第21話 お誘いと乞い

「え、あぁ...考えときます。」

廊下で担任の六澤と話していた長暮は、思いつめた表情をしながら席に座る。


「クラス長、どうしたんだよ。」

「え、なにが?」

見透かされていることを分かっているはずなのに、明らかにおかしな態度をとるクラス長の顔をじっくり見つめる仲田と二釈。


「もしかして......」

「なにか分かったか!二釈!」

「六澤と付き合った......?」


二釈の変なボケにクラス長は安心をし、溜まっていた緊張交じりのため息を吐いた。


「ちょ、二釈マジで何言ってんの?んなわけねえだろ。」

「いやごめん、なんか前回の出番なさ過ぎて......。」

「にしても変なこと言いすぎてるって。」


下唇を噛み、行く当てのない視線で虚無を見つめているクラス長を、二人は心配そうに見つめながら珍しいケースにどうしていいか分からないでいた。


「どうしたんだよ、マジで。」

「あのさ...」


クラス長はムニュムニュしていた口をとうとう開こうとすると

キーンコーンカーンコーン

「あ、ごめん...また後で言うわ。」

「タイミング良いのか悪いのか......。」

狙っていたようなタイミングで鳴り響く鐘に苛立ちを覚えながら授業の準備をする二人は、クラス長のことで頭がいっぱいになり授業どころではなかった。


五十分後、授業終わりの礼を終えた二人はすぐにクラス長の元へ歩いていく。


「お前のこと考えてたら授業終わったわ......。」

「ほんと、好きな人より考えたぞクラス長。」


クラス長はフッと久々の笑顔を見せると、肩をグルグルして緊張を解きやっと口を開く。


「実は...」

「クラス長、先生呼び行くよ!」

「あ、瀧田さん待って!」

クラス長はごめんと手を合わせて瀧田の後を追っかけていく。


「これで大した事無かったらローキックしてやろうぜ。」

「確かにな、くるぶし粉々にしたろ......。」

「やりすぎだしロー過ぎるって。」


先生を呼びに戻ってきた二人は教壇に立ち明日の予定を話す。


「明日は現代文が数学に変わりますので。」

「...ので。」

「委員会からの連絡ある人いますか?」

「...すか?」


ざわつくクラス、それもそのはず

「嘘だろ......」

「副クラス長が先導してる。」


いつもはクラス長がメインで話し、副クラス長が申し訳程度の合いの手みたいなのを挟むのだが、今日はその逆。

しかし二人は気にせず席に戻り先生に話を任せる。


「えー言うことなし。瀧田、号令してくれ。」

「はい、起立!」


異様な空気になりながらも学校を終えそれぞれのやることへ向かう生徒たち。


「ちょ、マジどうしたんだよクラス長.....。」

「あぁ、ごめんそいえば言ってなかったね。」


椅子を逆さに乗せた机を後ろにやり、掃除を始める生徒達の迷惑にならないように教卓へ集まる三人は改めてクラス長の話を聞く。


「実は、生徒会立候補しないか?って言われたんだ。」

「生徒会......?」

「あぁ、どうやら立候補する人が少なすぎるらしくてさ。」


クラス長はそれでずっと迷っていたと話すと、仲田と二釈は渋い顔をしながら目を合わせてうなずいた。


「クラス長、一から四好きな数字言って。」

「え...二?」

「...じゃあ左の内側のくるぶしだ。」


靴をトントンする仲田に明らかな狂気を感じたクラス長は後ずさりしながら待て待てと止める。


「命乞いか?」

「どうしたんだよ二人とも!」

「あんな感じだったらもっと悪いこと考えちゃうだろうが!」


引っ張った割にはの内容にだんだん苛立ちが増してきた二釈もつま先をトントンしてローキックの練習をし始める。


「待てって、ごめんって!」

「くるぶし乞いか......?」

「くるぶし乞いってなんだよ!」

「めっちゃ心配したんだぞ......?」


二人に大きく頭を下げるクラス長、そんな三人の元へ担任が戻ってくる。


「長暮どうしたそんな頭下げて...二人から金借りようとしてんのか?」

「あ、先生...これはくるぶし乞いです。」

「くるぶし乞い...あぁくるぶし乞いな。」

「え、存在する言葉なの?これって。」


仲田と二釈はそろりと後ろへ下がり担任と長暮の話を聞く。


「そんで決めたか、生徒会は。」

「はい...誘いは嬉しいんですけど今回はパスします。」

「...そうか、分かった。」

六澤はそれだけ聞くと教室を出てまた職員室へと向かっていった。


「え、クラス長入んねえの?」

「あぁ、入るか入らないかでこんな緊張するやつ、絶対失敗するだろ?」

「まあ確かに......。」


「あと、放課後は二人と帰りてえからさ。」


クラス長はすっきりした表情でいつものように笑うと、少したって恥ずかしそうな顔をする。

「クラス長......。」

「ごめんよ~クラス長~。」

二人の元からさっきまでの殺気はすっかりと消え、さっきとは真逆の態度で申し訳なさそうに近寄ってきた。


「おい、くるぶしさすんな!!」



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