第36話  キヌギス砦 ②






俺とアカリとミーアは、各自、部屋のドアに耳を寄せて、

中に人が居ないか、確認しながら進む。

ミーアが「止まれ」のサインを出す。俺とアカリも、

ミーアが聞き耳を立てているドアに、そうっと近づく。

アカリが俺に付いた返り血を、ハンカチでぬぐう。

「OK」のサインを、アカリが ”ニコッ”として出す。


ミーアが指で人数を数える。どうやら3人ぐらいか。

目で合図を送り、ドアを開ける‥‥。中に男4人。

『ん?見ない顔だ‥‥。新入り‥。』言葉を発している最中に、

桜刀で、『クルサレー・トルネード!』風属性魔法の斬撃を飛ばす。

ねじれるように、その男の腹に風穴が開き、

”バタン”と、前に倒れ込む。床に血が拡がっていく。

『お前ら‥‥。』 ”ザシュ” アカリが、首をねる。

首は床に転がり、胴体は血が首から噴き出し、立ったままの憤死。

 『てめーら許さねー!』大剣を振りかざしてきた男に、

”ピュン” ミーアが弓を弾く。 ”ガスッ” 左目を貫通して、即死。

そのまま”バターーン”と、床に倒れ込む。

『お、お、お前ら何もんだ。頼む、み、見逃してく、くれー。』

後退あとずさりする男を、 ”シュバッ” 逆手の桜刀で切り上げ、

血が噴きだし、 ”バシャッ” また、顔に返り血を浴びる。

桜刀を突き刺し、男の息の根を止める。


なぜだか、感情がたかぶっていた。

アカリが俺の顔の、返り血をまた、ハンカチで拭いてくれる。

小声で、『ありがとう。』 ”ニコッ”。

『ダー様、笑った時のその八重歯やえばが、可愛いいですわ。』

つやのある声で言って、腕をボインに押し付ける。

(...八重歯?...そんな目立つか?..普通デス....。)


