聖女と騎士のはなし・欠片のカケラ

笑川雷蔵

いろいろ設定

登場人物・砦と町と周りのお騒がせな面々


ダウフト(<髪あかきダウフト>)

17~8歳ほど。赤みがかった栗色の髪と新緑の瞳。

いちおう聖女と呼ばれている、どこにでもいるような村娘。魔族の襲撃で故郷と家族を失い、逃げ込んだ東の砦でまたも魔族に遭遇。死にたくないと叫んだ彼女の強いおもいに応じて現れたのが聖剣<ヒルデブランド>だった。だがそれを機に、自らの意志とは関係なく魔族に立ち向かう旗印として祀りあげられてしまう。


ギルバート(エクセターのギルバート)

23~4歳ほど。漆黒の髪と双眸。

東の砦の騎士。自他共に認める堅物かつ無愛想。ダウフトの存在に、自らの特権が脅かされることを恐れた諸侯や司教により聖女の側づきという名の監視を命ぜられた。あくまでも任務を盾に、ダウフトへそっけなく接しようとするものの、のんきな娘の調子に巻き込まれ結局は世話を焼いているのが実状。


リシャール(ジェフレのリシャール)

24~25歳ほど。琥珀の髪と双眸。

砦の騎士、ギルバートの幼馴染。性格が水と油ほどに違いながら、なぜか馬が合うのは砦における謎のひとつ。

秀麗な顔立ちと優雅な振る舞いに、行く先々でご婦人がたの溜息を誘い視線を一身に集めている。乙女と騎士の間柄を、当人たちよりも見抜いているかもしれない。単に面白がっているだけという噂もあるけれど。


レオ(デュフレーヌのレオ)

14~5歳ほど。輝く黄金の髪と鋼玉の双眸。美少年であるらしい。

騎士見習い。聖女の噂を聞いて、砦に押しかけてきた名門デュフレーヌ家の若君。<とねりこ館のわがまま侯子>の綽名にふさわしく、突拍子もないふるまいによって数々の騒動を巻き起こす。

武芸の腕前は見習いの中では群を抜いており、騎士の叙任を一番に受けるのも彼だと言われている。あふれんばかりの自信と実力を持ち合わせているが、レネには頭が上がらない。


レネ(ナヴァルのレネ)

16~7歳ほど。蜜のような金髪と鳶色の瞳。

ダウフトの側づき。貧乏貴族の娘で、町を襲った魔族に立ち向かったダウフトの行いに心動かされて単身砦にやってきた。しまり屋の家令を口でやりこめた勝ち気さは有名で、鼻息が荒いとくれば大抵彼女のことを指す。

世事に疎い父や、生意気盛りな三人の弟たちの面倒を見てきたためか、たいへんなやりくり上手。大貴族の若君であるレオや、ギルバートの従者であるヴァルターを顎でこき使うあたりおそらくただ者ではない。雷が大嫌い。


ヴァルター(リンゼイのヴァルター)

15~6歳ほど。鳶色の髪と双眸。

ギルバートの従者で騎士見習い。剣も馬もそつなくこなすまじめな優等生だが案外そそっかしい所もあり、あるじからは落ち着けと諭されることが多い。

同年代のレオとは、事あるたびににらみ合いとつかみ合いの日々。だが、ふたり一緒に成功も失敗もしながら日々成長をしているあたり、往年の騎士団長と副団長を思わせると砦の長老たちは目を細めている。レオ同様、レネには逆らえない。


ベルナール(ランスのベルナール)

27~8歳ほど。白金の髪と氷青の眼。眼鏡着用、駆け出しの学者といった風貌。

商業都市ランスの若き市長。町を包囲した魔族を討ち果たしたダウフトへ、恋情ともまごう崇拝ぶりを見せている。

趣味は詩作。そのできばえは「めくるめく陶酔ぶりと斜め四十五度に飛躍した表現がこれでもかと綴られた文字の羅列」(ギルバート評)で、人や魔族問わず目にしたり耳にしたものたちを恐怖のどん底へと叩き落とす破壊と混沌の申し子。


クロエ(アルキュシアのクロエ)

26~27歳ほど。短く切りそろえた銀髪にはしばみ色の瞳。ランスいちの美女としても名高いが、普段は補佐官のお仕着せに身を包んでいる。

ランス市首席補佐官。<お祭り市長とゆかいな仲間たち>と称される市庁舎の面々を統率し、へぼ詩人の手綱を握りしめる女房役である。ベルナールとは幼馴染で、彼の傍迷惑な所業に唯一突っこめる人物。ランス市は、彼女の存在があってこそまともに機能しているのではという噂もあれこれと。


ヴァンサン(バルノーのヴァンサン)

