アーケヴの歩き方~そんな装備で大丈夫か?
アーケヴ大公国(緑萌ゆるアーケヴ)
首府・エーグモルト
ラーファ大陸南西部に属する大公国。
今はなき古王国のながれを汲むくにとして、近隣諸国とも友好な関係を保ちながら繁栄を謳歌していたが、突如として西の果てから現れた魔族とのいくさに明け暮れることとなる。各地の特徴は以下の通り。
北東部(エーグモルト)
首府エーグモルトを擁する、政治・文化の中枢。商業都市ランスやディジョン、モンマスなどの諸侯領・司教領がつらなる。
東部(イェスト)
東の砦がある辺境の最前線。
シロス、リキテンスタインなど辺境伯領や自由開拓民の村や町が点在する。森林や湖沼が多く、木材や毛皮などの天然資源が豊富。
西部(ウォリック)
レクサムなど西方諸国への玄関口として賑わっていた地域。かつての繁栄は見る影もなく、南東部と同様に凄惨な戦場と廃墟ばかりが広がっている。
南部(デュフレーヌ)
古王国のながれを汲む諸侯が統治する地域。その権限は北東部以上に強く、中央も迂闊に介入できない。良質な農作物の産地でもある。
最も知られているのが、大公家と同じ王家の血を引くデュフレーヌ侯家。壮麗なとねりこ舘は別名<南の宮廷>とも称されているほど。
北部(エクセター)
独立不羈の気風が強い地域。歴代の大公が統治に手を焼いたためか、北部出身者は中央では少々煙たがられることも。林檎や蒸留酒、麦酒が有名。
戦乙女エイリイの伝承に表わされているように、男女の区別なしに幼きものへ力ふるうことの意味を剣とともに伝える風習があるため、この土地の娘たちはかなり手強いと評判。
南東部(オード)
<髪あかきダウフト>の故郷。女たちが真名(まな)の風習を残していること以外、これといって特に知られてはいなかった。戦の直前にある小村を訪れた者が「ここだけが夢のように穏やかだった」と手記に残していることからも、のどかな田園地帯だったことが伺える。
今ではもう、何ひとつ残ってはいない。
東の砦
アーケヴ東部(イェスト)の最前線。
砦の西に広がる<帰らずの森>と、北の山と湖といった天然の要害を背景に、戦時には敵を迎え撃ち、ふもとの町や村の住民たちの避難所として長い歳月を重ねてきた。
<アーケヴの狼>たちの居城であり、歴代の騎士団長が城主を兼任してきた。現在の城主はバルノーのヴァンサンだが、真の実力者は奥方イズーではないのかというのがもっぱらの評判。
砦の主な見どころはこちら。
・広間
東の砦における、公務や式典を司る場。はじめは客人として訪れたレオが最初に通されたのもここ。
騎士団長や奥方が客人を出迎えたり、町や砦で起こる大小さまざまな争いの調停に勤めたり、時にはにぎやかな宴の場として開放されたりする。
ご自慢は広間の壁に飾られた、いにしえの女王みずからが製作に携わったという、緑地を駆ける灰色狼の騎士団旗。
・執務室
<アーケヴの狼>たちを率いる騎士団長が詰める部屋。あるじの不在時には、副団長が代行としてここで<狼>たちの統率にあたる。
たまに覗くと、騎士団長がさまざまな書類を決済したり、たいへん暇そうに欠伸をしていたり、奥方への許しを請う手紙を泣きながら書き綴っているさまが見られるかもしれない。
・詰所
<狼>たちが過ごす大部屋。
敵襲など非常時以外は、ここでめいめいが自由に過ごしているのだが……こっそり覗き見た兵士によると、魔物どもを相手にしているときの勇猛さは、いったいどこに消えちまったのかねえと首を傾げたくなるような光景であるらしい。
・修練場
剣や槍、弓、体術など、騎士や兵士、騎士見習いたちが訓練を行う広場。
最近ではどこぞの若君が、少しは手加減をしろこの無愛想ッなどと涼しい顔をした騎士に向かって騒ぎ立てては容赦なく叩きのめされ地団駄を踏んでいる、砦いち暑苦しい場所。
・書庫
砦の長老たちの熱意のたまもの。古今東西のあらゆる書物が閲覧できるが、時々起こる本の雪崩には注意されたし。
ある者には日々の喧騒を忘れさせてくれる天国であり、ある者にはいつかきれいな挿絵のついた本を読んでみたいという望みそのものであり、またある者にとっては身悶えしたくなるほどの苦行の場。司書を務める若い学僧とある騎士が、『植物大全』なる本を広げて何やら楽しそうに企みごとをしていたとの目撃談も。
