第4話 もといた世界に帰れるは聞いてない

 「お前達! 何を遊んでいるのだ! こんな人間ごときに遅れを取った事がバレたら私が上の方々に始末されてしまうのだぞ!? 本気でやれぃ!」


 リーダーは他の魔物達に勢い良く次の命令を下していた。


 「そろそろこちらから攻めたいけどこのまま行ってしまうとこの子が危な……」


 『だったらそのシールドをその子の周りに設置すれば良いじゃない。その代わりに今のあんたの実力だと自身には設置出来ないけど。』


 そんな事が出来るのか。


 「何で最初から言わないんだよ。」


 『わ、忘れていただけよ! べ、別に? 敵の攻撃の威力を知る為とかその子の事だけでなくあんたの事も心配だったからあえて言わなかったとかじゃないから! 勘違いしないでよ!?』


 「あーはいはい。そうですねー。」


 忘れていたと言って後半に本音を言ってしまうやつね。

  

 ツンデレあるあるだな。


 『ほら! ぼさっとするな! 早くしないと敵に攻撃を溜める隙ができちゃうでしょ!?』


 そうだったな。


 そんな関係ない事を思考している場合ではないな。


 「すまん。ありがとう。」


 『ふん! だったらもう行く! それから今から背後を取るのには転移を使えばいいけど、色々な関係上この戦いでは一回しか使っちゃ駄目だからね!』


 「オッケー。」


 俺は女の子に防御能力を使い


 「えーと、えーと。剣でいいか。」


 剣を出して手に持つ。


 「そして、転移!」






 「フハハハハ! 次は容赦しない」


 「ふん!」


 俺は敵が発言している途中で移動して剣を思い切り振った。


 「「「ガアアアアア!!」」」


 よし。


 リーダー格以外の魔物は討伐できたな。


 「貴様いつの間に背後を!?」


 リーダーは俺の存在を認識すると羽を使って空を飛ぶ。


 「あ、それをされたら俺の攻撃が届か」


 『飛行!』


 と、そういうのもあるのね。

 

 「飛行!」

 

 俺がそういうと背中に翼が生えて空を飛べるようになる。


 「な!? 人間が飛ぶだと!?」


 「そうみたいだ、な!」


 俺はそのままリーダーに向けて剣を構えながら直進する。


 「フハハハハ! 馬鹿め! 策無しに突っ込んでくるとは愚かなやつだな!」


 リーダーは俺に向かって魔方陣を展開し、先ほどの奴らと同じような攻撃をしようとする。


 かわせるんだよなこれ?


 空を飛んだのなんて初めてだし上下左右に回避するとか出来るのか俺?


 『考えない! 私が最適な回避ルートを送るからその通りに動きなさい!』


 って言われても俺に出来るかどうか


 「脆天使による連雷!!」


 魔物がそういうと魔方陣から複数の雷がこちらに向かってきた。


 多いよ!?


 こんなにあるんじゃまともにかわせな


 『ほら送ったわよ! さっさと動く!』


 頭の中にあの攻撃をかわすための道が表示される。


 何か最初はもう駄目だと思っていたけどこれなら!


