第26話 バツの押せない広告(文化祭編#4)
「あ、どうも広告部でーす。」
黙々と作業をしていたクラスに入り込んでくる二人の学生、少女はビデオカメラを構えて少年はマイクっぽい何かを持っている。
「えっと...どちらでしょうか?」
「あ、だから広告部です...。」
仲田はよそよそしく頭を下げると二歩先の現場へ戻り、ダンボールを白く塗りつぶすクラス長にバトンタッチをする。
「あのごめんなさい...別のクラスの出入り怒られちゃうんで...。」
「あぁだから自分達広告部なんです...てか俺は一年二組だよ。」
「...あ、羽谷君じゃん!」
広告部...去年までは新聞部という名前で活動していたがよく考えたらあんまり新聞を作ることないし、なんならこういうイベントの時のPV作ったりしている方が活動として大きいことに気づいたので今年から名前を変えた部活である。
「羽谷君って広告部だったんだ。」
「そ、ロビーにある掲示板でたまに小さいコラム掲載してんだけどな。」
その言葉に耳をピクつかせた一人の少女は席を立ち上がると、目をキラキラさせながらクラス長の前に割り込んでくる。
「も、もしや羽ペン先生って...羽谷君だったの?」
「宵川さん...見てくれてんの...?」
さらに目を輝かした宵川は、羽谷の左手を両手で包み込むような握手を交わして頭を何度も下げる。
「あなたのコラム、とても好きなの。」
「ありがとう...今度、広告部の出し物でエッセイ本を出版することになったんだ。」
「...!」
嬉しい思いを吐き出したら止まらなくなりそうな宵川は包んでいた両手で口を塞ながら席に戻り、ルンルン気分でポスター作りを再開する。
「ふぅ...彼女のキャラ掴めないな。」
羽谷は一旦空気を改めるようにマイクを握りなおすと改めてここに来た理由を話すことに。
「...え、インタビュー?」
「あぁ、色んな所周ってるんだ。」
どうやら文化祭まで掲示板に貼る用の記事の内容をインタビュー形式で聞いて回っているらしい
クラス長はすぐ理解するとすぐに二人用と自分用のイスを用意し、羽谷たちは急いで撮影の準備を始める。
「面白かったら大きく掲載されるから、それじゃ回すね。」
「...!」
"面白かったら大きく掲載される"
その言葉を聞き逃さなかった、いや聞き逃せなかったクラス長は途端に緊張し始めて瞬きをしながら固唾をのみ込む。
「...クラス長、こちらの出し物はなんですか?」
「え、あぁーえっと、射的です。」
「ほう、どういったものを並べる予定ですか?」
「えっと、学校でも使えるような文房具とか...ですかね。」
「なるほど、射的はの銃はなにを使う予定ですか?」
「あのー割り箸の、あのゴム鉄砲の...やつです。」
「...最後に何か一言ありますか?」
「えー、皆さん来てください。」
「...ありがとうございました。」
「ありがとうございました。」
ピッというカメラの停止音が鳴り響くクラス、黙々と作業をしているのは変わらないはずなのに撮影が始まる前と後では明らかに違う空気が漂っていた。
「なんだよお前ら...ずっとつまんなかったみたいな顔してこっち見るなよ。」
「まあ、掲載されても切手くらいのサイズだろうな。」
「そんなに言うならやってみろよ仲田!」
もう一度撮影を求めるように余裕の表情で広告部の方へ指を鳴らすと、羽谷は後ろの女の子カメラマンに指示を出す。
「じゃあもう一回回すね。」
仲田は一度呼吸を整えて肩を回す。
「...えー仲田君、こちらの出し物はなんですか?」
「こちら、射的です。撃つ方のやつです。」
「撃つ以外の射的が分かんないですけども...どういったものを並べる予定ですか?」
「こちら、文房具ですね。学校で使う方の文房具ですね。」
「まあ大体学校で使うと思うんですが...射的の銃はなにを使う予定ですか?」
「割り箸の鉄砲です!割り箸っていっても割る方のやつですよ?」
「...えー最後に何か一言ありますか?」
「一言...喋る方のやつですか?」
「はいストップストップ!」
仲田のインタビューに割り込みお前も大概だろとツッコむクラス長。
「一辺倒過ぎるだろ!てかなんだ割る方の割り箸って!」
「ボケないよりましだと思いますが!?」
「くっ......。」
次の言葉を吐こうとしていたクラス長は一発の反論がクリティカルヒットして本当に顎に食らったかのように上を向いて止まる。
「クラス長、大丈夫ですかぁ?」
「...大丈夫、じゃない。」
尾辺は背中をさすりながら看板の方まで連れていき、そのまま作業場所に無理やり座らせる。
「オッケーありがと、一応これで何とか記事にするわ。」
「おう、よろしく!」
数日後、掲示板が更新された。
「クラス長!一年二組が一番大きく乗ってるぞ!」
「一番大きく乗ってる......けど」
大きく貼られていたのは宵川と羽谷の会話。
そう、羽谷自身のエッセイの宣伝であった。
「俺のボケ、切手サイズ...」
「俺のインタビュー、無かったことになってる。」
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