第8話 俺の場合インフレは慣れと経験と能力の進化で大丈夫

 「見つけたぞお前達!」

 

 オークのような魔物は俺達を見つけると大声をあげる。


 こんなに早く見つかるとはな。


 いきなりこちらに対して拳を向けてくるような奴だから考えなしに手当たり次第非効率なやり方でもっと後でこちらに接触してくると思っていたんだが。


 「リイス下がれ。」


 「わかった。気を付けてね。」


 リイスは前方の敵を見ながらそのままゆっくりと後ろに下がる。


 ここで離れるというのは心配だがクラウの指示があるし他の魔物の接近にも気づけるから逃げるだけなら問題ないだろう。


 といってもそれほど長くは続くとは思わないが。


 それとクラウはこちらとリイス二人を見ないといけないので指示が曖昧になるという理由からなるべく早く片付けないといけない。


 後体が痛いから早く終わらせたいというのも追加で。





 よし大体離れたな。


 俺はリイスが上手く離れたのを横目で確認すると目の前の魔物を見据える。


 「お前は何? といっても答えないんだろうな。」


 この前のゴブリンは自分から名乗るような奴じゃなかったしこいつもおそらく同じだろうな。


 「人間が俺と言う格上との戦いを前にして名前を聞くとは大した度胸だな。いいだろう。その敬意を評して貴様に俺の名を刻んでやる。」


 言うのかよ。


 まあこれくらいは普通か。


 「俺の名は剛滅天使=オ=ーク。この世界を支配する堕天使達の幹部、三堕の一人だ。」


 あれ!?


 なんかこいつ自分の所属している組織とか地位を喋りやがったんだけど!?


 後また名前が若干カッコいいやつ。


 「あ、あのさ?」

 

 「何だ?」

 

 「自分の所属組織の情報をペラペラ話すとかどういう事なんだよ?」


 よく気を良くして冥土の土産に話すとかそういうのあるけど逃げられたり負けた時のリスクとか考えないのかよ?


 「それの何か問題でもあるのか?」

 

 何かこっちがおかしい奴みたいな反応してるんだけど?


 確かに俺のいた日本の常識をここで当てはめるのは変だけど……


 「いや別にこちらとしてはありがたいけどさ……」

  

 この情報で仲間が窮地に立たされるとか事とか考えないのかよ……

 

 仲間よりも自分優先とかそういうやつ?

 

 『ゆうと気をつけなさい。その情報の整合性を確かめるために敵の心理状況を今調べたけどかなり落ち着いてるわ。』

 

 そんな事を調べる事が出来るなんてちょっとずるくない? ってチートの塊みたいな俺が言うのはおかしな話だが。

 

 「それが? 敵を前にして自信があるお馬鹿だから何も気にしていないとかそういう事だろ?」


 アニメとかで組織の事をかき乱す枠とかそういうやつ。


 『そうじゃないのよ。これが示すことは自分の達の事をあえて嘘偽りなく話すことで出方を伺うとかそういうやつよ。本当の事を話すのはおそらく嘘を見破る能力を無効にするとかそういう事。』


 は?


 こいつそんな事を考えてわざわざ情報を漏らしたのかよ!?


 『これは私の考えになるけどこれ以上情報がないと思って自分の方にツッコんでくるもよし、またこっちに雰囲気で話しをさせて情報を得るもよしとかそういう腹積もりだと思うわ。』

 

 なるほどな。


 確かにアニメとかだと向こうの情報に対抗するためにこちらも意地を張って余計な事を話すとかあるもんな。


 




 「何をごちゃごちゃ話している?」

 

 魔物は俺の端から見ると恥ずかしい独り言をニヤニヤしながら見つめていた。


 「さあ? お前という予想外の強敵を前に頭がおかしくなったのかもな。」


 本当の事を言ったところで信じるわけはないだろうしな。


 「そうか。なら今のうちにもっとおかしくなるがいい。恐怖に怯えながら死に行くものを見るのは忍びないからな。」


 ぶさけんな。


 要はそれ理解出来ずこっちの困ってる姿を見て屠るのが趣味ですと言っているようなもんじゃねーか。


 「じゃあおかしくなりたいからお前にいなくなって欲しいとか言ったらどうする?」


 「おかしな事を!」


 魔物はこちらに前進してくる。


 『二秒後に防御を使って!』


 「いつも通りのやり方でこちらの情報をあえて話したんだ。それを生かして他の者どもに吹聴されては……困る!」


 そして魔物は俺に近づくと間合いに入ったのかこちらに拳を向けてきた。


 マジかよ。


 さっきこいつの一撃でピンチになりかけた物をもう一度やるとか策が単調にも程があるだろう。


 まあこっちはナビゲーションされてる身だから素直に従うけど。


 「防御!」


 俺と魔物の間にシールドが出現する。


 「それが通用すると思うのか! 回避する事なく二度も同じ事をするとは愚かな。」


 魔物は何の躊躇もなくそれに勢いよく攻撃しようとする。


 とりあえず壊れると思うからさっと横に避けて……


 『そのシールドなら三秒後に敵は一瞬怯むと思うから、今剣を出してそ正面から攻撃する準備!』


 正気か?


