすぐか......?」
全部知っていた相手に対し、今にも吐きそうな顔でアドリブが出来ない彼は目をグルグルさせながらポケットの中のメモを見て言うことがあったと思い出す。
「そうだ、これがあったででげす。」
「もう語尾隠してねえじゃん。」
「アドバジを見たといえばドリンク一杯無料になるでげす。」
「旅番組か!」
「今気づいたけど、情報処理研究部だから情報屋ってこと......?」
「あぁ!そういうことか!」
実際の所は全く関係ないが、気持ち的に納得した二人はカメラの撮れ高になりそうということで視聴覚室へ向かうことにした。
盛んな教室から少し外れたその教室には知る人ぞ知る秘密のスポットらしい雰囲気を醸し出しており、彼らはその雰囲気に手を招かれるように入って行った。
「ようこそ、ピクシー&オーガの世界へ。」
「これか......。」
中は本当にゲーム大会のようになっており、観覧チケットと合言葉でジュースをもらった二人は等間隔に置かれた観客席の通路側に座る。
「すげえセッティングだな。」
「ようやったわこんな準備。」
スピーカーからはこれからなにかが始まりそうな音楽と、映像には情報処理研究部が作ったと言われているゲームのオープニング映像のようなものが流れており、もう想像以上の世界観を食らっている。
続々と後ろから集まってくる生徒達。
その中に見覚えのあるカチューシャが一瞬彼らの横を通り過ぎる。
「あ、伊須さん!」
「...え!見に来てくれたの!?」
高校人生で初めて当たりそうなスポットライトに彼女はあたふたしながらもカメラに固い表情でしっかりピースする。
「あの時はゲーム知識ゼロっぽかったけど、大丈夫?」
「うん、二釈君に教えてもらったりしたから...。」
「...え!?いつの間に!?」
二釈は師匠のような面構えで大きく頷きながらサムズアップをする。
電源のつけ方も分からなかった彼女の凛々しい表情を見たクラス長は、自信満々のその瞳にカメラ越しでなく自身の目で見つめながらサムズアップをした。
「クラス長、そして師匠...頑張ります。」
「おう、頑張って!」
「ワシの教えじゃ、かましてきなさい......。」
「師匠過ぎるだろ。」
そんなこんなでオープニングが始まり、文化祭らしいモタつき具合で始まった第一試合。
二人はプロジェクターに映し出された二釈はクラス長にゲームの解説をしながら珍しくまじめな顔をして質問を投げかける。
「伊須さん、優勝できると思うか......?」
「まあ、二釈の教えならいけんだろ。」
「悪いが俺は勝つ方法は一切教えていない......。」
「え?」
画面を見ながら会話をしているとあっという間に終わる試合の数々。
二体を使ったモンスターバトルは一回戦目からアツい死闘白熱を繰り広げ、会場は大きく盛り上がる。
「すげえな、最後の最後に逆転した。」
「すげえ読み合いだったな......。」
知らない人たち同士のアツい握手を終えると、空気に慣れてきた観客の拍手もパラパラくらいになり、とうとう一回戦最終試合のコールが響く。
「お、伊須さんじゃない?」
「出てきたけどめっちゃ緊張してんな......。」
緊張しながら舞台に登壇する伊須、一方相手は一目でゲーマーだと分かるように風貌の男であった。
二人は一礼をして席に座ると、ゲーム機を専用の機械に接続して準備を待つ。
「あいつ俺なんか見たことある気がすんな。」
「体育祭......?」
「...あー!そうだわ!」
あの時負けた記憶がしっかりフラッシュバックしたと同時に思わずデカい声で応援しそうになったが、場の空気的に無理矢理呑み込んだクラス長は合言葉でもらったジュースで感情を流し込んで落ち着かせる。
「勝ってくれ...じゃなくてさっきのどういう意味だ?」
「ああ.......。」
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遡る事数日前、委員会活動により文化祭準備が無かった時のこと。
「ねえ二釈君。」
「え、あぁ...どうしたんすか.....?」
「ちょっと教えてほしいことがあって...いい?」
伊須は真剣なまなざしで二釈の目を見つめ、その瞳に思わずドキッとするが視線をうまく外しながら話を聞く。
「俺勉強とか出来ねえっすよ......?」
「うん、知ってる。」
「ちょいちょいちょい......。」
使われていない教室に残った二人が挟む机には、あの時渡された小さなゲーム機がぽつんと置かれた。
「...私、もうそろそろ目立ちたいの。」
「え......?」
聞いたことのない宣言に思わず目を見つめ返し、どういうことかを改めて整頓しようとすると、びっくりするくらいの文字量が彼女の口からこぼれてくる。
「...って感じで。」
「簡単に言えば、結果を出しても見られないってことっすね.....?」
「うん...あと、最近は結果を残そうとして空ぶっちゃうんです。」
「もうそれ占い師とかにする相談っすよ......。」
想像よりガチな相談をされ、どうしていいか分からなかったがさっき置かれた一つのゲーム機をみて状況を完璧に理解した二釈は一度ゲーム機と説明書を借りて内容を覚える。
「分かりました....まあ、行けるとこまでやってみますか。」
「...はい!」