東の砦と<アーケヴの狼>を統率する騎士団長。豪放磊落な性格で、時には若者たちをも唖然とさせることを平気でやってのける。唯一にして最大の弱点は奥方。


イズー

騎士団長の奥方。砦の母と呼ばれ皆に慕われる最強の人。その昔、評判の美姫であった彼女の心を射止めた者がなぜに騎士団長だったのかはいまだに謎。


ナイジェル(ボウモアのナイジェル)

副団長。奥方と並ぶ砦の要で、寡黙で峻厳な人となりは<狼>たちに怖れられる。騎士団長とは腐れ縁で、今となっては諦めの境地で受け入れているらしい。剣の腕は砦で一番。


アラン卿(アランのダグラス)

<狼>たちのひとり。年長者としての落ち着きともののふとしての勇敢さを併せ持つ男だが、なぜかいつも留守役を任されることが多い。かなりのお人好し。


ボース卿(ボースのネヴィル)

<狼>たちのひとり。たいへん常識的な人物で、それゆえ非常識を地でゆく騎士団長やレオが騒動を起こすたびに神経をすり減らしている。家庭では子煩悩な父親。最近の悩みは、おとしごろな上の娘がリシャールにお熱なこと。


ウルリック(リキテンスタインのウルリック)

<狼>たちのひとり。由緒正しきリキテンスタイン辺境伯であり、<熊>の異名をとる髭面の巨漢なのだが無類の猫好き。猫を見ると声音が三段階ほど跳ね上がるらしい。刺繍の腕前は見事なもの。


サイモン(ウォリックのサイモン)

<狼>たちのひとり。うまい酒とやさしき女性がいれば万事良し。好みの娘に声をかけまくるのはいいが、その度にロザリーとの間に一悶着起きては真っ赤な通行手形をつけられている。子供好き。


ロザリー

ふもとの町にあるパン屋の跡取り娘。ちゃきちゃきとした性格で、サイモンの浮気に怒り狂いつつも手綱は離さないしっかり者。サイモン曰く、右の平手はどんな酒よりも強烈。ちなみに彼女の父親ももと<狼>。


ノリス

恰幅の良い砦の料理長。かつて、神聖なる厨房に侵入した魔物を大鍋で張り倒したという伝説を持つが、真実かどうかは定かではない。


アネット

砦で暮らす下働きの子供。なぜかレオによくなつき、後をついてまわっては幼いなりにあれこれお手伝いをしている。将来の夢いっぱいなおとしごろ。


マノン

砦で暮らす子供たちのひとりで最年少。仔羊のぬいぐるみを抱えながらアネットの後をついて歩いている。肩車とたかいたかいが好き。


モリス

馬丁見習いの少年でブリューナクの好敵手。もとは馬泥棒の下っ端だったが、ある騒ぎを機に砦で暮らすことになった。黒鹿毛とはブラシがけをめぐる戦いを日々繰り広げている。甘い物好き。


マリー

ダウフトの側づき。裕福な商人の娘で、勝ち気なレネとは対照的におとなしいが、騒々しい連中にもまれるうちに自然とたくましくなっている。レオなんてまだ子供という点では、レネと見解を共にしている。きれいな赤髪が自慢。


トマス

デュフレーヌ家の召使い。もとはレオの母に仕えていたが、老侯の命で二親亡きあとのレオの守り役となった。大事な若君が砦に行くと言い出したばかりについてくる羽目になった苦労人だが、あるじがりっぱな騎士になる日を夢見て日々心をこめて仕えている。得意技は泣き落とし。


ウィリアム

砦の書庫に勤める若い学僧。ガスパールの手伝いをしながら日夜勉学にいそしんでいる。好奇心が旺盛で、砦のうわさ話や情報に詳しい。つねづね蒲柳の質と気弱な性格を嘆いているが、『植物大全』による三千頁の一撃は魔物をも沈める強烈技。ちなみに出身地はバスカヴィル。


ガスパール老

砦の長老。司書をつとめながら、おっちょこちょいな弟子や堅物騎士の行く末を見守る。もとは騎士だったが、ある経緯から剣を置き書を手にする道を選んだ。


イドリス老

砦の長老。砂漠の国シェバに生まれ、薔薇色の都ダマスクスで医学を修めた。女王の御殿医もつとめたとうそぶくが、本当かどうかは定かではない。


ヴィダス老

砦の長老。錬金術に長ける。彼の自室には、奇妙奇天烈な仕掛けがいくつも並べられており、うっかり踏み込んで散々な目に遭った者は数知れず。


エリサ(エリッサ)

<狼と牝鹿亭>のおかみ。琥珀の肌も悩ましき異国の美女で、シェバから来たらしいが当人は笑って語らず。よりによって泣く子も黙る副団長に熱いまなざしを注いでおり、彼女へ心寄せる男たちの心を千々にかき乱す罪なひと。最近気になるのは元気いっぱいな砦の仔犬ちゃん。


アンヌ

仕立て屋のご隠居。若くして亭主に先立たれ、遺された十人の子を女手一つで育て上げた肝っ玉母さん。今は商売を息子たちや婿たちに任せ、町娘たちと一緒になってリシャールに声援を送っている永遠の乙女。