 これが耐えられると?


 その目論見が外れたら俺大怪我じゃすまねーんだけど?


 もしかして回復能力使えるからまさかの捨て身でいけと?


 なかなか大胆な策を建てるな。


 ガン!


 魔物の拳はそれと強く接触し音を響かせる。


 来るぞ!!


 とにかく剣を持ってない肩を前方に出してそれから回復能力を


 「グアアアアアア!!」


 とろうとした矢先魔物は悲痛な叫びをあげる。


 なんだ?


 さっきまでの余裕面の魔物が嘘みたいに涙を浮かべている。


 最初にこれに攻撃をした時は眉一つ動いてなかったよな?


 俺はどういう事なのか一瞬気になって状況を見るとそこには変色した拳と一つのヒビさえないシールドという予想外の結果が見えた。


 どういう事なんだ


 『慣れ、経験、能力の進化でそれは割れてないのよ! ぼさっとしない!! さっさと攻撃する!』


 おっといけない。


 うちの雇用主の命令を一瞬無視するなんてアルバイト失格だな。


 俺は気持ちを切り替えるとさっきの指示通り正面から剣を振ろうとする。


 「ぐっ!? 油断した! まさか貴様の本気のシールドがこんなに硬い物とは!?」


 魔物はそういうと素早く体勢を整える。


 とんでもなく早いな。 


 「だが硬いだけなら俺も同じ! こい! 貴様が俺の鋼の肉体に剣を通せなかった時が貴様の最後ごっ!?」


 そんなに早く動けるなら自身満々にべらべらと喋らないで距離を離すとか自傷覚悟で魔術を使うとかすればいいのに。


 そういう事を考えずに自分の体に過信するのは甘いな。


 俺は魔物を軽々と斬り伏せた。


 



 「ガアアアアアアアア!」


 魔物は俺に斬られて断末魔のような声を上げた。


 体の不調で少々斬るのが甘かったな。 

 

 俺は止めを指そうと痛みを我慢して剣を握りしめる。


 「グッ……!?いや……それはしなくても……いい……。」


 魔物は俺の行動を見るや否や手で制してきた。

 

 「なんて言われてやらないとでも? 命乞いが下手くそにもほどがあるぞ?」


 「この傷を見てする必要性はあると思うか?」


 まあパッと見その出血量で生きてるのが不思議なくらいだしやる必要はないよな。


 甘いしそれは罠かもしれないけどここで油断して下手に動くのも危険だしな。


 『何をしているの!? 止めを差しなさい!?  躊躇っていたら犠牲が出るわよ!?』


 その辺は承知しているからやるべきなのはわかっている。


 「ふふ……前置きはこのくらいにして貴様には俺を倒した褒美として情報を与えないとな?」


 魔物は苦しそうに傷を手で抑えながら俺にそう言ってきた。


 この状況で話す事とか嘘とかありそうだけどここは一応乗るか。


 「褒美を?」


 「そうだ。その為にわざわざこんな周りくどい事をしたのだ。」


 だったら最初から言えよ。


 こっちが一旦手を止めないやつだったらそれ無意味になるだろうが。


 『ちょっとゆうと!? 何を「じゃあ話してくれ。手短にな。」


 情報は多いに越したことはないし。


 まあクラウとリイスに心配かけたくないから変な時間稼ぎをするようならその場で斬るけど。



 「俺を倒しても無駄。俺の死を知った他の幹部がこの後あちらの方角の町に向けて攻め込む。」


 めちゃくちゃ冷静かつ簡潔に喋るなこいつ。


 本当に死にかけの生物かよ?


 「褒美とはいえ何でそこまでの情報を敵である俺に? まさか俺に対して情か何か生まれたのか? 死ぬ間際に手助けをしたいとかそういう?」


 戦った後に敵に優しくしたいとかいうあれ。


 「ふ……俺を負かした貴様に避けられぬ更なる絶望を早く与えたいから。それだけだ……」ドサッ

 

 魔物は力尽きて倒れ込んだ。


 やっとくたばったのかよ。


 あまりにも流暢に語るからダメージがあるか不安で止めをさそうかささないか迷ってしまったわ。


 『一応そいつから生体反応はないけど、神を下すような連中に常識なんて通用しないからちゃんと死んだかどうか確認しなさいよ?』


 うちの雇い主はなんて物騒な事をいうのかね……



 


 「その方角の町? それなら僕がそこまでの地図を持っているよ? ほら。」


 リイスに事情を説明すると腰から一枚の紙を取り出した。


 何か昨日も似たようなやり取りをしたよな?