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「もちろん俺も最初は優勝することを考えたが、彼女のゲームセンスは悪いが壊滅的、成長にも限界が来た......。」
どうしたらいいか分からず頭を抱えた二釈は昨日の夜、急いで変更した作戦を彼女に送り育成を進めてもらった。
「まあ、グダグダ説明しちゃったけど見てもらうのが早い......。」
「楽しみだな。」
相手のチームはいかにも強そうなモンスターを集めており、一方伊須のパーティはどこかか弱そうな見た目だったり気持ち悪いモンスターだったり。
対戦相手の男もこれは貰ったと言わんばかりに笑っており、ゲームの内容を全く知らないクラス長から見ても勝てるわけがないと察せるほどであった。
「あれな、序盤で手に入る雑魚モンスターなんだ.....。」
「お前、目立ちたいからって恥かかせようとしてんじゃ!?」
伊須と相手はパーティを選び終えると、バトル開始の合図が鳴り響く。
相手が出してきたのは真っ黒で大きな身体をしたドラゴン。
一方伊須から出てきたのは小さいドングリであった。
「お前良くねえって流石にそれは。」
「いいから見てなって......。」
相手は何も考えずに攻撃を選択し、伊須は本当にこれでいいのかと首をかしげながら選択する。
「読み合いが出来ないなら、しなけりゃいい.....。」
「え?」
ドラゴンが行動しようとしたその瞬間、先攻を取ったドングリは大爆発を巻き起こして大ダメージを与える。
「え、なにこれ。」
「無駄に鍛えてありきたりな試合するなら、こういう一発分かりやすい方が目立つって話ですよ......。」
彼女が求めたのはあくまで優勝ではなく"目立ちたい"という承認欲求である。
彼女が選んだそのコマンドはゲームの中のドングリだけでなく、会場全員が爆発するかのように沸いた。
「お前、後二体も爆発させんのか?」
「それは芸がないでしょ......?」
対戦相手もさすがに動揺しており、空気に飲み込まれそうになりながらも次のモンスターを待つ。
「なんだ今度は...貧弱なピエロみたいな。」
「まあ見てなよ......。」
ドラゴンは今度はちゃんと先行をとり火を噴く。
しかし二釈の言うとおりに育てたピエロはギリギリで攻撃を耐え、順番が回ってきたピエロは攻撃をする。
「...コイントス?なんだこれ。」
「表だと大ダメージ、裏だと死ぬモンスター......。」
高く舞い上がるコイン。
全員が釘付けになったその一枚はきらりと表向きに輝き、ピエロの一突きでドラゴンは倒れる。
盛り上がる会場、響く指笛と歓声。
「完全に伊須さんの空気だなこれ。」
「これ下手したら勝っちゃうか......?」
相手は下唇を噛みながら二体目を出す。
現れたのは相変わらずカッコいい戦士のようなモンスター。
盛り上がる歓声はそのモンスターに対してというよりも、このモンスターを倒せるかもしれない伊須の姿に対してであった。
「いい意味で今までのツケが回ってきたな。」
「ああ、良かった良かった......。」
これまでにないほど注目を受けている伊須はさっきまで余裕をこいていた相手よりも動揺している。
「まあ、彼女は良くも悪くも真面目に取り組みすぎってことだったのかもな......。」
「出来ないなら出来ないなりに出来ることを探すのも大事ってことか。」
もう一度宙を舞うコイントス、強く祈る彼女の元に落ちてきたのは裏の面。
会場からは残念そうな声や爆笑が響き、ピエロがやられると共に面白い試合だったと今日一番の拍手と歓声が鳴り響く。
伊須はあたふたしながら色んな方向に頭を下げて壇を降りると、会場は一度明るくなり第二試合の準備を始める。
「伊須さん出て行くっぽいし、俺らも行くか。」
「そうだな......。」
二人は席を立ち、戻ってくる伊須とグータッチをして外へ出る。
カメラに映る彼女のピースはさっきよりもラフでドングリの大爆発よりも、表に向いたピエロのコインよりも輝いていた。
「良かったよマジで。」
「ほんと?ありがとう師匠。」
「よう頑張ったのう.......。」
一回戦負けなのにもかかわらず、もうMVP賞のお菓子をもらった伊須は半分を二釈に渡し、小さいせんべいをクラス長に渡した。
「ありがと、大事に食うよ。」
「ごめん、家族来てたっぽいから行くわ.......!」
「おお!急げ急げ!」
二釈は改めて伊須とグータッチを交わし、クラス長にはもらったお菓子の中からせんべいを渡して去って行った。
「え、みんなせんべい嫌いなの?」
「クラス長がせんべい好きじゃなかったっけ?」
「そのイメージどこでついたんだよ。」
軽い足取りで階段を降りながら対戦インタビューを軽くした伊須は、次の時間の仕事当番ということで早めだけどクラス長に手を振って向かう事にした。
「...いやなんかちょっと疲れたしどっかで休憩するか。」
「あ、クラス長!」
「おお、え、どうした。」
ずっと探してたと言わんばかりの顔で駆け寄ってきたのは同じクラスの放送部の男。
「あ、
「今校内放送してんだけどさ...ゲストで出てくんない!?」
「え!?今から!?」
久鳴はクラス長の返事を待つ前にこっちだとラジオブースの方を指差しながら走っていく。
クラス長はダッシュの後を追うように周りに頭を下げながら追いかけて行った。
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