第5話 ただいま日本、ようこそ日本へ
「おい……ちょっと……」
外部から触られているような感じがする。
なんだよ……
今気持ちよく寝ているところなんだぞ?
そんなに体を強く揺するなよ。
起きた時寝起きが最悪な状態になるだろうが……
「こんな所で寝ていたら具合悪くなるぞ……?」
そりゃそうだろ。
お前が俺を無理に起こそうとしているせいで体に負担がのしかかって具合が悪くなるのは目に見えているし。
だいたい人が寝ているときに起こそうとするとかどうなってんだよ……
「起きないと大変な事に」
「ゆするのは止めろ! こっちは気持ちよく眠って……」
ん?
ここは……外?
何で俺外で眠っていたんだ?
俺はふと状況確認の為に周囲を見渡す。
そこは先ほどリイスと共にいた荒れ地、ではなく近代的な多くの建物などが点在している住宅街であった。
異世界の町の建物ってこんなにちゃんとしてるのか!?
いや偏見は失礼だとは思うが周りの状況やら魔物やらの対策に追われている関係上にはてっきりそういう事には首が回っていないのではないかとばかり。
というか転移で街にいるのはおかしくないか?
敵からの影響で遠くまで行けないやらなんやら言われたのに。
もしかしてクラウの早とちりとかそういうことか?
あの性格だしありそう。
「大丈夫?」
俺という赤の他人を起こすために親切に声をかけてきたであろう人物が心配そうな顔でこちらを見つめてくる。
リイス……じゃないよな?
見た目はおじさんだし装いも全く違うし。
「どうも……さっきは大声を上げてすみません。起こしていただきありがとうございます。」
俺を心配して声をかけてくれたのは事実だしここで感謝するのが当然だ。
「気にしないで。こんな所で寝ていたら色々大変な事になっただろうし声をかけるのは当たり前だよ。」
「そうですよね……こんな無用心でいたら魔物の襲撃とか魔術とか防ぎようがないですもんね。」
「何それ?」
おじさんは不思議そうに首をかしげていた。
この人俺を変なやつみたいな目で見てるな。
「やだな。俺が言っているのは羽の生えた人間に敵対する魔物とか攻撃や防御をするための魔術の事ですよ。」
「えーと……」
次の瞬間おじさんは衝撃の言葉を口にしてきた。
「まもの?まじゅつ?
「え?」
この人は何を言っているんだろう?
異世界というのは魔物と魔術が当たり前に存在する世界なのにそれをまるで知らないみたいに言うなんて、ちょっとおかしくないか。
……もしかしてじつはそれらはそこまで当たり前とかじゃなかったりするやつ?
「あの? あれですよね? もしかしてふざけているとかじゃないですよね?」
「何を? あっそうだ! この後の予定を忘れる所だった。君はもう大丈夫そうだからこれで失礼する。早くしないとバスに乗り遅れるからな。」
おじさんはそういうと小走りで向こうの方にかけていった。
ちょっと整理してみるか。
俺は先ほどのおじさんと今いる場所から情報をまとめる事にした。
この周りの建物に見覚えがあるし、おじさんの装いにも見覚えがある。
でおじさんは魔術と魔物を知らない上に異世界には存在しないであろうバスに乗り遅れると発言した。
って事はだよ?
おかしいのはおじさんじゃなくて俺の方だったという事なんじゃね?
いやいや。
さっきまで異世界でこれから世界を救うぞって命がけで戦っていたのにいきなり元の世界に帰って来るとかある?
ねーよ。
そんなの色々おかしいだろ。
だって俺は現代日本で死んだんだろ?
そんな俺がまたこの地に戻ってこれるとか何の冗談だよ。
そうか!
これが夢なんだ。
戦いで疲れた後に眠ってしまったんだな。
だからきっとこの光景こそが夢……
いや待て。
俺は異世界がどうこうという考えを一旦止める。
どうしてここが夢と言うことになる?
確かにさっきの神様やら荒れ地やら戦いやらは妙に現実感があった。
だがそれは本当の現実であったかどうか定かではないし確かめる術もない。
対してこっちの何の変哲もない普通の景色の方が証明するまでもなく現実感がましましだ。
つまりだ、実際はここが本当の現実で向こうでの出来事が全部夢だったというおちなんだろう。
さっきのおじさん曰く俺は寝ていたんだから本当の夢はあっちと考えるのが自然だ。
異世界どうこうのほうにリアリティがあったのはきっとアニメを見すぎていたせいでそれが頭に残っていたから俺の夢として現れたとかそういう事なんだろうよ。
なんだそういう事かよ。
それなら色々辻褄が合うな。
まあ何で俺がこんな所でいきなり眠っていたんだとか謎は残るけど異世界転生よりはまだ現実味のある物だし特に気にする必要も無いな。
「よし! これで不可解な謎は解決した事だしこれから家に帰るか!」
俺はこれから訳のわからない魔術やらなんやらの事はきれいさっぱり忘れて気分を入れ換えようとした。
「ん?」
この場から去ろうとしたタイミングで頭の中に何かが表示された。
なんだこれ?
なにやら数字やらなんやらが羅列されていた。
あれか、さっきの夢の中であった脳内で使用できるステータス画面ってやつか。
もしかして心のどこかであの非日常をまだ信じたいと思っているから頭の中に浮かびあがったのか?
はあ……だからさっきのは俺の夢の中の出来事だっての。
いい加減理解して切り替えろよな。
俺は呆れながらもその妄想を振り払うためにそれを脳内でいじる。
ふむふむ。
さっきの異世界とやらでみたのと同じやつだな。
特にこれと言って変化はない。
だから? 所詮こんなのはさっきの妄想の延だろ?
