第30話 双眼鏡は目の前の事実を拾えない(文化祭編#8)

明日はとうとう文化祭

看板作りと顔出しパネルも完成し、今日は明日スムーズに進ませるための準備。


「じゃあ、今日ラストなので最終確認しながらしっかり作っていきましょう!」

「なに、やけに気合い入ってるじゃんクラス長。」


教壇をバシッと叩き鼓舞を入れるクラス長、いつもと違った彼の姿に準備を手伝うみんなはどんな反応をしていいか分からず、最終的に中途半端で変な笑みがこぼれる。


「いやいや...クラス長はいつものままでいいんだよ。」

「仲田...」


仲田の言葉とその通りだと言わんばかりの表情に唇を結ぶクラス長は、確かにそうだと一度大きく頷いてパンっと手を叩く。


「ほだらいつも通りやってくっちゅうでごわすゴンスッス。」

「誰だお前。」


そんな感じで始まった文化祭準備最終日。

ポスター制作係の四人は廊下への張り出しへ出かけ、看板係は廊下で苦戦。

顔出し看板の三人は浮かれて顔を交代ではめて遊ぶ。


「こんな余裕あるのもみんなが頑張ったおかげだよ。」

「ね、クラス長はあんまなんもしてないけど。」


柴北の鋭い言葉に射的用のゴム鉄砲ではなくガチ鉄砲を撃たれたような顔でしゃがみこむクラス長はうずくまったまま考え込むとハッとして目を見開く。


「ちょ、ゴム鉄砲作ってないじゃん!」

「...ああっ!うわっ!あああああああ!」


柴北の叫びにみんな集まり、クラス長は説明を始めると目をかっぴらいて盲点だったと顔を合わせる。


「割り箸は?」

「いや、いきなり言われても...」


みんなどうしようかと頭を掻きながら脳みそをまわすが、いきなり出てきた大きな課題に焦って全然何も思い浮かばない。


「百均あったっけ?」

「とりあえず行こう...じゃあ仲田と俺でいくわ!」


クラス長のその言葉に頷くと同時に走り出した仲田、そんな彼の超早いスピードになんとか姿を見失わないように後ろから必死に追いかける。


「ちょ、なんで今日に限って赤信号ねえんだ...。」


バテているクラス長を遠くで早く来てと手招きする仲田。

長く一緒に居ながらあまり体感してこなかった彼のスピードの能力に尊敬するが、正直それ以上に余裕で置いていく彼へのムカつきが勝っていた。


「はぁ...はぁ...追いついた。」

「お疲れ、はいジュース。」


自分の中の全力ランニングをして息を切らしながら八分。

真っ白な頭の中、若干血の味がする呼吸をしながら膝に手を付くクラス長、目の前に差し出された缶を一気に飲み干そうとする。


「...おいゼリーじゃねえか!!」

「ごめん、今するボケじゃないわこれ。」


スポドリを受け取り、バクバクする心臓を抑えながら無理やり喉を潤して死にかけの体を何とか立て直す。


「いやぁ...よかったほんと...これが...秋の始まりで。」

「ごめんな、俺も焦っちゃって足がもう。」

「これ...夏なら...もう...ごめん、なんの例えも出ないわ。」


首を横に振って無理矢理目を覚まし、到着した近くのショッピングセンターへ入っていく。


「百均は二階か...えー、階段は?」

「いや、もうエレべーターかエスカレーター。」


目を強くパチクリさせ、呼吸を落ち着かせながらエスカレーターに乗ったふたりはすぐ目の前にある百均のコーナーへ入っていった。


「...割り箸どこだ?」

「こういう時は上の看板見れば一発よ。」


クラス長は天井からつるされているコーナーを指差しながらある程度どこにあるかを確認すると、レジャー用品コーナーに標準を合わせてその場所まで歩くと目に入る位置に堂々と置いていた。