『行こう。』ミーアが先に部屋を出る。

俺とアカリも、ドアをくぐろうとして、

ミーアの太ももが ”バタバタ” して現れる。

『ううぐぅー離せ、このっデカブツ!!』ミーアが、もがいている。

部屋を急いで出る。首を左手で掴まれ、苦しそうにしてるミーア。


見上げる程の巨体は、5mぐらいある巨人。髪の色は緑碧色。

大きな目は薄い緑で、瞳は金色。耳は少し長く、悪人特有の悪い顔。

上半身は裸体でムキムキ。腕の筋肉は酒樽ぐらい太い。

鉄鋲付きの黒のレザーバンドを、たすき掛けにして、

背中に、大きなミスリルのハルバートを背負っている。

下は同じ、黒の鉄鋲付きのレザーパンツとブーツを履いてる。

壁に大きいな影を映して、怒りの表情を浮かべている。


『お前ら‥‥好き勝手してるなぁおい‥‥。

このゴルバ様、率いる「サブカラー傭兵団」に、楯突たてついたんだ。

生きては‥‥帰さんぞ!!このゴミムシ達め!!』

デカい声で威圧する。


無言で桜刀を瞬時に振りあげ、 ”ジュシュ” 。

ゴルバの右手首を切り落とす。鮮血が、飛び散り、

“ドサ”っと、首を掴まれたまま、ミーアが床に落ちる。

顔が青ざめてるミーアは『”ゲホゲホッ”。』 酸欠で苦しむ。

アカリが急いでミーアの首を掴んでる指を、引きがす。


『いてーなー‥‥おい、ゴミムシ。何してくれるんだ‥‥。』

血が吹き出した左手を、押さえながら、俺を睨む。

アカリがミーアを横に寝かせて、詠唱を始める。


『天啓与えし神代かみしろの大神よ。‥‥我は、

力無き大地を歩む者なり、その比類無き根源を、我が魂に宿り給え。』


巨大な炎が真上に広がり...赤い魔法陣が出来る。魔法陣から、

一筋の紅光べっこうが差し、アカリを包む。「覇気」が上がっていく。

アカリのひたいに炎のあざが、浮かび上がる。


神代魔法「ひとえ」を、アカリが使う。

淫靡いんびな香りと、妖艶ようえんな雰囲気をアカリがまとう。


アカリの姿に、ゴルバは目が離せなくなる。


胸に挿していた扇子を右手で抜き、”バッ”と、広げ、

”ひらひら”と扇子を、小刻みにあおぎながら、右に振り返り、

つま先を”トン”。色気を漂わせる。

まさに舞踊まいおどるアカリ。美しい体捌たいさばきから、

扇子を持つ右手で、”バシッ”と、扇子を閉じ、神力をめ、

左手で横一文字に持つ桜刀の上に、叩き落とすように、十字にクロス。

ゴルバに向かって神力を放つ。

炎属性舞術『ひとえ 十の型 爆殺濠炎ばくさつごうえん!!』

”ゴォォォォォォーーバーーーーン” 。

凄まじい爆炎がゴルバを包む。

『ぐうおぉーーーー。』雄叫おたけびのような声を叫ぶゴルバ。


神代魔法は、仮初かりそめの神力。扱う者の、個々によって反動が様々。

個人の魔力にも依存する。使用者は代償として「生命力」を削る。

アカリはこの一撃に賭けた。消耗して、肩で息をしている。

大爆炎で煙が立ち、ゴルバの姿がよく見えない。


煙が徐々に引いていく‥‥。

『いてーだろーがーー‥‥おい、女ゴミムシ。何してくれるんだ‥‥。』

”プスプス” 全身は焦げているが、目をギラつかせるゴルバが現れる。

『はぁはぁ‥‥あれで倒せないなんて..。』

焦りを見せ、顔から汗がにじんでいる。アカリがゴルバを睨む。

『アカリ..もういい。神力解除しろ...。』黙って見ていたが‥‥。

『ダー様..まだ負けたわけでは、ありませんわ。はぁはぁはぁ..。』

ゴルバを倒そうと、必死のアカリに、

『いいから、お前の治癒は、俺には出来ん。』目で合図する。

『わかりました。ダー様。』素直にアカリが、詠唱する。

『その比類無き根源よ‥‥、我が魂より還り給え‥‥。』

アカリの全身の炎のあざが、消えていき、「覇気」がしぼむ。

”ドサ”っと、汗まみれで、そこに座り込むアカリ。


『このゴミムシ共め‥‥俺に本気を出させるとはなぁ。

これは滅多に見せない姿だが‥‥ぐぅぬおーーーー。』

ゴルバが全身に力を溜める。

みるみるうちに、ゴルバの身体が、ドス黒くなり、

切ったはずの右手首が再生し、焦げた皮膚がうろこに包まれ、

膨れ上がる。赤い目に金色の瞳が、爛々らんらんとなり、

下顎したあごから2本の牙が出る。


背中に背負っていたハルバードを、両手で持ち、構える。

『悪魔付きか‥‥。こんな悪事を企てる奴だ。当たり前か‥‥。』

ゴルバを睨みつけながら、独り言のように言う。

『舐め腐りやがって、このゴミムシが!!あの世で後悔させてやるぞ。』

俺に向かってハルバードを正面に構え、

『カイド巨人流槍術 狼牙突ろうがとつ!!』

ハルバードの切先が凄いスピードで、俺に向かって突かれる。

瞬時に”ガッ”と、横に飛び、避ける。

”ドガッ”と、後ろの壁に大きな穴が開き、ボロボロと、壁が崩れる。


すかさず、桜刀を逆手でクロスして振り上げ、

『サンドラ・パイル・クロスネーション!!!!』

