第31話 カメラマン長暮(文化祭編#9)

これはとある学校のクラス長、長暮エイジに渡されたビデオカメラの記録である。


文化祭当日の九時頃


朝の会と校長の話を終え、一番最初の仕事係に手を振って任して外へ出た生徒達。

そんな彼らの中に紛れて出て行ったクラス長を止めたのは、担任の六澤である。


「クラス長、ちょっといいですか。」

「どうしま...ってなんでカメラ持ってるんですか?」


クラス長は回っているカメラを指差し、なんとなく嫌な予感を感じながらもカメラを持っている動機を聞く。


「クラス長、文化祭周る人がいないと聞きまして。」

「どのルートから聞いたんすかそれ。」


進行を何食わぬ顔でどんどん回し続ける彼の顔を見てかなり怪訝そうな顔をするクラス長をまあまあと落ち着かせながら手を合わせてお願いをする。


「もしよければこのカメラで文化祭の記録を残してくれませんか?」

「...いや、広告部の羽谷君とかはダメなんですか?」

「彼、自作エッセイ本のサイン会とかあるからさ。」

「クッ...そいえばなんか言ってたな。」


クラス長は下を向いて少し考えた後、どうせ何もすることないので別にいいかと思ったが、このまま受け取るのは何か癪に障るのでしょうがない雰囲気を出しながら六澤からカメラを受け取り、ちゃんとした説明を受ける。


「基本的に自分の周りたいところ行ってもらいながら、一年二組のメンバーと出会ったら少し喋ってもらって...あ、後これ。」


六澤はスーツのポケットから大きめのキラキラしたタスキを取り出すと、カメラで手がふさがっているクラス長の体にかける。


「これかけてたら撮影してるって分かるから。」

「キモいタスキつけてカメラ回して...公開処刑じゃないすか。」

「あと自分が仕事の時はどっか置いて定点で撮ってくれやいいから。」


クラス長の溢す愚痴を無視して話を進めていった担任は自分の要件を伝え終わると、目に見えるような隠せないウキウキ状態で彼の元を離れる。


「えーということで...いや、だいぶ手塞がるのキツイな。」


クラス長はなにしたらいいか分からず、とりあえず何も見ずに自分のクラスの隣にある教室へ入っていく。


「いらっしゃ...おお!長暮くんじゃん!」

「あ、シュンさん...お久しぶりです。」

「どうしたの...そんな陽気な格好して。」


クラス長は顔を赤くしながら説明しをすると、シュンちゃんはそれは災難だったと言いながら手を叩いて笑いながらこの店の話をする。


「うちはね、看板の通りカジノ!」

「は、え、カジノ?」


いちど店を出て看板を確認して後悔する。

最初はなんとなくメジャーな店からだというなんとなく定石があったが、その真逆を突っ走ってしまったクラス長。

しかし、動画の見応え的には悪くないだろうと思い話を聞くことに。


「まあ言っても本場とは全然違うし、正直雰囲気だけ!」

「あんま言わない方がいいっすよ。」


黒板に書いてある項目はハイアンドロー、ブラックジャック、そしてなぜかスピードの三つ。

クラス長はブラックジャックを選ぶとシュンちゃんの指示する席へ座り、参加費の五百円を自作っぽいチップと交換する。


「ルールは分かる?」

「なんか数字を21にするためにドローしてく奴ですよね。」

「そうそう!オーバーするか最終的に親の方が大きいと負け。」


簡単なルール説明を聞いて首を振ると、シュンちゃんは暇そうにしている生徒を呼びカメラの担当をお願いする。


「すいません...ってあなた広告部の!」

「あ、あの時はどうも...。」


カメラを持ったのはあの時羽谷の後ろに一緒にいたカメラ担当の女の子。

クラス長はあの時ダサい姿を見せてしまったことを思い出しなんとも言えぬ表情をするが、ダサい姿は見せられまいと髪の毛をかき上げる。


「...よし、撮れ高のためだ。」

「え、初手全額ベッド!?」


クラス長は余裕そうな顔を作っているつもりだが、小刻みに震えているその手には後悔とかかれた文字が見える。

シュンちゃんはすっかりディーラーらしい表情に切り替え冷静にカードを配っていく。


「10と8...悪くないが...。」

「どうする?全額なんだからよく考えて。」


クラス長はシュンちゃんの言う通り鼻にの眉毛に大量のシワを寄せて考える。

ものすごく単純に考えてトランプのデッキから四より低い数字を引く確率は低い。

未成年でまともにギャンブルをしてきていない彼からしたらそのくらいしか考えられない。


しかし、クラス長には謎の自身があった。

それもそのはず、髪をかき上げた彼は、あの身体測定や体育祭の時と同じく天下を取りに行くモードに入っている。


そのモードに入った彼からはなんとなく強そうなオーラを醸しだされており、まるで逆転が確定しているかのような雰囲気が流れ出していく。


そんな彼のオーラにディーラーの彼も思わずニヤリと笑い、まだ始まったばかりの文化祭なのにクライマックスのような空気感が漂っていた。


「いや、俺なら引ける...。」

「...ふん、君はエンターテイナーだ。」


"なんか借金してる雰囲気出ているが五百円だよねこれ"

という思いを喉のギリギリに抑え込むカメラマンはクラス長の表情をばっちり写した後、三枚目のカードに焦点をずらす。


「...来る...この感じ...今なら勝てる...!」

「...!」


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髪をおろし、やつれた表情でカジノを出た彼はこもった熱を追っ払うため、校内の自動販売機で炭酸のジュースを買う。


「...二釈。」

「お、クラス長...って目が真っ黒じゃないか.......。」


クラス長はさっきのカジノとカメラについての説明をすると、あまりにも可哀想だと思った二釈はペットボトルのジュースをおごった。


「ありがたすぎるマジで。」

「クラス長のセンスかと思ったよそのタスキ...。」

「俺どう思われてんだよ。」


クラス長はカメラをいったん二釈に渡し、ジュースを半分ほど飲んで喉と瞳孔に潤いを取り戻していつもの顔になる。


「てか従妹と周る予定だったんじゃ?」

「どうやら渋滞で遅れてるっぽいんだ......。」

「そうか、それまで一緒にまわんねえか?」


二釈はカメラにあんまり映らないならいいという条件で同行を許可し、一人でどうしたらいいか分かんなかったクラス長はホッとして肩の力を抜く。


「おおい、カメラ下に向けんなよ......。」

「ごめん、本当に力抜けちゃってた。」


文化祭はまだまだ続く。






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