第7話 転移直後に攻撃するのはずるだけど賢い

 「アルバイト?」


 異世界を救うのにそういう軽いノリで良いのかよ?


 「そうよ。ちなみにちゃんと報酬もでるわよ。はいこれさっきの分。」


 クラウはそういうと俺に封筒を手渡してきた。

 

 「これは?」


 「報酬よ、報酬。」


 あんな短時間しか戦闘してないのに金がでるのかよ。


 「この世界に異世界関係の事を生業としている私の部下がいてね。今回賃貸契約の手続きのついでにそいつにわた……勝手にあなたの報酬を用意して貰ったのよ。」


 なるほど。

 

 だからこの世界の金がすっと出てきたのか。


 とそれは置いておくとして


 「だったらなんで最初から説明しなかったんだよ。そしたらどうするか方針やらなんやらを決められたじゃん。なんかお前はいきなりこっちの意見も聞かずに追い出してさ。」


 ちゃんと初めから話し合いをしておけば帰還能力やらなんやらの事情にここまでの時間はかからなかったと思われる。


 「それは帰還が使えるゆうとが休息として日本に滞在しても良いかどうか話し合いがまとまらなかったのとその他の神々が神の世界に人間を長居させるなって圧力を……」


 なんか衝撃の事実なんだけどそれ。


 そのせいでクラウは俺を突き放すような態度を取っていたのか。


 「……じゃなかった。悪い!? ちゃんと私があんたに説明する段取りを組んでいたのにそういう事を言うのね!?」


 と見せかけてこれかよ。


 誤魔化せてねーぞ。


 リアルツンデレこわ。


 「なんかごめん。お前にもお前の事情というやつがあるんだな。」


 「いきなり謝らないでよ。どうせ自分が悪いとか思って無いんでしょ?」


 それは……神々の思惑に巻き込みやがってとか思ってるから正しいちゃ正しいけど。


 でもその話を聞いてその件についてクラウは特には悪いとは思えないしここは素直にもう一度謝っておくか。


 「そんな事はない。だからごめんな。」


 「それはこっち……悪くないわね! 当然よ! ふん。」


 声だけだとすげえ一方的な事しか言わない傲慢なやつだと思ってたけど、対面だと分かりやすいな。


 なんか所々こちらに対しての申し訳なさが態度から伝わってくるし。







 「アルバイト契約はそういう事で。じゃあ異世界への転移は明日の夕方ここでするからそのつもりで。」


 「わかったよ。……ってここで!?」


 「何よ? 文句ある?」


 「いやあるだろ! 俺んちだよここ?」


 「なんか困るわけ? あっそうか、親御さんにご迷惑がかかるわよね……」


 そういう心配をするのか。


 いやそこは大丈夫だからいいんだけどさ。


 「親の件はいいよ別に。そうじゃなくてここ以外に他に適した場所はないのかという事だ。」


 さっきこの世界には異世界の知り合いがいるだなんだとか言っていたしそいつの拠点でやるとかあるだろ。


 「無いわね。」


 「なんで?」


 「さ、さっき調べたんだけど……えーと、えーと、な、なぜがこの場所だとより精度の高い力の行使やら今後の生活やらなんやらが色々便利でここが適任だから。本当よ!」


 色々というのはなんなのか気になるが本気で答えたくないという事今回はとりあえず納得するか。


 「そうか。というか今さらだけどお前もこの世界で暮らすんだな。」


 さっきの二人のやり取りでなんとなくわかっていたけどさ。


 「心ぱ……私の目の届かないこの世界で何か起こったら困るからよ。悪い?」


 本当かよ?