・厨房
砦の大食漢どもの胃袋をあずかる聖域。
料理長ノリスの号令一下、己が腕に生命をかける男たちの熱き戦いが日々繰り広げられている。匂いにつられて迷い込んだ魔物が鉄鍋の一撃で沈められたり、つまみ食いを見つかった聖女がパイにされる代わりに、おしおきとして野菜の下ごしらえを手伝わされている。<厨房の貴婦人>雌猫ヘンルーダと子供たちの居城もここ。
・施療室
シェバ出身の長老イドリス師と弟子たちが勤める。
ガスパール、イドリス、ヴィダス師の三人が集い、さまざまな研鑽にいそしむ場でもある。ここで生み出された新薬の効果を知りたいと志願者を募っているが、今のところ名乗り出た猛者はいない。他薦により薬を口にしたある騎士が、あまりの凄まじさに五日ほど寝込んだという噂がご婦人がたの間で囁かれている。
・私室
騎士団長をはじめ、砦に暮らす騎士たちにそれぞれ与えられる個室。非番の日にはここで休息を取ったり、郷里から送られてきた手紙への返事を書きつづったりと過ごし方は自由。
部屋にも、そこに住まう人間の性格や好みが出るようで――実用一辺倒としか言いようのないある部屋には、近頃小さな花が届けられたらしいが、主はどう反応したものかと頭を悩ませている。
・婦人部屋
ほとんどがオトコ所帯の砦にあって、唯一にして絶対不可侵なる女の園。
奥方イズーの私室をはじめ、ダウフトが侍女や小間使いの娘たちと一緒に起居する部屋もこの区画にある。はじめは聖女にふさわしく広い部屋が用意されたが、ひとりぼっちは嫌という理由で村娘がまったく使おうとせず、ここで暮らすようになった。この件については後日、どこかの誰かが幼馴染や仲間たちに、宵闇にまぎれて忍び行くには難儀するなといらぬ励ましを受けるはめになったとか。
たまに奥方のゆるしを得た<熊>どのが、娘たちを相手にチェスの手ほどきをしたり、華麗なる刺繍のわざを披露したりしている。
・城壁塔
砦を囲む外壁にしつらえられた見張り塔。
南の城壁塔からは、天気の良い日には遠くの港町が見えることも。ある騎士がここをよく訪れるとのことだが、はるかなる南の海や東の国に思いを馳せたいためなのか、それとも近くの喧騒を忘れたいためなのかは誰にもわからない。
・厩舎
騎士たちの軍馬から婦人のための乗用馬、丈夫で働きものの農耕馬まで、さまざまな馬たちがここで過ごす。
近頃は新しく馬丁見習いとして雇われた子供が、一頭の黒鹿毛とブラシをかけるかけないでじつに緊張感ただよう勝負を繰り広げては親方を悩ませている。人間にも効くらしい馬用の膏薬もここに置いてある。
・中庭
中央にしつらえられた四阿や、四季の花や緑が人々の目を楽しませる憩いの場。
奥方ご自慢のめずらかな白椿や薔薇をはじめ、長老たちが栽培に苦心している貴重な薬草園もここにある。ごくたまに、どこかの騎士がうっとりとしたご婦人をやさしく口説いている場に出くわしたり(未成年は直ちに引き返すことを推奨)、白い子犬が全身真っ黒になって作成にいそしんだ穴にはまって転んだという事故報告もなされているため、足元には十分注意されたし。
<狼>(アーケヴの狼)
東の砦に属する騎士たちに冠せられた通り名。
古王国時代、時の女王が魔狼討伐の功績を讃え、緑地を駆ける灰色狼の旗印を騎士たちに賜ったことがはじまり。
けれども大公家の統治に変わってからは、その勲を疎んじた諸侯や司教によって東の砦へと追いやられ、以後エーグモルトの宮廷では<狼>へ名をつらねることは事実上の左遷という不名誉な伝統ができあがることに。
ところがどうした、もとが森に馴染みの深いけものを戴くためなのか。魔物と拳で語り合い、飲んで食べて歌い踊り、時にはご婦人に愛を囁き――と、すてきな辺境暮らしを満喫した先達の記録が砦にはいくつも残されている。
実際ふもとの町には、親父や祖父さんやひい祖父さんが<狼>だったという人々もおり――魔物の喉笛へと食らいつく猛者たちも、気だての良い娘さんにはてんで弱かったという事実をみごとに証だてている。
