第35話  キヌギス砦 ①



『グルッグギェー!』鳴きながら、急降下するシグマに、

3人の身体が、 ”ふわっ”と、浮き上がる。 ”ひゅっ” てなって縮む。


『おぅぅぅーーヤバイーー!!』

ミーアの大峡谷を、”むにゅ”っと、ちからいっぱい掴む。

もだえるミーアは声を出さず、真剣に馬銜はみを操作する。

後ろのアリーも必死に、俺にしがみ付く。

がけを避けながら、太い川沿いを、低空で飛行する。

おびえてなのか、川から”バシャバシャ”っと、黒い影が飛び跳ねる。

目の前に、トンネルのような崖。そこを少し斜めになりながら、

すり抜けていく。スリリングな飛行に”むにゅ”。また力が入る。


『アーーン。』今度は耐えきれずミーアがらす。

その声に。反応して「テント」を張る。


『谷を抜けるわ‥‥、抜けたら、またすぐに、

上昇するわ。リーダー、アリー、しっかり掴まって!!

シグマ!もう少しで抜けるわ、このままでお願い!!』ミーアが叫ぶ。

『グルッグギェー!』鳴いたシグマが、

最後の崖に、斜めになりながら、ギリギリですり抜ける。

”パァー” 目の前に森林が広がる。


『”ふぅ”抜けたわ、シグマ高度をあげて!』シグマの頭を撫でる。

『グルッグギェー!』鳴きながら、上を向くシグマ。

また、 ”むにゅ”に力が入る。『アーーン。』もだえるミーア。

その声に反応して、また「テント」を張る。

”バサッバサッ”と、翼を羽ばたき、急上昇していく。

また、”ふわっ”と浮き上がる。 ”ひゅっ”て、なって縮む。

「テント」をたたむ。繰り返す。

アリーはしっかり俺に掴まって、『楽しいにゃ!!』の余裕。


(......ヒヤヒヤ...カッカ...チーン...。)


森の上空にまで、飛び上がり滑空するシグマ。付いてくるベルマ。

『リーダー、あれが「キヌギス砦」よ‥‥。』左手は俺の手に重ね、

先にある、明るくなってる点を右手の人差し指で、指すミーア。


アリーが先に覗く。『あれにゃ‥‥。』俺も同じく覗く。『あれにゃ‥‥。』

ハモリはしなかったが‥‥。また、アリー語に釣られる。

『『え==!!”ハハハ””ははは”。。』』後ろのアリーにも、爆笑される。

(...2人で...ハモって...笑わんでも....?ん?....これって..デジャブ?...。)