「てか、百均ならおもちゃの銃とかないかな。」

「クラス長...それは天才だ。」


一応割り箸をカゴの中に入れ、仲田はさっきのクラス長のモノマネをしておもちゃコーナーへと標準を合わせながらキョロキョロして歩いていく。


「あーあった。」

「うわ、トランプとかあるんだ!」

「おもちゃも景品にしてもいいかもね。」


本当は自分が欲しいという理由に言い訳を付けてトランプやマジックアイテム。

別のコーナーに行ってはサングラスやハロウィン用に出されていたであろう小さな置物を手に取る。


「結局いっぱい買っちゃったよ...」

「これマジでなんでなんだろうな。」


大きな袋に商品を詰め、クラスの人たちに何を言われるか予想しながらエスカレーターを降りてショッピングモールを出る。


「柴北さんが指さして"買いすぎじゃない!?"だと思う。」

「俺は遊部っちがこの袋に目を見開いて"えぇ!?"だな。」


大きな袋を抱えながら歩く秋の歩道。

ひゅるりと吹く冷たい風、それにあやかるかのように彼らの前で踊り出す紅葉に時の流れを感じて少しだけ切なくなる。


「...このクラスで過ごすのも半年ないんだな。」

「クラス長、そういうのって三年で言うもんだろ。」

「フッ、俺もそれは言いながら思ったけど。」


重たい袋を交代しながら持ち、交代するたびに心の中でなんで隣が女子じゃねえんだよと顔をしかめながら二人は歩く。


ちょっとした振り返りをしながら歩いて二十分。

重たい足取りで学校の階段を上り、クラスに着くと案の定大きな袋に指を差された。


「サンタコスのハロウィンですかぁ?」

「ちょ、無理だわそれは。」

「尾辺っちょワードビタ当ては無理だ。」


クラス長と仲田は景品の為だと言い訳しながら次々袋の中から商品を展開していく。


「うわ、サングラス。」

「ちょうどいいもん売ってたなぁ。」


みんなやはり百均アイテムの魅力に引き寄せられるが、これはあくまで割り箸鉄砲の元を買いに行くための作業であり、決しておもちゃで遊ぼうの回ではない。


「はい、割り箸五十セットね。」

「いやもっと少ないのでいいのに....って輪ゴムは?」


「あ...めっちゃそうじゃん。」

「ていうかゴム鉄砲って最初言ってなかった?」


しまったという表情をしながら謝る二人。

そんな二人を見てどうすればいいか分からず頭を抱えるクラスメイトの前にバッと立ち上がったのはクラス長。


「ちょっと待った、後で土下座するから代替案を聞いてくれ。」

「クラス長...プライドなさすぎるけど、今はアンタが頼りだ。」


クラス長は大きな袋をガサゴソ漁り、小さなピストルのおもちゃを取り出して見せつけた。


「もしものためと、俺らはおもちゃのピストルを買っていたんだ。」

「あ、そうだ!そうだった!」


冷静な顔で貸してくれという遊部にピストルを渡すと、パッケージと裏を確認して確信した。


「これあれだよ、音鳴るだけの奴だよ。」

「え、嘘だ貸してみ!?」


遊部から返してもらい、確認する二人。


「うわー、ほんとうだ。」

「火花がみえますだって。」


「...まあ、じゃあさっきの約束通り。」


頭の中は真っ白、目の奥は真っ黒になってしまった二人。

どうしようもない状況になった二人は一回さっきの約束を果たそうと歯を食いしばりながら膝を地面につける。


「このたびは....」

「大変申しわ...」


頭を下げようとしたとき、クラスの扉がガラガラと開く。


「貼り終えました...って二人とも何してんの.......?」

「あ、二釈たち...毎日会ってはいるけどなんか久しぶりだな。」

「あぁ、なんでだろうな.......。」


二釈達にに事の経緯と、今から大土下座のフェーズだということを説明すると四人は顔を合わせて首をかしげる。


「いや、別に明日持ってこればいいじゃん......。」


「...え、めっちゃそうじゃん。」


誰も気づかなかった盲点。

今日中になにもかも全部終わらせないといけないと全員が勝手に勘違いして全員が勝手に焦っていただけの話だった。


「じゃあ、えーっと...終わり!」

「そんな感じで終わるんだ。」


変な感じで終わった文化祭準備期間、しかしこれはあくまで準備であり本番は明日。

このクラスがうまくちゃんと回ることを願い、クラス長はちゃんと周る相手を見つけられることを願い解散した。




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