 気のせい?


 「本当は転生前君にここに連れていって欲しかったんだけど……ね?」


 その笑顔が怖いな。


 「何かごめん。」


 「いいよ。ちょっと意地悪しちゃったね。」


 全くだ。


 とは言ってはいけない。


 この程度はからかいのようなものだし。


 『本当にね? ゆうとが勝手に転移しなければ今ごろは……』


 それは本気の批判?だからな?


 終わった事をあまりにもしつこくぶり返すようなら泣いて軽口の一つや二つ叩くよ?


 「で? 次の目的地はここにするという事でいいんだよね?」


 「ああ。」


 他に情報がないしそこに行くしかないというのはアニメでも良くあることだしな。


 「でもどうするの? ここからどう頑張っても二三日はかかるよね?」

 

 そういや昨日何かそんな事を言ってたな。


 「そのくらいなら別に……野宿でも何でもすれば」


 「いやそれは前の僕らだったらの話でしょ? 今は、なんだっけ? アルバイトの規定労働時間? があるから厳しいでしょ?」


 そうか。


 普通の異世界転移だったらなんの問題もなく旅をする事ができたけど今は無理か。


 『一応言っておくけど契約を結んだ以上基本は三時間という時間を越えることは認められないからね。』


 クラウが規則を守る真面目な奴と思う反面いつになったら目的地にたどり着くのやらと心配な気持ちが生まれてきたわ。


 「じゃあどうするんだ? とりあえず情報だけ他の神に共有してそこに行って貰うとかするのか?」


 俺達がこの世界にいない時は他の神がいるとか言ってたしそこだけは任せるというのはありだよな。


 それで新たに得た情報から次の目的を立てるというのも悪くない。


 『それがいいんだけど……他の神の方針……あ、あんたにはちゃんと給料分きっちり働いて貰いたいからそれはなし! はいしか許さないわよ?』 

 

 板挟みって奴で私情を優先出来ないと。


 まあそれなら仕方ない。


 『とにかくこの後時間一杯まで町に近い場所まで移動して欲しいのよ。そこで帰還を使えば次に転移する時再びそこから再開できるし。』


 なるほどな。


 だから今日の転移した時俺達は前と同じ場所にいたのか。


 「それはわかったが町までの移動手段はどうするんだ?」


 連続転移で行けは痛みの関係で言わないだろうし。


 『チート能力がなくても恵まれた身体能力があるでしょうが!』


 そんなのあるか?


 今ステータスを見たけど六六六しか並んでないけど……


 多分あるほうか。


 『計算してみたけどあんたの足ならここから二時間で到着するわよ!』


 「俺はな? で? リイスはどうすんだよ?」


 こいつはサポートをするという事でついてきているだけで身体能力云々が高いみたいな話は聞いてないし。


 『そうね……なら今回リイスは先にあんたの帰還で』

 

 「大丈夫だよ。そういう時は」


 リイスは俺の背中に乗っかってきた。 


 男の背中にいきなり乗るの!?


 無用心だろ!?


 後純粋に腰が


 「おも……!?」


 「なに?」


 あぶねー。


 危うく行っては行けないことを言ってしまうところだった。

 

 『……その接触はギリギリというところね。だけどリイス? それは今回だけよ?』

 

 なにがギリギリなんだよ?


 素直に腰に負担があるからダメと言って欲しいんだけど? 


 『あと町まで詳しい道順は二人に送ったけどゆうとは移動しながらの確認は危ないから背中のリイスが道案内をお願いね?』


 「前半はよくわからないけどわかったよ。サポートするのが目的だしね?」


 なんか勝手に俺が背負う事で話が進んでやがる。


 ぐっ!?


 今の俺に力があるとは言えこの体制は色々きついぞ。


 何とかしてこれ以外の方法を見つけなければ……そうだ!


 「あの今さらなんだけど、そのさっき少し話した休んだら帰還するという話は……」


 それで明日最悪リイスだけ勤務時間をずらすとかすれば


 『痛みはどうなの?』


 「な、ないけど……」


 『周りに敵は?』


 「いないけど……」


 『なら良かっ……アルバイト続行で。 わかった以外は認めないから。』


 こいつは強引にしめやがった!?


 「わかったあー。」


 俺は少しムカついたので適当に返事をする。


 「その言い方ムカつくんだけど!?」


 「お前の方がムカつくんだけど?」


 「なんですって!? ちょっとゆうと! 話があるわ! 聞きなさい!」


 その後少しの時間クラウからの有難い罵倒を聞きつつリイスをおんぶすることになった。 

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