真顔になり、『ミーア、砦の上空まで行ってくれ、1度上から見たい。』

『リーダー了解。シグマに、ゆっくり旋回してもらうわ。』

ミーアは、そう言うと俺の手を離さないまま、右手で、馬銜はみを握る。

明るい所の上空に到達して、シグマにゆっくり旋回してもらう。

ベルマも、同じく、ゆっくり旋回する。「キヌギス砦」の真上。


『どうリーダー、見た感じ?』ミーアが”ニコッ”と、して言う。

『周りは、壁で固く囲まれてる‥‥下から攻めるのは、愚策かなぁ。』

ちゃんと言えた。”えっへん”顔。

聞いてたアリーが『ゴクトーにぃー‥何で、ここ攻めるにゃ?』

『ああ。ちょっと訳ありで‥‥下見に来たんだ。』真剣に応える。

『あそこ見てにゃ‥‥あそこにぃ降りれるにゃ。降りてみるにゃ?』

アリーが指した先に、雑草が生えた大きな空き地がある。目がいい。

『いや、皆を巻き込む訳には‥‥。』躊躇ちゅうちょする。

『いいわ、降りるのね。了解。』ミーアはあっさり引き受ける。

『おい、おいミーア、ち、ちょっと待って‥‥、』言いかけて、

『シグマ、あそこに降りて、ベルマ降りるわ。』ミーアが、後ろに叫ぶ。

『グルッグギェー!』鳴いて、シグマもベルマも、下降していく。


”サァーーー”と、”ザシュ”っと、地面に降り立ち、

”バサーバサバサバサ”と、翼をしまう、シグマとベルマ。

『リーダーの指示に従うわ。』ミーアが、”サッ”と、降りる。

俺とアリーも、なんとか降りる。アカリとジュリも、俺達を見て、

ベルマから降りている。こっちに来る姉妹が俺に小声で、

『ダー様、ここで何を?』アカリが言うと、

『変だー、ワイバーンの姿を見るんじゃなかったのー?』ジュリが言う。

2人とも、なぜここに居るのか、全く見当が付かないって、顔をしてる。

ここまで来たからには、仕方ない‥‥と、諦めて小声で、

皆に、先程、女将さんから聞いた話をする。全員真剣に聞いてくれる。


『わかりました‥‥ダー様。とりあえず、潜入してみましょう。

女将さんの旦那さんの、騎士団長さんが、生きてたら、

助け出しましょう。その不届な、何某なにがし傭兵団も、潰しましょう。』

影のリーダー・デス姉の一言。俺以外、皆、黙って頷く。

『これは..冒険者のすることじゃないんだ。皆、わかってるのか?』

巻き込みたくない気持ちを、皆にぶつけるが‥‥。

『私達の国ヤマトでは、無法者は、「切り捨て御免」という法が、

ありますわ。国の砦を占領する者など‥‥。許しませんわ。』

アカリとジュリが顔を見合わせ、”グッ”とこぶしを握る。

(...2人で...張り切ってる?....正義感強いのね..大和撫子ヤマトナデシコだなぁ..。)

『僕も悪い人達はきらいにゃ!!成敗にゃ!!』アリーは怒ってる。

(...おいおい...アリー?....成敗って...正義感強いのね...。)

『シーーーーーー。』ミーアが指を口にあて、小声で、

『潜入する前に、シグマとベルマに、結界魔法をかけておくわ。』

ミーアがず、シグマに、『ンラシカイ:°キオオ・ノチウ!!』

ベルマの方へ行き、『ンラシカイ:°キオオ・ノチウ!!』と、

魔法をかける。2頭共、視界から消えてゆく。


『これで大丈夫。でも、ちょっと待って‥‥準備を。』聞いて皆、頷く。

ミーアが「アイテムボックス」から、矢を出して、矢筒に補充する。

アカリは「万能巾着」から、桜刀を出して、手に持ち、

扇子を、丸く開いてる胸の峡谷に差す。妙に色っぽい。

ジュリは「万能巾着」から、長い金の杖を出し、手に持つ。

アリーはポケットの短い魔導銃に照準器を付ける。


皆の準備を見て‥‥。諦めて、潜入覚悟を決めた。小声で、

『皆、準備はいいか?潜入する時の「合図(サイン)」を決めよう。

まず、「見てくる・見て来い」の「合図(サイン)」は、

人差し指と、中指で、自分の目の前を、指さしてから、

「見て来い」は、前に振り出す。「見てくる」は、その逆。

わかりやすく言うなら、「ピース」の指でやるんだ。

「進め」は、右手を耳の後ろから、てのひらを、前に差し出す。

「止まれ・待て」は、手を上げて、こぶしを握る。

「了解・OK」は、親指だけ立てる。』皆に「合図(サイン)」を伝える。


俺が確認する。『行こう。』『『『『 OK。 』』』』皆、無言で親指を立てる。

「進め」のサインを出して、砦の入り口に、身をかがめながら、

先頭で、進んでいく。皆もそれに従って動く。

砦入り口前に、2人、人相の悪いのが、見張りで立っている。

「止まれ」のサインを出して、小声でミーアにお願いする。

『ミーア、魔力を込めて、あの2人をまず、撃ち抜いてくれ。』


ミーアは「了解」のサインを出して、2矢を弓にかける。

引き絞って、小声で『イサナ・°ニシ!。』矢を放つ。

放たれた矢は二手に分かれ、見張りの胸に突き刺さる。

入口の2人は『ごっ。』『ぐぅ。』倒れる。

『凄いなミーア。』小声で言うと、「OK」のサインを出すミーア。

「進め」のサインを出して、入り口まで進む。

そこで「止まれ」のサインを出す。皆、入り口前に待機する。

ピースをして「見てこい」のサインを出す。俺の横に居た、

ミーアが俺に「OK」サインを出して、入っていく。


”ピュン”と、音がする。『なん。』 ”バタッ”『生意気なエ。』”バタッ”と

濁声だみが聞こえたが‥‥。ミーアが戻ってきて、

俺達に、「OK」と「進め」のサインをする。俺達は、中に入って行く。

中に入ると、これもまた、人相が悪いのが、2人。

矢に刺されて倒れていた。俺達はそうっと、進んでいく。

天井が高く、土魔法で、形成されたような壁と床。

砦らしく、調度品のような物は無い。入り口付近だけ、

明灯みょうとうの魔道具」が置いてある。

それが”ゆらゆらっ”と揺れて、

俺達の影を、大きくしたり、小さくしたりしてる。

進んで行くと、別れ道がある。左の道は、暗く、

右の道は、松明たいまつが、いていて、明るい。

(....二手に分かれるか?....戦力分断になるけど...。)