バジルとザヴィエ

小さな屋台をはさんでにらみ合う商売がたきだったが、ある騒ぎをきっかけに終生の友情を誓いあった果物売りたち。ギルバートを「狼の旦那」と呼ぶのがバジル(妻子あり)、こわもてなのがちょっぴり悩みなザヴィエ(花嫁募集中)。日々のつとめを地道に立派に果たす、善良なる市井の代表――のはず。


アロルド(シロスのアロルド)

シロス辺境伯。騎士団長や副団長の旧友。領地が東の砦と近いこともあり、狩りの誘いや軍事的な協力を申し出てくれるありがたい御仁だが、なぜか堅物騎士に見合い話を勧めたがる。


ウラカ(シロスのウラカ)

シロス辺境伯の孫娘。愛らしい外見とは裏腹に大人顔負けの冷徹さと洞察力を持ちあわせるが、気に入った騎士に肩車をせがんだり、着せかえ人形のミレイユ嬢をいつも放さずにいるあたりは年相応の子供。


ミレイユ嬢

アーケヴいちの衣装持ちとの評判も高い、ウラカお気に入りの着せかえ人形。


ユーグ(デュフレーヌのユーグ)

デュフレーヌ侯。レオの祖父。とねりこの老侯と称され畏怖される。南部にいくさの害が少ないのは、侯や家来衆の手腕によるところが大きいと評判。奥方によると、レオは老侯の幼い頃にそっくりだとか。ヴァンサンという名前が嫌い。


エドワード(エクセターのエドワード)

故人。ギルバートの十四歳離れた兄。弟へ読書癖など多大なる影響を及ぼしたが、その死が与えた衝撃もまた深かった。「羊に蹴倒される一族」の呪いを撃ち破る希望を切に求めていたらしい。夢は弟といっしょに羊の丸刈り大会で優勝すること。


ロラン(デュフレーヌのロラン)

故人。レオの父。容姿端麗、頭脳明晰、文武両道、温厚篤実に加え名門の世継ぎと何拍子もそろった人物。エドワードと意気投合し、いくさ場で轡を並べた。十数年後、息子がエドワードの弟に修練場の砂地へ蹴倒される運命にあるなど知るよしもない。


エルヴィラ(ベランジェールのエルヴィラ)

故人。レオの母。<ベランジェールの白薔薇>と讃えられた美女で、ロランの一目惚れにより妃となった。実家のならわしで料理のたしなみがある。味は折り紙つきだが、作り方に多大なる謎を残すものが多かったそうな。


ヨランド(ベランジェールのヨランド)

ベランジェール女伯。レオの伯母。政といくさの駆け引きに生きがいを見いだす女傑で、周辺の諸侯は彼女の動向にいつも肝を冷やしている。亡夫との間に世継ぎがなかったため、ゆくゆくはレオが伯母の領地も継ぐことになる。


ルー(ヘンルーダ)

<厨房の貴婦人>と呼ばれる雌猫。びろうどのような青灰色の毛並みと琥珀の瞳がじつに美しい。彼女と、彼女の子供たちはネズミ捕りがたいへん上手である。


ブリューナク

ギルバートの愛馬。つややかな黒鹿毛がご自慢の賢くも矜持の高い若駒だが、主人よりも自分に正直というのが、彼を評した人々の感想だ。


セレス

<帰らずの森>に棲む月牙狼の仔。古く尊い血筋の姫君であらせられるが、騎士たちの手袋を噛んだり、真っ黒になって穴掘りにいそしむ姿はやんちゃな子犬。レオの花嫁候補。


シルヴィア

<帰らずの森>を統べる女王でセレスの母。圧倒的な力と叡智を、身に纏う白銀と双の黄金に深く宿し、砦や町の騒々しい隣人たちの行く末を見つめているらしい。レオの姑候補。


エフィル

さらに番外編にのみ登場する、あるいにしえの一族。なりは雄牛のごとく大きいが、じつはまだ赤ん坊。


<ヒルデブランド>

常にダウフトとともにある不思議な力。見た目はどこにでもある古ぼけた剣。

召喚武具といわれる異界からの力で、ダウフトのおもいに応じその手に現れた。ひとたび抜けば、輝きだけで魔物を滅すると言われているが――

ついでながら、<ヒルデブランド>とは男性名である。


アルトリウス(円卓のアルトリウス)

いにしえの王。「かつてあり、今いまし、のち来たりたもうもの」とも。

生誕の予言を怖れた暴君によって生まれる前に父を喪い、森へ逃れた母と木こりの夫婦によって育てられた。やがて長じた彼のもとへ集ったものたちと、アーケヴをはじめ近隣諸国の祖となった古王国を築き上げたと伝えられる。その出生も生きざまも、最期までもが伝承に包まれており、真偽をたしかめるのはもはや困難といってもよい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る