能天気かつ単純明快、立ちはだかる敵には鋭き牙を以て。どうやらこれが、<灰色狼>を名乗る男たちの伝統であるようだ。
ふもとの町(のちの世には「朽ち果てし砦の町」と呼ばれる)
東の砦に守られた古い町。
幾度となく魔物や同胞たる人間に攻め込まれ、時には流行病や火災に見舞われても、人々はたいそう強くたくましく日々の暮らしを営んできた。
中央から追われた<狼>たちを受け入れたのも、はじめは魔物や人間による治安の悪化を防ぐためという身も蓋もない現実によるものだったが――それから幾世代がたち、町と<狼>たちは切っても切れない間柄になっている。
通りには曜日ごとにさまざまな市が立ち、砦や町、近隣の村からやってきた人々でたいそう賑わう。時たま砦の聖女がお忍びで現れるとの噂もあるが、本当かどうかは定かではない。
おもな見どころとしては、以下の通り。
・<狼と牝鹿亭>
美人女将エリサの気の利いたもてなしがうれしい店。もちろん料理や酒も逸品ぞろい、砦の<狼>たちにも贔屓にしている者が多い。ちなみに、女将の理想の殿方は副団長だとか。
・聖堂
天にまします我らが<母>へ、慈愛と加護をこいねがう神聖なる場所。やさしく美しい面差しの聖母像が、戦にすさんだ人々の心をそっと癒している。
リシャールの思い人ではと噂される尼僧アドリーヌは、聖母像にそっくりと評判。だもので、ことの真相を確かめようとする男性諸氏と、彼らを連れ戻そうとするご婦人がたで聖堂は今日もごったがえしているらしい。
・<ジャンの店>
うまいパンや惣菜をこしらえると評判。ここのパテやタルトをお目当てにのんきな聖女がやってくるらしいが、正体を探ろうとあれこれ騒ぎたてると強面の店主につまみ出されるのでやめておいたほうがよい。
近頃、跡取り娘と某騎士との修羅場も新たな名物になっているが、さっさと決着をつけりゃいいのにねえというのがご近所のおかみさん連中の言。ちなみに店主ももと<狼>、若いときに腹をすかせて町をほっつき歩いていたところ、パン屋からただよってくるいい匂いとかわいい跡取り娘についふらふらと近づいたのが運のつきだったらしい。
・<薬師の店>
傷によく効くと評判の膏薬を求めて、<狼>たちが足繁く訪れる。だもので、必然と次のいくさや砦の情勢に詳しくなるらしい。ちなみにいまの店主は、祖母から店を譲り受けたばかりの三代目、砦の恐るべき医療事情も少々知っているらしい。
・小間物通り
名前の通り、ご婦人がたが好む小間物を扱う店が多い。新しいレースを選んでいる勝ち気そうな娘の後ろで、たくさんの荷物を抱えた二人の少年がうんざりした顔で立っていたとか、かわいいリボンや小間物を見てはしゃぐ娘に、仏頂面の男が仕方なさそうに付き合っていたとか目撃談は数知れず。
・武器屋通り
剣や鎧兜を扱う店や鍛冶屋が建ち並ぶ。場所が場所、時代が時代だけにたいそう繁盛のきわみ。
砦の鍛冶衆を率いるラモン親方もここの出身。
ついでにこの界隈は、少々血気盛んな連中が集まりやすく――そうした幾人かが、店のひとつを眺めていたある娘にちょっかいを出そうとして、連れの男に散々な目に遭わされたというはなしも伝わっている。
・古書通り
アーケヴの内外から集められた書籍を扱う界隈。砦の長老や弟子らしい若い学僧がよく見かけられる。ついでに、また時間を忘れてとぶつくさ言いながら、騎士の従者をつとめているらしい少年があるじを迎えに行く姿もよく見かけられる。
<帰らずの森>
古王国の朽ち果てし栄華を抱いた樹海。
毎年春には砦のつわものたちが、腕試しと気晴らしと薬草摘みの実益を兼ねて、魔物と腕力勝負を繰り広げるのが恒例。
また、この森には伝承の月牙狼が棲んでおり、砦が建てられるよりも昔から女王シルヴィア(森)として町や近隣の村に住む人々には畏れ崇められてきた。
噂では、とねりこ舘のわがまま侯子が最近拾ってきた子犬が月牙狼にそっくりというはなしだが――あの坊主が絡むと、どうも噂まで大袈裟になっちまってだめだなあと兵士たちは陽気に笑い飛ばしている。
世の中には、知らずにいたほうがしあわせなこともあるという一例。
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