第5.5話 避ける雲、刺さる一筋の光

「はい、後ろの席から回収。」

「あ、くそっ…」

体育祭の前、学生全員の前に立ちはだかる大きな壁。

"定期テスト"


全く動いていないのにもはや体育祭の後のようなヘトヘト感に襲われている生徒達。

近くの席同士で問題用紙に書いた途中式を照らし合わせる人、そんな人たちの会話が聞こえてきて一人で頭を抱える人、言い訳をして何とか理性をごまかす人、もはや数分前までの過去を置き去りにして明日の方向を見ている人と様々


「あー、座ってるのに立ち眩みみたいなのした。」

大きな瞬きを繰り返しているクラス長もその"様々"に区分けされる一人。

「こんな神経使うっけテストって。」

「いやー終わった、3つの意味で終わったよ。」

「…残りの1つはなんだよ。」

ペンを握って脳みそに蓄えた知識をフル回転させて戦い続けるその姿は、まるで魔法使い。

そんな魔法使いは甘ったるいだけのパンにかじりつき脳みそマジックポイントを回復させていく。


「頭使うとこんな腹減るんだな。」

「…ちょっとじゃあ先生呼んでくるわ。」

隣で一人プリントにガンを飛ばして答え合わせをする副クラス長の瀧田の姿、クラス長は恐れながら名前を呼ぶ。

「瀧田さん…職員室…い、いきましょ。」

「…おう。」

明らかにいつもと違うテンションと雰囲気に戸惑いと恐怖感を覚えながらも堂々と歩いていく瀧田の後ろを追いかけていく。


「…瀧田さん、大丈夫?」

「あ、ごめんなさい…テストの時は気合入れてるボイ…。」

「…ボイ?」

所々怖いところはあるが、無駄につついたら何をされるのか分からないので、クラス長もそれが当たり前だと無理矢理飲み込んだ。


「あ、先生いた。」

「おー終わった?すぐ戻るわ。」

職員室へ向かう途中に見つけたので、時短でちょっとだけラッキーな気持ちになりながら二人はクラスへ戻って行った。



「先生、後はお願いします。」

「じゃあ明日最後のテスト、絶対気を抜くなよ。」

疲れ切った生徒たちはとっくに気が抜けている。

「クラス長、号令。」

「はい、起立。」

いつもよりバラツキのある立ち上がり、重力に身を任せたようなお辞儀、そのまま下に落下するさようならの声。

定期テストという存在がどれだけ生徒にとっての苦痛かというのが伝わってくる生徒の反応にクラス長も飲み込まれる。


「…挨拶やりづれえよ。」

「早く出よう……。」

「うわ…外は外でアッちい。」

重たい教室を飛びだし、ムワッとしたアツい空気と不快感を廊下で纏ういつもの三人。


「これ、終わったらすぐ体育祭か……。」

「梅雨とは思えない暑さだしな。」

「焼け死ぬ…っていうか蒸し死ぬなこれ。」

かるいため息すら熱に呑み込まれる6月の日差し、夏の姿に化けている梅雨の存在に彼ら三人は汗をかいたペットボトルで頬を冷やすことしかできないまま。


「明日頑張ればゆっくりできるな。」

「そしたら体育祭……。」

「そんですぐ夏休み。」

沈むことを忘れている太陽の下の少年たちは、ぬるい水たまりを避けながら膨らんでいる未来と帰路へ一歩ずつ足を進めていった。


...そんな彼らがパッと抜けた教室に残った四人のとある選抜メンバー


澪島「これからよろしくね。」

桝田「この四人、誰が相手でも優勝以外想像できぬ。」

飛橋「麻袋、二段ジャンプで軽くかましてやるか。」


伊須(……個性強めな人たちが集まっちゃった。)


澪島「多分体育もしばらく体育祭の練習になるしね。」

桝田「…個々の練習は各々、体育はバトンの受け渡しの練習を主にするべきだと思う。」

飛橋「俺小学校の頃出来たんだよ、二段ジャンプ。」


伊須(ガチガチだ...私だけ色が違う。)


澪島「中間テストが開けたらすぐ体育大会だし、授業数的にも2回くらいか。」

桝田「まあ時間が合えば仲でも深め合おうか。」

飛橋「そうだな、スカイウォークで空中戦だな。」


伊須(あれ、あんまり話聞いてなかったけど...飛橋さんはこっち側?)


澪島「伊須さん、前言った通り期待してるわ。」

伊須「あ、え?はい!」

桝田「安心しろ、アンカーの伊須さんまでにはしっかり余裕を作っておくからな。」

伊須「助かります…。」

飛橋「パンに一発で届くように二段ジャンプ教えてやるよ。」

伊須「あ、はい。」


飛橋の虚勢に安心して強気に出る伊須であった。

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