どうしようか、悩んでると、

アカリが俺の腕を掴んで、ボインに押し付け、小声で、

『ベルマに乗って、はなばなれでしたから、ここは、一緒に‥‥。』

「OK」のサインを出し、人差し指で、松明の点いた方を選んだ。

アリーが「OK」「見てくる」のサインを出して、左の道を進む。

ジュリが俺の肩を”トントン”と、軽く叩き、

「見てくる」のサインを、出して、アリーに付いていく。

(...結局二手に分かれるのか....まぁあの2人なら大丈夫だよな...。)


俺と、アカリ、ミーアで慎重に右に進む。明るい松明が左右に、

その松明と一緒にドアが並んでいる。砦らしく、駐屯する部屋だろう。

進みながら、ドアに耳を当て、聞き耳を立てる。中から声が、聞こえる。

「止まれ」のサインをして、中の様子を伺う。

『この砦の金貨は、たいして無かったな‥‥。』

『まぁ武器や防具が、手に入っただけ、マシだな。』

『ここを攻めようって決めたのは、ゴルバ様だぞ‥‥。』

『これなら、私ら、サブカラー傭兵団が出張でばるまでじゃ‥‥。』

会話が、聞こえてくる。無性むしょうに腹が立ち、

まず、こいつらを始末すると決める。

2人に目で合図して、ドアを開ける。男3人、女1人がいた。

『何だーてめーらは、ここに、どうやって入った来た?』

 ”ピュン”と、ミーアが弓を弾く。その男の胸に、矢が刺さる。

『ぬぐぅ。』後ろ向きに”バタン”と倒れる。

”バシュバシュ”っと、桜刀でアカリが、向かってくる、

男女を切り裂いていく。

『がはぁ。』『ぎゃ。』と、おびただしい鮮血が噴き出し、

”バタバタ”と、倒れる。

『おいお前ら何もん‥‥。』と、言いかけてる所を、

桜刀で、真上から下まで、切り込み、”ガシュ”っと、

その男の身体は、真二つになる。

俺の顔に、”バシャ”  返り血が、飛び散る。

気にせず、『行こうか。』と、部屋を出る。


左に進んだ、ジュリとアリーは薄暗い中、進んでいた。

進んで行くと更に、暗くなっていく。何だか少し肌寒い。

ジュリが『パル・ルームス!』唱える。光の玉が現れ、

2人の頭上が”パァッ”と明るくなる。

2人はゆっくりと、進んで行く。倉庫のような所に、酒樽や、

食料の入った布袋、木箱が積んである。人影に怯えてか、

”ジュチュー”と、ネズミか、何かが、

彷徨うろついている。通路は徐々に狭まれていき、

しばらく歩いていると、突き当たる。大きな牢屋ろうや

檻の中に、人を見つける。ロープのようなもので、縛られ、

猿轡さるぐつわを、噛まされ、横たわってる。

金髪で身長は2mぐらい。顔は渋め。中年男性。

『大丈夫ですか?』ジュリが、男性に檻の外から話しかける。

『‥‥‥‥‥‥。』

意識がないようだ。アリーが目で合図して、無言で頷き、

『コル・ガガント!』ジュリが唱える。

”ガチャ”と、音がして、”ギーー”と、檻の扉が開く。

急いで2人は檻の中に入り、

ジュリが『エクストラ・ヒール!!』唱える。

男性の身体が、薄い緑の光で包まれる。

アリーは「アイテムボックス』から、水の入った瓶を出して、

猿轡を外して、水を飲ませる。『うぅぅ。』と、男性の意識が戻る。

目覚めた男性は、2人に、

『あなた達は、誰だ?一体どこから、来たんだ?』尋ねる。

 驚いてる男性を、他所よそに、

『貴方が、騎士団長さんですか?』聞くジュリ。

『ああ‥‥。団員達は、うまくのがれてくれた‥‥みたいだ‥‥。

俺だけ、此処ここに、捕まった。』

『貴方を助けに来ました。うちのリーダーの意思で‥‥。

とりあえず、此処から出ましょう。歩けますか?』ジュリが聞く。

『ああ、何とか‥‥大丈夫だ、迷惑をかけるが‥‥。』顔をにごらす。

アリーが『んにゃ!』と、ロープを口で、引きちぎりほどく。

ジュリに支えられて、立ち上がり、ゆっくり歩き、檻から出る。

アリーが先導して、来た道をゆっくり戻る。



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