そんな事を確認したから何だって言うんだよ。
俺はそう思いつつも頭の中にまだ残っているそれの操作を続けることに。
それにしても中々消えないなこれ。
もうそろそろいい加減にしないと頭が混乱してく……ん?
俺はいじっていくうちにある項目にたどり着く。
能力一覧と。
そういえばクラウ、神様が使える能力はここに整理したとかなんとか言っていたっけ。
妄想の人物の発言だけど。
はあ……もう早く消えて欲しいんだけど。
俺はもううんざりしていた。
「まさか本物……いやいや。」
なかなか消えない画面に対してだんだんこれは妄想なんかではないと思うようになってきた。
仮にもし、もしだよ?
これが異世界転生をした証のステータス画面が本当だとしたらだよ?
今の俺はそのチート能力とやらが使えるという事になるが……
そんな事はあり得ない。
だってここは現実だから。
そういうのはアニメの世界の出来事なのであってこの世界とは無縁の事。
日常生活においてあってはならない異質な物だからだ。
「……それはわかってはいるけど一度だけ試しに使って見ようかな。まあ出来ないのは目に見えているけど。」
何も起こらなければこれはただの俺の妄想だとはっきりするし。
「じゃあちょっと恥ずかしいけど能力を唱えてみる見るかな。転移。」
俺はその能力名を口にする。
……
が何も起こらない。
「ほらやっぱり。これはただの俺の」
「妄想……」
俺は今見覚えのある場所に立っていた。
「……ここって」
誰がどう見ても生活空間である。
しかもそこは俺にとっては長年慣れ親しんだ場所。
「そんなわけないだろ!」
俺は何かの間違いだと思いつつある場所に向かう。
ばたん!
その目的の部屋の扉を勢いよく開けてそこに入り驚く。
いやここがどういう場所なのかもう何となく薄々気がついていたので実際はそこまでの驚きはなかった。
「ここ俺の自室だよな? それは間違いない……。じゃあこのステータス画面は夢なんかじゃない……?」
つまりだ。
まとめるとこういう事だ。
ここは現実。
これは間違いない。
で頭の中のこれも現実、チート能力も現実、
認めたくないが先ほどの異世界も現実。
何度も回り道をしてしまったが
「嘘だろ!? チート能力を持ってこの世界に戻って来てしまったのか!? というかそうなるとあの世界にいるリイスを一人あの場に置き去りにしてしまったのかよ!?」
次々と明らかになる事実に頭の整理が追い付かない。
くそ!!
色々ツッコミたいことはあるが先ずは目先の問題からだ!
今からでもリイスの所に行くために異世界転移を。
って出来ない!?
何で!?
まさか世界を移動する転移は俺のとはまた別の物という事なのか!?
おいおい。
それじゃあどうするんだよ!!
このままだとリイスがまた魔物に
ピンポーン
俺があれこれ考えていると自宅のチャイムがこの空間に鳴り響く。
こんな時に来客かよ!!
タイミング悪いな!
俺はイライラしながらも玄関まで駆けていく。
ったく、これでもし変な用件だったら叩き出してやる。
俺は玄関前に着くと相手がどんなやつで直接応対すべき人間かどうか確認するために除き穴を見る。
誰だ?
こんな時に来るやつはどうせ録なやつじゃな……
俺はその場で固まってしまった。
そこにいたのは見覚えのある金髪のツンデレな感じがする美少女と、見覚えのある青い髪の美少女二人が立っていたからだ。
え? 何で日本にクラウとリイスがいるの?
もしかして全部夢というのが正解なのか?
これはあれか。
似ている人がたまたまここに用があってきたとかそういう事か。
「出てこないね。」
「全く! せっかく来てやったのに留守とかタイミングが悪いわね!」
うわ。
現実だわ。
性格とか声とかそのままだし。
というか何でうちに来たんだよ!?
もしかして途中で救済の旅を放棄した俺の場所を突き止めて排除しに来たとか!?
それは不味いぞ。
いや別に戦闘面がとかそういうのじゃなくて俺が知り合いの女の子を相手にするとか周りへの被害を考えないといけないという事。
それを考慮すると仮に戦闘になった場合俺は向こうからの攻撃に対して一切反抗することができないまま終わってしまうだろう。
どうする?
このまま居留守を使うか?
いやでも相手は神様だぞ?
俺がこの中にいるのなんて既にお見通しでこちらの出方を伺っているに違いない。
ならここはいっそ無理にでも転移を……
「クラウ? 僕達がこのマンションとやらに新しく住むのに近隣住民に挨拶が必要なのはわかるけどさ? どうする?」
「まあいないなら仕方ないのだけれども。でもいきなり知らない人間がいたら困惑するでしょうからなるべく待つわよ。べ、別に交流を深める為の第一歩とかそういう事じゃないから!! 勘違いしないでよね!?」
ここに住むとかそういう所は置いといて、もしかして俺がいることに気がついていないのか?
ならここは面倒だし居留守を
「待つのはいいけどさ? 何かここにずっといたら周りから変な目で見られそうな気がするんだけど……」
「大丈夫よ。こういう初めての挨拶の際にはそういう常識は適応されないって他の奴らが言ってたから何の心配も入らないわ。だからあと二日は余裕よ!」
そいつら絶対嘘ついてるわ。
どんな事情であれ部外者が玄関先に張り付いているのは例外なく変な目で見られるのが当然である。
はあ……それだけならまだいい。
けどもし二人が本当に二日間張りついて玄関先で何かあった時に疑惑の眼差しを向けられるのはここの住人である俺なんだよな……。
居留守しようと決め込んだ矢先にこれをするのは中々意思がぶれすぎていやになるわ。
俺はそう思うと玄関の戸を開けた。
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