第13話 ンジョルカ
五時間目終わりの休み時間、三人はいつも通り机周りで話に花を咲かせていく。
「二釈、なんのゲームやってんの?」
「これ?ただ五百回連打して卵割るだけのゲーム......。」
手慣れている二釈は画面を見ずに中指と人差し指でカタカタ連打をし続ける。
「面白いの?」
「いやこれ割ると毎回変なキャラクターとか出てくるのがさ......。」
クソゲーを楽しそうに語る二釈をクラス長と仲田は机に置かれ、連打される卵を見つめながら聞く。
「ほら、生まれるぞ。」
「え、これスクドラのキャラじゃん!?」
「そう、平気でパクってんの......。」
クソゲー特有のオマージュに変な笑いが生まれる二人と、また出てきたタマゴを見ず
に連打し始める二釈。
「仲田と二釈は"スクドラ"派だったの?」
「ドラグーンドラグリアスが相棒だったな......。」
スクールドラゴン、略してスクドラ。
元は子供向けのカードゲームとして名を馳せていたが、だんだん大きなお友達にまで広がるようになり、老若男女問わず人気なカードゲームである。
「クラス長は"
スクドラと比べてちょっぴりお兄さんな人たちが触れるようなカードゲーム。
元々アニメでの作品であったが、その人気から商品化を始め、今じゃゲームの方が主流になってきているカードゲームである。
「いや、俺は...ンジョルカ。」
「...ん?ンジョルカ?」
クラス長から放たれた聞きなじみのない言葉に首をかしげる二人。
「俺はあれを超えるカードゲームに出会っていない。」
ンジョルカ、略さずンジョルカ。
彼らが生まれるかなり前に始まり、彼らが生まれるめっちゃ前にひそかに終わった知る人ぞ知る...いや、知る人がほとんどいない隠れに隠れ、時代の波に誰も見られていないところでそのまま沈んでいったカードゲームである。
「もしこの世で麻雀が流行って無かったら、代わりにンジョルカだっただろうな。」
「そんなに!?」
化学のノートの最後のページを一枚破り、ルールを説明していく。
「まずヘッジョを真ん中に一つ。」
「ヘッジョってなに......?」
「あぁ、六十枚の束。」
「いやそれデッキだろ!」
フィールドの真ん中に置かれる一つのヘッジョに対して二釈は眉にシワと疑問を浮かべた。
「デッキって二つじゃないの......?」
「確かに!」
「いや...二個置いたらダブルスレプターになっちゃうだろ!」
「なんだよダブルスレプターって!!」
次々現れる意味の分からない言葉についていけない二人をクラス長は分かってないなと言わんばかりの顔をしながらさらに説明を続ける。
「いいか、もう休憩五分も無いからさっさと説明するぞ!」
ジャンケンを行い、勝った方のデッキを真ん中に置き勝負を始める。
ジャンケンに負けた方が先攻を取りバトルスタート。
相手のデッキに何が入っているか分からないので、ジャンケンに負けた先攻はどれだけ行動するかが大事である。
「それにしてもデッキ置いた人が有利じゃない?」
「そう、だから二本取れるの。」
「...二本?」
「あ、そうそうゲームは三本先取だから。」
ゲームは三本先取で、次のゲームは一本目に使っていない方のデッキを使用をし先攻後攻が逆になる。
「今度はそっちがデッキ置く人になるのか。」
「ちなみに、デッキ置く人の名称が"スレプター"ね。」
「あ、さっき言ってたやつ!」
勝利条件は以下の通り
五のライフポイントをゼロにする。
モンスターを合計三体倒す。
特殊条件を発生させる。
「外側のルールとかじゃなくてモンスターとか魔法とかなんか無いの.....?」
「ああ、それはこんなかんじ。」
カードの内容は以下の通り
タッコンカード
俗にいうモンスターカードのようなもの。
相手にダメージを与える役目を持つ。
ネクルネカード
自分のターンに発動するカード
邪魔をしたり軽いダメージを与えたりドローをしたりするカード。
プレイヤーのお助けをする役目を持つ。
ギアーズカード
モンスターや自分自身に装備をする用のカード。
能力の上昇や特殊な効果を持たす役目を持つ。
「そして四つ目がンジョルカカード!」
「あ、カードの種類の名前なんだ。」
ンジョルカカード
相手の攻撃フェーズに発動できるカード。
ダメージの無効化や反射、特殊な効果などを発動する役目を持つ。
「専門用語のせいでワケわからんくなってるな。」
「これ、次言うのが一番面白いところなんだけど。」
手札に一枚もンジョルカカードが無いとき、一試合に
「またなんかややこしい言葉...。」
「これ、デッキの一番上を見てもしそれがンジョルカカードだった場合…」
「そのまま使える......?」
二釈の方を見て大きくうなずくと、二人は共鳴したかのように大きなハイタッチをかます。
「え、あんまハマってない俺が変なのかな。」
「ちなみに、ンジョルカ発動させたらンジョルカアアァァって叫ぶから。」
「もういいって!なんか情報量多いって!」
「あ、カードの写真とかあるかも。」
クラス長はスマホを開き、大きくスクロールをして昔の写真を漁る。
「あった、これウルトラレア出た時の。」
「え、パックとかでてたの?」
映った画面には、とても強そうには見えないヨボヨボなおじいさんのキャラクターが大きな餅を食べているカードがキラキラ光っていた。
「え、なにこのおっさん、危ないよ。」
「おま...おっさんって、環境トップだぞ!?」
「環境とかあるほど流行ってねえだろ!」
仲田の声を最後に鳴り響くチャイム、仲田の席に置かれた説明の書いた紙きれをもらった二釈は授業中じっくり眺めて過ごした。
......授業をおえた三人、興奮の収まらない二人に挟まれている仲田は授業中も苦しそうにしていた。
「ちょ、マジで今度持ってきて.......。」
「お、公園でやるか!」
「誰が高校生になっても公園でカードゲームすんだよ。」
クラス長はハマってくれた二釈にサムズアップをし、久々のンジョルカにワクワクしながら先生を呼びに扉を出て行った。
「なあ二釈、どうしちまったんだよ。」
仲田は二釈の珍しいテンションを不審そうに見つめていると、二釈はニヤニヤしながら仲田の方を向いて呟いた。
「俺さ...あーいう訳分かんないゲーム大好きなんだよね......。」
「...確かに、さっきも意味わかんねえゲームしてたな。」
「変な単語の応酬、変なおじさんが強いみたいな世界観...あれは近年稀にみるに良質なクソゲーの匂いがするな......。」
「俺絶対ハマれる自信ないわー...。」
数日後...
「あれ......。」
「よし!スプレターに勝ったから俺のストレート勝ち!」
「つっよ!マジでやってたろ!」
「仲田、俺よりハマってる......?」
「ハマってねえっつーの...ほら、ヘッジョ置いて!」
「もういいって、これで18連敗だって!」
仲田の噂はクラス長の地元で少しだけ話題になり、その話題は地元でそのまま消えた。
「ンジョルカアァァァァ!」
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