 なんか言いかけたっぽいのは気になるぞ。


 「べ、別に他に理由はないから信じてくれると話が進んで助かるんだけど?」


 そういう事であるならばこちらからは特には言うことはないな。


 「わかった。なら俺はお前との契約通りに動く。それ以上の事は今はここでは言わない。」

 

 「そう? 無理を言ってごめん……とは思わないけどね! 絶対!」


 素直になってくれよめんどくさい。









 


 あの後なんとかお互いに話し合いがまとまったという事でその場は解散となった。


 しかしこの俺がまさか日本に帰ることができてその上アルバイトで再び異世界に行くことになるとはね。


 そこだけなんか拍子抜けするくらい温いよな。


 まあこの後に待ち受ける戦闘相手云々を考えたら甘いのはそこだけなんだが。


 「さて……」


 このまま適当にご飯食べてお風呂入ったらさっさと寝ますかね。


 明日も学校……いや休みか。


 なら異世界転生に向けて少しでも多く羽を……


 ピンポーン 


 そうと思った矢先来客を知らせるチャイムが鳴り響く。


 こんな時間に誰だ?


 俺は嫌々ながらも重い腰を上げて対応をするために玄関に向かい扉を開けた。





 「ゆうとごめん。」


 そこには申し訳なさそうな表情をしたリイスの姿があった。


 「部屋の使い方とかその他もろもろを教えてほしいな。あとなんか携帯?からクラウが喧嘩で相手と口論してるから今助けてほしいって……」


 休もうと思ったそばからこれかよ。


 あとクラウは何をしてるんだよ……


 一般人相手にあんな口調で突っかかったら口論待ったなしだろうが……


 「はあ……一つずつ順番にな? 先ずはクラウの所に行くから。」


 俺は頭を掻いた後そのまま家を出て、絶賛喧嘩中の雇い主の元に向かって行った。


 日本で暮らす上での常識を少し教えないとダメだなこれは。


 このまま放置したんじゃこっちまで巻き添えを食うことになるし。


 








 次の日


 俺の家にはクラウとリイスがいた。


 「じゃあ今からあんたを異世界に送るわよ? 準備はいい?」


 あれやこれやとやっているうちにいつの間にか仕事の時間になってしまった。


 なんかあの後ついでにあれもこれもお願いとか言われまくったせいでもう疲労感が半端ないし寝ても抜けてないし。


 「体調悪いから無理って言ったらどうする?」


 ここであれだろ?


 『回復能力使えばなんとかなるでしょ!? へたれた事を言うな!』


 とか言うんだろ?


 「え。だ、大丈夫なの? いやそれなら今日はなしに……とは言わないけどね!! ……いやでもさすがにこれは……」


 心配とスパルタと困惑のミックスか。


 そういう本気の反応見せられたらもう行くしか選択肢ねーじゃん。


 「例えばだから。そういう時はどういう対応をするのかなと思ったから聞いてみただけ。今の所なんともないよ。」


 「そうなの? よかった……ってあんた神様を相手に試すような事をしたの!? 最低! 身の程をわきまえなさいよ!」


 本心からの言葉だから試した訳じゃないけどな。


 「気をつけるよ。」


 「分かれば良いわよ。では気を取り直してあんたとリイスを同じ異世界に転移するわね?」


 「わかった。ってえ? リイスも行くのか?」


 能力の詳細は知らないが昨日酷い目に合ったリイスを連れていくとか正気か?


 「そうだよ。こっちで暮らす上で生活費を稼がないといけないからね。だから手っ取り早く稼げるアルバイトとして君のサポートとして同行するんだよ。ほら神様のサポートだけじゃ手の届かない部分もあるでしょ?」


 それはそうだけどさ?


 でも、その色々トラウマとか蘇らないか?


 「その顔。もしかして僕の心配をしてくれている?」


 「そりゃまあ……」


 「心配しないでよ。僕の仕事はあくまでもゆうとのサポートだから。仮に戦闘になっても君の邪魔になる事はしないからさ? それに神様からの助言とやらは僕にも適応されるみたいだし。」


 それなら多分大丈夫だよな。


 「そういう事なら俺から言うことはない。よろしく頼む。」


 本人がそう言っているならあまりごちゃごちゃ言ってやる気を削ぐのもあれだよな。


 それに万が一の事があっても俺が援護すればいい。


 異世界初心者だから出来るか不安なところはあるけどそこは助け合いの精神として妥協するしかない。


 「じゃあ話し合いが決まったという事で早速行くわよ? 転移!」


 クラウがそう言うと俺達二人は光に包まれこの世界から移動した。







 