 俺は送られてきた指示を忠実にこなす。


 一見するとそれは一瞬で理解して実行するのは無理な位細かいものではあったが、今の俺はなぜかそれを理解、体が勝手に動く。


 「かわした!? だがこれならどうだ!!」


 攻撃はより細かく、より苛烈になる。


 俺はそれを回避する為に縦横無尽に動く。


 『二秒後の攻撃が回避できないわ! 剣で受けて!』


 俺は剣を前に突き出してそれを受ける。


 するとそれは剣によって弾かれ消失。


 「あれを弾くだと!? 馬鹿な!?」


 『敵に隙が見えた! そのまま直進して!』


 「ああ!」


 俺はそのまま目標に向かって一直線に飛ぶ。


 「舐めるな! こうなれば私の最大の魔術を食らわせてやろう!」


 魔物がそういうと先ほどよりもやや大きい魔方陣が出現する。


 流石にこれは不味いんじゃ……


 『魔術はこちらに向かって一点集中すると出たわ! その剣なら余裕で耐えられるから姿勢はそのまま! 変な事は考えない! しゃきっとする!』


 見てるだけだからなんとでも言えるよな。


 お前多分この場にいたら泣いてそう。


 「とりあえずここは信じる!」


 俺はそれを正しい事であるとして、そのまま前に突っ込んで行った。


 「フハハハハ! 脆天使による滅雷!」


 そして俺の方に大きな光の塊が向かってくる。

 

 俺は剣を強く握りしめてそのまま前に向かう。


 




 「おりゃあああああ!!」


 別に叫ぶ意味なんて皆無なんだろう。


 こんなことをしても疲れるし、能力が向上するわけでもないし、クラウ以外の他の誰かが助けてくれるわけでもないしな。


 しかしこういうのは己を鼓舞する為である。


 ただ目の前に現れた自身を害そうとする攻撃にぶつかる為気合いを入れたいから叫ぶ。


 それだけ。




 

 




 「なっ!? あの攻撃ですら通用しないだと!?」


 びっくりしているみたいだな。


 俺も同じだわ。


 まさかこんなに簡単に窮地を脱することが出来るとは思わなかったわ。


 「こうなればここは人間討伐を一時中断、処罰覚悟で退却を……」


 「逃がすか! 転移!」


 俺は魔物の背後を取る。


 『連続使用は控えろと言ったのに!!』


 そう言うのは後でいいからさ?


 「待て! 我々はただあそこにいる人間の女を狩る為に」


 「いきなり殺意マシマシの攻撃を使ってくるやつの話なんか聞く意味はねーよ!」


 俺は躊躇なく剣を振り魔物を討伐した。


 こういう時最後まで話を聞くのが良いみたいなのがあるけど、こんな何してくるかわからない状況でこいつを野放しにするのは危険だからそういうのは無しにした。










 「終わったみたいだな……ぐっ!? 痛って!?」

 

 急に全身に鋭い痛みが襲いかかってくる。


 『だから言ったでしょ!? 転移の連続使用はしてはいけないと! それ体への負担が凄いのよ!? 言っとくけど今のあんたの使える回復能力じゃあすぐにはどうにもならないわよ!?』


 確かにそんな事言われたな。

 

 けど詳細な内容については聞いてないぞ。


 「だったらもっとちゃんと言ってほしかったな。」


 まあ限られた時間内で伝えろは少々言い過ぎかもしれないが。


 『それは私が悪……いや! 私の言葉を聞いて一から十まで理解できないあんたが悪いわよ!!』

  

