マトリョーシカ

@KRM730

第1話

〜マトリョーシカ〜


奴は眼をぎらりとする。

とても鋭い眼差しでこちらを睨んでいる。


ドーン、ドーン、激しく鳴り響く爆発音。


「さぁ、あの爆弾を飲み込み奴を倒してくれ。」


在天博士の指示で、無数の"ブルース"が一斉に爆弾を飲み込み、次々と戦闘機のF2から飛び立っていった。


F2の中には指導室から爆弾部屋まである。

爆弾部屋に入ると、そこには大量の爆弾が陳列されている。

ブルースはその爆弾を飲み込み、敵に体当たりすると爆発するという機械爆弾だ。


そしてブルースの他にF2に待機しているのは、ロック率いる"Aタイプ"。

ブルース同様在天博士の作り上げた機械である。

ブルースよりも激しく爆発する機械爆弾だ。


「いいか!奴を倒すには、もうAタイプが突撃する他ない。奴をブルースで攻撃しても全く効かない。」


在天博士の予定では、機械爆弾ブルースであの忌まわしい珍怪獣を倒すはずだった。


しかし思惑通りにはいかないものだ。


指示を受けたロック達Aタイプは一斉に爆弾部屋へ向かい、爆弾をガチャガチャと飲み込み戦闘体制に入る。

とても機械とは思えぬスピードだ。


しかし突撃しに行くスピードがやけに遅い。

まるで爆発する事を恐れているかのように。


Aタイプが突撃に怯えているのか?

まさかそんな事はない、機械に心なんてあるわけがないのだ。


なぜなら何十年にも渡り、心のある機械を作ろうと試みた在天博士。

当然ことごとく失敗に終わっていた。


在天博士は、まだこの時はAタイプがこんなにも進化してるとは予想だにしなかった。


Aタイプ達は重い足取りではあるが、一体また一体と珍怪獣に激突し爆発する。

それは時空が歪み、F2にもダメージがある程の衝撃だ。


激しく揺れるF2の中で、在天博士は倒れ込む。

だがAタイプに目を向けると信じられない光景が広がっていた。


なんとロック達がフォーメーションを組んでいるではないか。

陣を張りながらタックル。

機械とは思えない絶妙なフットワーク。

まるで意思疎通をしているかのようなチームワークで。


爆発音と共に珍怪獣は恐ろしい唸り声をあげている。

ワンワンワンと。

ダメか、効いていないのか...。


だがよく見ると、珍怪獣の大きさが一回り小さくなっていたのだ。


Aタイプ達が次々と体当たりし、爆発していく。

攻撃を受ける度にまた一回り小さくなる珍怪獣。


ついに珍怪獣はAタイプと同じサイズにまでなった。

そして最後に残ったのはロック。


ロックは在天博士を一瞬だけ見ると、迷いもなく真っ直ぐに珍怪獣に体当たりをした。


「ローック!!!」


爆発音と共に桜の花びらのように舞うロックのカケラ。


大きな衝撃と共にF2が崩壊する。

そして段々と意識が遠のいていく。


もしもAタイプに心があったとしたら、みんなはどれほどの恐怖だったのだろう。

恐怖を感じながらも突撃し、爆発する。

かつて人間爆弾と呼ばれた特攻兵器と変わらないではないか。


「俺はなんて事をしてしまったんだ...」




ワンワン!クゥン、ワンワン!


目が覚めると、愛犬が朝ごはんをくれと鳴きながら俺の顔を舐めていた。

つけっぱなしのテレビ、片手にはスマホ。

棚には昔祖母に買ってもらったマトリョーシカ。


なんだ、夢か...


窓を開けると、朝焼けの潮風が香る。

鼻の奥から全身を駆け巡った。


よし、今日も頑張ろう。

                 平和

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