 「着いたね。」


 前と同じ所のようであった。


 『そうね。さあ二人とも仕事の時間よ。って危ない!!』


 「え? それは「オラアアアア!!」


 異世界に着いた瞬間こちらに対して横から大声と共に分かりやすい殺気が向けられる。


 「なっ!? いきなり攻撃かよ!? それは反則……」


 「問答無用! ふん!!」


 声のした方を見るとそいつはアニメでよく見るオークに羽が生えたような生物であった。


 そしてそいつはこちらに対して一切容赦することなく拳を向けてくる。


 「防御!」


 俺は間一髪のところでその攻撃に対応した。


 バアーン


 拳はそれに当たり大きな音がその場に響き渡る。

 

 この能力はゴブリンのあの苛烈な攻撃を防いだんだ。


 とりあえずこれがある限りは安心だな。


 「この程度か!」


 この程度? それは自分の力が……


 瞬間シールドにひびが入る。


 え!?


 なんかちょっとずつひびが入ってるんだけど!?


 『嘘!? いくらゆうとの能力が慣れの関係上不完全とはいえこれに攻撃が通るなんて!?』


 そういう事かよ。

 

 これが全力じゃないのは安心したわ。


 ってそんな場合じゃない。


 「チッ……リイス! ここは転移するぞ! 手に捕まれ!」


 『待って!? それは……ああもう!! これしかないわよね!!』


 クラウが二人以上の転移には代償やらなんやらがあるとか言っていたが今はそんな事はどうでもいい。

 

 「わかったよ!」


 リイスは差しのべられたその手を掴む。 


 『体勢を整える為の最適な場所を頭に送ったわ!』


 「ありがとう! 転移!」


 俺達は転移で使える一番離れた場所まで移動した。

 

  





 「痛ってえ!!」


 俺は転移による代償として全身に激しい痛みに苦しんでいた。


 「大丈夫……?」


 「はあ……はあ……はあ……なんとか。」


 正直もう帰りたい。


 転移早々にまるで狙ったかのように殺しにかかって来るなんて聞いてないし、完全でないとは言えチート能力が破れるなんてされたせいで労働意欲削られまくったし。


 『どうするのよ? 一旦あんたの帰還能力でこちらに戻る?』


 「そうだよ。このままここにいたんじゃさっきの魔物の餌食だよ。」


 同感だ。


 戦闘で負傷とかじゃないのに撤退するのは男として少々みっともないがこれ以上痛い思いをするのはごめんだし。


 「帰……ぐっ!?」


 だからすぐにそうしたいのは山々なんだけど……


 「無理。体が痛すぎて今は帰還能力が使えない。」


 他の能力はかろうじて使えるが転移系などは体が痛みを拒否しているせいで唱えることができない。


 「クラウはこちらを引き戻すみたいな能力は使えないのか?」


 神様なんだしそれが使えるのではないかと期待してみる。


 『使えないわよ……。離れている世界から二人をこちらに引き戻す能力なんて私には……。その場に私がいるとかなら話は変わるけど、私の転移は自分では移動できないから……」


 「あー……」


 『べ、別にそれは私が無能とかそういう訳じゃないから! 神にも向き不向きというものが』


 まあ使えないなら仕方ないよな。


 ならここは俺の体の痛みの緩和を待って適当に時間を


 『二人とも注意して! こちらに何が接近してくるわ!』


 マジかよ。


 タイミング悪いな本当に。


 「痛ってえ……」


 立ち上がるのがやっとだわ。

 

 「無理しないでここは僕に……」


 「大丈夫。それより」


 「見つけたぞ! そこにいたとはなあ!!」


 先ほど撒いた思っていた存在が俺達の前に現れこちらを視認するとどこか嬉しそうに声をあげた。

 

 


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