 こいつ滅茶苦茶な理論でこっちのせいにしてきやがったぞ。


 ここはもっとまともな発言できるだろ。


 「初めての実戦中にちょっと言われた事から推測をしろと? そんなの無理だわ。そういう戦闘時の思考をする目的でお前がいるんじゃないのか?」


 任せきりというのは良くないが基本そう言う事をしてくれないとナビゲーションの意味がない。


 『それは……そ、そうやって人のせいにするき!?』


 「あーすみませんね。仕事できるできないの話を回りくどく説明したせいで勘違いをさせてしまって。」


 『どういう意味よ!?』


 俺は痛みに耐えながらもうるさい神様と熱い口論を繰り広げていた。







 「あ、あの……?」


 次はどうやってクラウに食らいついてやろうかと考えていると後ろから先ほど助けた青い髪の少女が声をかけてきた。


 「さっきは助けてくれてありがとう。」


 少女は少々ぎこちない所があるもののこちらに対して丁寧にお辞儀をしてきた。


 素直に感謝されると悪い気はしない。


 どっかの誰かさんも見習って欲しい。


 『今何か失礼な事を考えたわね?』


 こいつの事は一旦無視しよう。


 「そんなに深々とお辞儀なんてしなくてもいい。なんというか別に成り行きで助けただけだからさ?」


 この付近に転移していなかったらこの襲撃は今頃素通りしてしまっていただろうしな。


 「それでも僕を助けてくれたのは事実。本当にありがとう。」


 いやー。


 こういうのをアニメとかでよく見るまともなヒロインってやつなんだろうよ。


 『鼻の下伸ばさないでよね?』


 はあ……神はなんて残酷なんだ。


 目の前の美しい今にも消え入りそうな存在が人間で、美しいがうるさい事が取り柄みたいな存在が神とか間違っているだろ。


 『……変な事考えてるわよね?』


 どうだろうな?


 「とにかく今から情報収集をするからここは静かに頼むよ。」

 



 どっちがどうとかは置いてといて俺は少女に目的やらなんやらを聞くことにした。


 「君名前は何て言うの? 俺はゆうと。」


 「?」


 いきなり名前を名乗られて反応に困るって感じか。


 「あ! 助けてくれた恩人に対してすぐに名を名乗らないなんて駄目だな僕は……」


 そんなに大げさな事じゃないけどな。


 「ではしっかりと僕の名を名乗らせてもらうね。僕の名はルレイリイス。」


 異世界だからか中々中二心をくすぐる名前が出てきたな。


 「ル……」


 ちゃんと名前を呼びたいのに上手く言えないな。


 そんな俺を見て可笑しかったのか彼女は俺を見て微笑む。


 「ふふ……。リイスでいいよ。」


 なんという気遣い。


 こんなに優しい女の子に出会ったのは幸運だな。


 「それでリイス。お前はここで何をしていたんだ? 他の人はいないの?」


 なんか言い方がナンパ臭いけど他に言い方がわからないから仕方がない。


 「……それはその。」


 リイスは俺の質問に対して目を背けてしまう。


 不味いことを聞いたのかもな。


 ここは異世界だし俺の想像を絶する事情やらなんやらがあるのだろう。


 下手に深堀するのはよくないな。


 「答えられないなら答えなくても良いしこの際そういう事はどうでもいい。」


 世界がどうとかに比べたら細かい事を気にしないのはわけないし。

 

