第8話 喜怒哀楽は気の開拓 (体育祭編#2)
「続いてのプログラムは、棒引きです。」
体育祭前半が終わり、招集場所に集った八人の戦士。
「まあ、二本生贄にして、桝田が一本取って後三人と四人で取りに行けばいいんじゃね。」
「あぁ、それいいね。」
ここでルールを知らない人がいるかもしれない為、棒引きのルールを説明。
スタートと同時にグラウンドの真ん中に置かれた五本の鉄棒を自陣に持って行くゲームであり、最終的に自陣に入れた本数で勝敗が決まるため、条件としては最低三本以上を自陣に入れれば勝利を獲得できる。
勝負は二回行い、自陣に入れた合計本数の多いチームの勝利。
もし同じだった場合は延長戦へ突入し、その場合に置かれる鉄棒の数は三本となる。
そしてこの高校にある特殊ルールがひとつ。
もし一試合で五本すべての棒を自陣に入れることが出来た場合は、二本先取関係なくそのチームの勝利である。
...以上のルールから、前に掃除をバックレた
「じゃあクラスちょ…監督、作戦はそれでいいでやんすか?」
「ま、まぁ...じゃあそれで...。」
二人の作戦通りにスタート位置に立ったクラス長、その隣に立つ男は不服そうな顔をしながらウォーミングアップしている。
「クラス長、この試合勝てると思いますか?」
「...え?」
「俺は無理だと思います。」
クラスで全く話したことのない彼のその意味深なその発言にうろたえていると、審査員が銃を上に構えた。
「
「はい...クラス長は次の作戦を考えていてください。」
三田は自分の伝えたいことだけ伝えると、前を向いて自分のゾーンに入った。
「それでは一回戦、チーム長暮 VS 電脳スナイパーズの試合!よーい!」
「え、いつの間にそんな名前決めてたの?」
クラス長の中に溜まった色んな疑問をかき消すように、両端から一斉に走り出した計十六人の生徒達。
作戦通り、外間と内戸と勝男はコンビプレーで息を合わせて引っ張っていく。
「余裕で行けそうでござる!」
「...させるかよ!」
三人のスピードには反対方向からの勢いによるブレーキがかかり、相手チームの二人は大地を強く踏みしめながら一歩ずつ後ろへ去っていく。
「まあ、でも俺らは三人だしこのまま...」
「カバーして!こっち三人やってる!」
相手の男はそう言うと、桝田についていた男はすっとその場を離れて彼の元へ向かっていく。
「なんだ、こいつらの団結力!」
「やべえ、これは持ってかれ...あっ!」
「こっち三人やった、そっちどう!?」
勢いで制した相手の棒は一人に任せ、残りの二人は他の棒を取りに行く。
「こっち割ってる!中間割ってる!」
「おけおけ、行くわ!」
「そのデカい奴はほっといていいから!」
...
「そこまで!!」
まるでゲームのボイスチャットのような連携を綺麗にかましてきた相手に翻弄された
一本目、一本しか取れないという悲惨な結果であっという間に終わってしまった。
「桝田だけか...取れたの。」
「フン...わが肉体に驚き、戦うまでもなく去って行った..。」
いつもの桝田の威勢ならバフがかかったかのように元気になる彼らだが、圧倒されてしまった現実の前ではむしろデバフになってしまっていた。
「ダメか、じゃあなんかない?クラス長。」
「このままじゃ負けちまうよー。」
どんよりとした空気の中、内戸と外間は半分諦めたかのようにクラス長へと任せ始める。
「...うーん。」
「もう終わっちゃうよ?」
「さっきのじゃ勝てないよ~。」
「......待てよお前ら。」
内戸と外間の適当な感情に三田を含めた他の数人がしびれを切らしてしまった。
「...は?」
「お前らがしょうもない作戦立てたからだろ?」
「いやその作戦に従ってたのお前らじゃんか!」
「あの状況、断りづらい空気に二人がしてんだろ!?」
「知らねえよてめえらが勝手にそういうふうに感じようが!!」
「ちょっと皆の衆!落ち着かんか!!」
総合順位が一位ということもあり勝利を求めすぎた結果、即席のチーム壊れはだんだんと壊れはじめ、今までにないギスギスした空気を目の当たりにしたクラス長は、彼らの空気感に呑まれマイナスへと堕ちていってしまう。
「ダメだ......なんも出来てない。」
「クラス長、そんな落ち込むでない‥。」
目の前に広がる見たことないようなクラスの大喧嘩に圧倒され、見たことないような暴れ具合に呆けて前に足を進めることができない彼は悪い方向に思いが加速し始める。
「俺...クラス長なのに。」
この場所をしきることが出来ない今の自分の力の無さにどんどん心は荒んでいく。
「普段の生活でも、良く考えたら教師から生徒への伝達してるだけで自ら行動なんて全くしてないんだよな....」
「誰か!ダウナーなクラス長を止めるでござる!」