雷属性と、風属性魔法を合わせた、師匠直伝の斬撃を飛ばす。

”バリバリバリバリ” 竜巻と共に激しい雷を帯びた斬撃刃は、

螺旋状に‥‥。ゴルバの腹に命中し、風穴が開く。爆発したかのように、

”ボジュ” 血と肉片が飛び散る。一瞬の出来事で、痛みを感じないのか、

何が起きたか分からず、動けずただ顔を歪ませ、口から血を流すゴルバ。


『どうした?ゴルバ様とやら..ぐうの音も出ないか‥‥。』睨みつける。

『‥‥‥‥。たす‥‥。』ゴルバの言葉に、ならない言葉。

『ゴミムシ以下だな。』 吐き捨てる様に言って、

ゴルバに向かって飛び上がり、 ”ザバッ" 。

左の逆手で脇の下から肩まで切り上げ、"ジャシュ" 。

右手の順手で、同じ所を切り下げる。ゴルバは、噴血して、絶命する。


噴血した血が、天井に届き、”ぼたっぼたっ”と、滴り落ちて来る。

返り血が、顔と服にベッタリ。口元を右腕で拭う。

口に微量の血が入る‥‥。「”ドクン”」心臓が飛び起きたように、

1度だけ激しく動く。錯覚を見ているかの様に、

脳にコルドの記憶が、一瞬で刷り込まれる‥‥。不思議な感覚。

昂っていた心が、段々落ち着いてくる‥‥。

無意識に、コルドのハルバードを「アイテムボックス」に入れる。


『ダー様‥‥。』アカリが、ボーーーーと、立つ俺に抱きつく。

背中にボインが押しつけられる。


 ‥‥‥‥”ハッ”と、我に帰る。

ミーアも起き上がって、俺の方に歩いてくる。

”ドッカーーーン””ボバーーーン”

『うわーーコイツらバケモノだーー!』

凄い音と共に、下衆げすな声が響く。


『何だ?ジュリ達に何かあったかもしれない。行くぞ!』

俺達は音が聞こえる方に走る。音が、段々近づいてくる。

音が聞こえるすぐ近くは、凄い煙が立ち込め、ほとんど前が、見えない。

『はぁはぁはぁ‥‥ジュリーーアリーー無事かーー?』と、叫ぶ俺。


『呼んだ?変だー?』『呼んだかにゃ?』ジュリもアリーも、

煙の中から、1人の男性を支えながら出てきた。

『良かった無事で‥‥はぁはぁ。』  ”ホッ”。

煙が、徐々に引いていく‥‥。その光景に目を見張る。

壁は所々‥‥外まで貫通しボロボロ、天井にも大きな穴が空いている。

傭兵団らしき奴らが、何十人も血を流し倒れてる。

『これ‥‥2人でやったの?』ゆっくりやって来たミーアが聞く。

『このお2人の火力は、凄まじい‥‥。』支えられてる男の人が言う。

『ゴクトーにぃ。』アリーが、「OK』のサインを出して目で合図する。

察したアカリが、『騎士団長様ですか?』尋ねる。

『ああ、「キヌギス砦」駐屯騎士団、団長のアザックだ。』

『良かったです‥‥ご無事で‥‥。』アカリも”ホッ”としてる。

俺も安心した。

血だらけの俺を見てジュリが『変だー、また怪我したの?』

泣きべそをかいて、俺の顔を見る。『無傷だ。』答えると、

『もーーー心配して損したーーー!!』わめらす。

アカリ、アリー、ミーアが、”クスッ”と、笑う。

『助けてもらって何なんだが‥‥。

君達は、何者なんだい?冒険者にしては、凄まじい強さなんだが‥‥。』

アザックが聞いてくる。

『通りすがりにょ‥‥物好きにゃ。』 ”ハッ”となる。

パーティーメンバーが、全員大爆笑。”ゲラゲラ”笑う。

 (...またやっちまったよ...アリー語..自爆デス....。)

顔に血が昇る。

『アザックさん、この後は、どうなさるんですか?』

影のリーダー・デス姉さんの出番です。

『ここに居たサブカラー傭兵団を殲滅せんめつするのに、

一度シモンヌきょうに報告して、地方騎士団を呼んで‥‥。』

アザックが、話してる途中で、

『多分‥‥サブカラー傭兵団は、もういない。』ミーアが”ポツリ”。

『え?それは?もしかして‥‥君達が?』アザックが俺達を見廻す。

「「「「「 OK 」」」」」サイン。親指を立てる。皆、笑顔だ。

『そろそろ帰らないと、姉様に大目玉を‥。』ミーアがまた”ポツリ”。

 『騎士団長....ビヨンドの村なら、わたしの魔法で帰れるよ!』

ジュリが物怖ものおじせずに、”ペラ”っと言う。

『もしかして、あの高度で凄い魔力を使う、転移の魔法を使えると?』  

 アザックが驚く。

『便利なんだけど‥‥1度行った所にしか、行けないのよねー。』

笑って応えるジュリ。

『あーそうだ、この魔法を使うには、広い場所じゃないとダメだから、

外にある空き地?あそこで魔法をかけるわ。』

ジュリが俺に”パチ”っと、珍しくウィンク。

「OK」親指を立てる。


『帰るにゃー!!』アリーが先導で、全員空き地に移動した。

もう夜が明け始めていた。小さな小鳥のさえずりも聴こえる。


『アストラル・ゲート!!』ジュリが唱える。

俺達は、白い門の中に入って行った‥‥。

 


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