第7話 事故の後遺症、それは所詮因果応報

 私は目覚めると、右目が真っ暗なことに気づいた。

 その右目の部位を触ろうと思って、右腕を動かすが、なぜか肘より先がなかった。

 左手はある。その左手で顔を触る。どうやら包帯が右目に巻かれているようだ。

 そのあと、ここはどこだろうかと周囲を見る。

 心電計に点滴、白いベッド。どうやら病院のようだ。

 看護師が傍に寄ってきて、目を丸くし慌てて病室を出ていく。

 数分後。医師がやってきた。


「ご機嫌いかがですか?」


 柔和そうな、優しい声音を持つ医師だった。

 私は、どうして右手がないのか、なぜ右の顔面を包帯で覆っているのか訊ねようとしたが、声が出なかった。

 その表情で、何を言いたいのか察したのか、医師はためらいがちに呟く。


「突然なことだと思いますが、どうか落ち着いて聞いてください。あなたは右の顔面と肘から下の右腕と、歩行機能を失いました」

 私は徐々に過呼吸になっていくのを自覚した。しかし、それを寸前に止めたのは今まで培ってきた根性だった。

「あなたは強い人だ・・・・・・普通、混乱されるのに」

 医師は粛々とそう言った。


――――――――――――――――――――――――――


 二週間後。私はICUから一般病棟へ移された。

 窓から眺められる入道雲を眺望していた。

 すると扉がノックされた。


「すみません。葵いますか」


 今、とても会いたくない人の声が聴こえた。

 焦るような靴音が響き、私が視線を移した瞬間に抱き締められた。

 その人は、大炊だった。

 見違えるような、でもある意味では当然の報いを受けた私を赦すように、早まった慟哭を大炊は私に突きつけてくる。

 そこでようやっと私の涙腺が緩む。ぼろぼろと涙が溢れだしてくる。


「大炊くん。私、こんな身体に、なっちゃった」

「そんなの関係ないよ。僕は君がどんな姿になろうが君のことが好きだし、ずっと、ずっと愛しているから」

 そう言ってくれる大炊の存在が、私にとって何よりの救いだった。

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