半ベソをかき、鼻をすすりながら急いで喧嘩を仲裁しようとするが、もうクラス長が泣き始めてからとっくにもう喧嘩ムードは止まっているので、むしろ全員申し訳なさそうな顔でクラス長の背中をさする。
...一方そのころ
そんな世界を見つめていたとある二人
「先輩、彼ってあのクラス長じゃないすか?」
「...お!本当だ!」
頭の後ろで手を組みながらゆったり試合を見つめていたのは委員会で長暮をおちょくった三年とその後輩である二年。
彼らは長暮のチームをじっと見つめながら会話を続ける。
「...え、なんかめっちゃ泣いてません?」
「ほんとだ、そんなに悔しかったのかな。」
「そんな感じの涙には見えないですけど...。」
頭をポリポリ掻きながらスポーツドリンクをがぶ飲みした三年の彼は、席を立ち上がって大きな声で叫んだ。
「長暮くううううん!!」
「ちょ、先輩!」
遠くから聞こえたその声の方向へ真っすぐな瞳を向けるクラス長。
「あ...あの人。」
「誰でござるか?」
「えーっと...委員会で一緒になった三年生。」
他のメンバーに説明をしていると、その説明に割り込むように彼の声が響いた。
「あの時みたいに頑張れ~!!」
「....!」
その言葉が長暮の鼓膜に着地すると同時に彼の内側に眠っていたすべてが目を覚ますと、鼻水をすすりながら強く頭を下げた。
「...みんな、変に泣いちゃってごめん。」
涙をぬぐいながらゆっくりと頭を上げた彼は、どこかで見たことある目つきになっていた。
「...いまから天下取るぞ。」
「これって...。」
「これ...体力テストの時の空気だ...!」
彼は、一度呼吸を整えてものすごい早い瞬きをしながら脳みそをかき回す。
「...よし、思いついた。」
「早い!」
残り時間も少ないため、大事な一言だけパッと吐く。
「この試合、桝田はメインではなくサポートに回ってもらう。」
「「え?」」
クラス長によるまさかの提案に全員が目を見開いて反論を構えるが、それを分かり切っていた彼はすぐさま説明の時間に入った。
「二人組を三つで俺は一人でいく。」
「いやアンタ、オーラは変わっても能力は変わらなかっただろ?」
「あぁ、俺はあくまでおとり...。」
クラス長はややこしい説明を勢いでゴリ押し、急いで六人を並べた。
「クラス長、ワシはなにをすれば...?」
「あぁ、桝田にはとにかく動いてもらって.....」
簡易的な説明をすると、桝田は面白そうなその作戦に大きくうなずき理解した。
「...仰せのままに。」
準備位置についた三田はニヤつきながら準備をする。
「三田、さっきはありがとな。」
「いえ...アンタのそれ、好きなんだよ。」
お互い準備位置につき、桝田から離れる向こうのチームを見たクラス長は全部分かっていたと言わんばかりの表情でニヤついた。
「二回戦、よーい...」
スタートのスピードはほとんど一緒だが、桝田だけは一歩後ろに下がり様子を観察する。
「...桝田さん!」
「御意!」
互角になっている場所にものすごいスピードで向かう桝田の勢いに、無理だと判断した彼らは急いでほかの棒を取りに行く。
「こっちだ!桝田!」
「やべ、アイツあの見た目でスピードタイプかよ...!!」
「デカブツいいからこっちの...って、デカブツいつの間に!?」
初見殺しの彼の動きに、どんどんと崩されていく相手チーム。
「そこまで!」
作戦は見事に上手くいき、危機的状況だった四点を一気に取り返して試合は延長戦へ。
「延長は棒が三本か...。」
「まあ四対四になるっぽいけどどうだ...?」
「...よし、決めた。」
クラス長は急いで場所を指令して七人を位置に立たせると、今度は相手はそれに合わせて場所を変えてくる。
「クラス長の言った通り...桝田に偏って来てる...!」
「この勝負...もらった。」
......
「普通に力差で負けてたじゃねえか!」
桝田に合わせに行ったと思った相手達は結局桝田を無視して四人の二セットで仕掛けに来た。
頼っていたことに気づかれてしまっていたのだ。
「まじごめ゙ん、ほんとにごめ゙ん。」
とっくにオーラが消えたクラス長は地面に頭をこすりつけて謝った。
「...でも俺らも調子乗ってたし、やりづらくしてごめんな。」
内戸と外間は他のメンバーに頭を下げると、みんなそれぞれの反省をしながら謝りあう。
そんな中、涙で濡らした砂から顔を出したクラス長は砂を吐き出しながら立ち上がり遠くの方へ指さした。
「てか、クラスのメンバーに謝りに行こう。」
「「間違いないわ。」」
残る競技はリレー、騎馬戦、障害物競争。
棒引き出取れなかったため二位に下がった彼ら、巻き返すことが出来るのか。
「次は自分か......。」
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