 「え?」


 「俺に出来ることはないか? 何でも言って欲しい。」


 俺はリイスに手を差しのべる。


 こんな事もといた世界でやったら気持ち悪いと思われるがここは異世界。


 そんな感性今は捨て去るべきだ。


 「それは……でもなんで?」


 聞くよなそりゃ。


 知らない奴から助けてやると言われたら何か見返りを求められるのではと身構えるのは当然だし。


 「別に? ただ何となくこうした方がいいかなって。」


 今俺の中には困っている女の子をこのまま見捨てることが出来ないという気持ちと、今後の俺の目的に近づく為の有益な事に繋がるだろうという打算的な気持ちがあるから。


 だからそれを一瞬で解決する方法は目の前の女の子の頼みごとを聞く事であるからと思ったから手を伸ばしただけである。


 ……なんかこれだと俺が手段を選ばず女の子を利用する最低野郎みたいな感じだよな。


 まあその辺は相手を不快にさせないとかで上手く折り合いをつければ良いだろう。


 「いいの? 僕といればまたさっきみたいに魔物に襲われ続けるかも……」


 「構わないさ。あの程度の魔物なんて大した事ないし。」


 「なんて堂々とした姿……」


 リイスは俺を見て口元を抑えていた。


 まああくまでチート能力と神様の支援があるからそういう態度が取れるわけであって、それがなかったら今頃この場から逃げ出していたからその言葉はちょっと胸に引っ掛かる。










 「じゃあお言葉に甘えてここは一つ僕のお願いを聞いてもらうことにしようかな。」


 「おう何でも好きな事をいえ。」


 制限があるとはいえチート能力使えば大抵の事はできるだろうし。


 「わかった。ならこの先にある街まで同行をお願いしたいんだけど。」


 リイスは何もない向こう側を指す。


 「……もしかしてここから結構歩いたりする?」


 俺の言葉を聞いたリイスはポケットから一枚の地図を取り出す。


 「そうだね。この辺だからおそらくだいたい二三日くらいは。」


 遠すぎだろ。


 そうなると街につくまでずっとリイスの周りを警戒しないといけなくなるじゃん。


 女の子の事を四六時中考えられるのは悪くはないけど状況が状況だからなー。


 ご飯食べてる時とかもおちおち他の事も考えられない。


 最悪睡眠も……と、そうだ!


 こんな時の為に転移能力があるんじゃないか。


 ならそれを使わない手はない。


 連続使用は駄目だという事だが目的地に向かって一回使用するのは何のデメリットもないはず。


 痛みは引いたし今何の不安もなく使えるはずだ。


 「リイス。悪いんだけど俺の手を握っていてくれる? その場所まで転移を使うから。」


 「転移って何?」


 聞き馴染みがないか。


 俺はアニメとか見ているからそういう事を言われてもこれだと理解出来るが、異世界だと情報を得る手段とかの関係上それは厳しいよな。


 「すぐに目的地にいける魔術の事だよ。」


 「……初耳だね。でもゆうとの事だしきっと本当の事なんだろうね。信じるよ。」


 リイスはそう言って俺の手を握ろうと……


 『あ言っとくけど、敵の仕掛けた罠の関係上この世界ではあまり遠い距離の転移は使えないのと、仮に短距離でも二人以上の転移は神以外が一回でも使ったが最後さっきよりも更に激しい痛みが襲ってくるわよ? だから不用意に他の女の手を握るな!』


 あれ以上の痛みが遅い来るとなると俺自身身動きが取れなくなるだろうからそうなるとここは歩き一択か。


 正直俺長距離を歩くのはあんまり得意じゃないんだけどな。


 「リイスごめん。転移は使えないみたいだからここは手を繋ぐのはなしで」


 「……そっか。」


 何か残念そうだな。


 それもそうか。

 

 直ぐに目的地に行けると言われてやっぱり出来ませんというのはがっかりするだろうよ。


 







 「歩きなのは良いとしてせめて警戒なくしっかりと休めるところとかないもんかねぇ。と、そうだ。」


 俺はそう呟いた後に何かこの旅を無理なく過ごせるチート能力がないか探してみることに。


 えーと防御


 休憩の時とかにはもってこいのものだ。


 しかし万一寝てる時とかに無意識に能力が解除されたら危険になるからもっと安全な奴が欲しい。

  

 剣


 まあ戦闘用だな。


 飛行 

  

 俺の飛行経験と持続時間、それにリイスを抱えて空を飛ぶのはリスクがあるから今の俺には厳しい。


 それにそこで襲撃とかされたらリイスが危ないしな。


 転移


 ちょいちょい転移するというのもありだけどそれだと万一の時に困るからなし。


 帰還


 ん?


 俺は見慣れない単語に首をかしげる。


 この帰還ってなんだ?


 ……もしかして旅が快適になるとかそういう奴か?


 とりあえず一度試してみるか。


 「帰還!」


 そう唱えた瞬間俺の体が輝く。


 あれ、なんか嫌な予感が。


 「ゆうと!? どうしたのその体は!?」


 「……ごめんちょっとよくわからない。好奇心で帰還という能力を使って見たんだがその結果こうなった。」


 不用意に能力を使っては行けないな。


 今後は気を付けないと。


 『あんたまさか勝手に帰還能力を使ったの!? ちょっと何を考えているのよ!? それを今ここで使ったらあんたは問答無用でもといた場所、つまり日』


 その言葉の途中で俺はその世界から姿を消した。






 

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