第14話 夏の始まり、学校の終わり。
夏休み前最終日
「プリント多いけど、ちゃんと全部親に渡すように。」
澄んだ空、その上を渡る太陽。
グラウンドの外は無骨なビルとコンクリート。
校門をくぐれば灰色まみれの世間から守ってくれる気がする安心感を潜在的に感じている。
渡されたプリントに目を通すあの子
課題を持ってきてちょっとでも夏休みを楽にするアイツ
ボーっとして何も考えていない彼
「じゃあクラス長、最後は元気に挨拶。」
「...はい、起立!」
「...気を付け」
「...さようなら!!」
いつもはほとんど意味を持たない流れ作業のような挨拶も、今日だけはほんとうに"さようなら"だった。
なにかから解放されたかのような"さようなら"
それぞれひとりひとりの気持ちがこもるさようならを最後に一学期が終わった。
四か月、徐々に変わっていく季節や空気感にほぼ毎日何かしらの愚痴を吐きながら過ごした教室を出ていく僕ら。
「マジで暑いな。」
目が悪いわけじゃないのにぼやけて見える夏の世界の向こう側。
「それな......。」
「クラス長命令で何とかできねえの?」
「太陽の方が偉いだろ、分かんねえけど。」
自分の隣を歩く彼らも同じように見えているのだろうか。
「なんか食いに行く?」
「...わりい、俺今週の夏祭りで金使うから貯めたいんだよな。」
「俺も、ゲームのサマーセールで使う予定......。」
別に今日が特別ってわけではない、いつも通りの日常。
早く家に帰られる、嬉しいことじゃないか。
「そうか...じゃあまた明日...じゃなくてまた九月に。」
「おう、元気でな!」
「生きて帰って来いよ......。」
いつも通り大きな駅に吸い込まれて、二人と別れる。
...なんか、思い出らしいもの作れてないなぁ。
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あれ、高校ってこんなもんなのかな。
中学の頃、あんだけ憧れていたはずの高校生活はいざ始まってみればあんまり中学の頃と変わってない。
変わったもので言えば周りの環境、地元の知り合いは偶然たまたまいたシュンちゃんくらい。
"…ごめん、絶対高校では中学分も取り返すくらいに青春するって決めたんだ。"
口ではいっちょまえに現れる"青春"の二文字は、よく考えてみたらどんなものかって分かって無いかもしれない。
「九月ってもう秋だよな…。」
「どうした......?」
「なんか、青春してないなってさ。」
「…今なら戻れるよ......。」
ポケットの中でスマホの電源をつけ、俺らは走る。
休みの日に集まって遊ぶほどではない関係、夏休み前にもう一歩先に進めたくなった。
「あれ、あそこ......。」
「お、クラス長!」
彼はすぐにいた。
スマホを見ながら辺りをチョロチョロしていた。
「あれ...どうしたの二人とも。」
「いやなんか...やっぱどっか行かね?」
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二人はバカだ......。
予定があるのにもかかわらずこんな一瞬の思い出に金を使うコイツも
予定がないのに帰るふりをしてこんな暑い場所でちょろついてるコイツも
「じゃ、取り合えず飯行こうか......。」
先の後悔も知らずにただ一歩ずつ前に足を運ぶ彼らの後ろをただ歩く。
「てか二人とも金は使っていいのかよ。」
「まあ、当たんねえ射的に金使うのもったいねえし?」
「俺も、変なゲーム買っちゃいそうだし......。」
でも、そんな二人を信用してついていく俺が一番バカなのかもしれない......。
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素直になれない三人は同じような愚痴を空へ吐きながらいつも通りの帰り道を逆戻りする。
夏に閉じ込められた灰色の世界を歩く彼らは、こんな一瞬が青春になることをまだ知らない。
「...マジかよ。」
「臨時休業......。」
「クラス長、どうする?」
「なんかエモい空気っぽかったけど、普通に暑いし解散!!」
「...流石にそうだな。」
「あぁ...生きて帰ってこような....。」
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