第34話  アーン





2頭が『グルッグギェー!』と、小さく鳴いて大空を舞う。

ミーアが、馬銜はみつかむ手を、しぼりながら、

『このまま、もっと高度をあげるよ、シグマ!』

『グルッグギェー!』と、小さく鳴いて、返事をすると、

”バサッバサッバサッ”と、翼を羽ばたかせて、

急に高度を上げようと、シグマが上を向く。

「ロカベルの魔法薬材と薬店」が、どんどん、小さくなっていく。

その急速上昇で、アリーの両足が”フワッ”と、鞍から離れて、

”ぶらーーん”。あせったアリーは、『落ちるにゃ‥‥!』と、

俺に必死に、しがみ付く。アリーに、体重をかけられ俺が、

落ちまいと必死に、ミーアの大峡谷を”むにゅ”っと掴む。

『”アーン”。』ミーアが、なまめかしい声を上げる。

左手を、俺の手に重ねながら、振り向き、後ろを見て、


『”アーン”。こ、これぐらい、まれ慣れてるから、

大丈夫よリーダー。気にしないで。もっと強く、しっかり掴まってね。

”アーン”。でないと‥‥ウチも‥‥。』

真っ赤になった顔のミーアが、重ねた手にちからを込めて言う。

(...ミーアさん?..アーン...じゃないでしょ...重ねた手が...。)

俺も真っ赤になり、かなり上空に「テント」を張る。

肌寒くなっているのに。

『そ、そ、そうか‥‥。アリー!大丈夫かっ?』

ミーアの大峡谷に、必死に”むにゅ”しながら、大声を出して、誤魔化ごまかす。

何にゃっ?もう平気にゃ!!』アリーは、余裕で俺に掴まる。

だいぶ高い所まで上がって、シグマの体が平行になる。

気温が一気に下がる。かなりの風。『さむ。』”ぶる”っと、震えながら、

『ミーア!その格好で‥‥寒くないのか!?』と、

しがみついてた手を、少し緩めて聞いてみる。


馬銜を掴む手と、重ねた手を、緩めながら、振り返り、

『大丈夫よ、リーダー、ウチらエルフは、体感温度が人族と違うの。

多分、他の亜人の種族も‥‥、アリーも平気だと思うわ。

それより、さっきから‥‥かなりの上空なのに、

”アーン”‥‥当たってるのよ‥‥ウチのお尻に。 ”アーン”。』

(..ミーアさんや..その”アーン”は...「デス』の...呪文デス...。)

恥ずかしそうに、真っ赤になるミーア。綺麗な顔がゆるんでいる。

顔に血が昇り、体温が急に上昇する俺。

『ゴクトーにぃ、下を見てみるにゃ!!ビヨンドにょ村が、

 あんにゃに‥‥小さくなってるにゃ!!』下を覗くアリー。


俺も下を見てみる。『こ、怖いな、かなりの高さだ。』ビビる。

身体が、 ”ひゅっ” て、なって縮む。体温が一気に下がる。

「テント」をたたむ俺。

(..ありがとう...いつも..冷ましてくれるな...アリー...。)

『前のあの高い山を見て、あれがハゴネの山よ‥‥。』

ミーアが手放しで、右手の指を差して教えてくれる。

左手は、”むにゅ”のままで、離さない。   俺とアリーは、黙って頷く。

『ベルマも、ちゃんと付いて来てるわ。姉妹達の顔色は、

相当悪いけど‥‥。なんとか落ちずに、掴まってるみたい‥‥。

みんなの体温が、心配ね‥‥。ベルマーー!!』と、叫ぶミーア。


『グルッグギェーギェー!』と、鳴いて、こちらに羽ばたいて来る。

横に”ピッタリ”並んで飛ぶベルマ。

『結界の魔法をかけるわ‥‥。姿も見えなくなるし、

気温と風も感じなくなる。落ちる心配もないわ。

ハゴネの山間で、もし、ワイバーンと遭遇したら‥‥。

今は、厄介やっかいな戦闘を、したくないからね‥‥。

まずは、ベルマの方から、かけるわね。』朱い顔のミーア。

右手の人差し指と中指、2本の指を、額に当てて、

『ンラシカイ:°キオオ・ノチウ!!』呪文を唱える。

ベルマ、乗っているアカリ、ジュリが”ボワーン”と、

透明で大きな幕のような丸い物に覆われる。

シグマの方にも、『ンラシカイ:°キオオ・ノチウ!!』シグマ、

ミーアと俺、アリーが、”ボワーン”と、透明な物に覆われる。

『結界魔法をかけたから、もう大丈夫よ。ハゴネに山中に入るわ。』

ミーアが、『”ふぅ”。』と、振り返って、安心したのか、朱い顔を見せる。

『凄いな、ミーア。ロカベルの店で、使った魔法と、

さっきも、そうだったが、ミーアの使う魔法って、古代魔法なにょ?』

急いで言ってしまったせいで、アリー語になってしまう俺。

『『え==!!”ハハハ””ははは”。。』』と、後ろのアリーにも、笑われる。

(...ミーア..アリー...2人で...ハモって...笑わんでも...。)

顔に血が昇る俺に、左手は、”むにゅ”のままで、ミーアが話す。


『エルフの古代魔法で「ロカベル」よ。ウチの一族の固有スキルで、

2人の姉の、ミリネアとミンシア、父様、母様、親戚一同しか、

この古代魔法は、使えないのよ。エルフの中でも、八支族だけが、

各自の古代魔法を使うの‥‥。数百年前に起こった、大戦時に、

「始祖」に教えられた‥‥魔法らしいわ。詳しいことは、

族長の父様に聞かないと、わからないわ‥ははは。』笑いながら言う。

『 へーー ‥凄いんだな。ロカベルの魔法‥‥。』俺は、感嘆する。

『?「始祖」って、僕も聞いたことが、あるにゃけど‥‥。』

アリーが俺の横から顔を出して、頬に右手の人差し指、

顎に親指を”置いて”、思い出そうと考えてる‥‥。

(....アリー...その仕草...可愛いぞ...。)

俺は、ポカーン。無意識に”むにゅ”。

『”ふふふ” アリー、「始祖の一族」よ‥‥トランザニヤの‥‥。』

ミーアがもだえながら、片手を馬銜から外して、”いい子”してる。

『そうにゃ!!お爺が、言ってたにゃ!!』アリーは、晴々の顔。

(....アリー...ミーア...何ですか...その「始祖」って?...

...トランザニヤは..師匠から...聞いたこと...あるけどな...。)

俺は、考えても仕方ないので、諦めてポカーーン。

また無意識に”むにゅ”。

『”アーン”。リーダー何回も‥‥アリー、その話は、また今度ね。』

前を向き馬銜を両手で持ち直す、ミーア。

『さぁ、2人とも掴まって、ハゴネの山間やまあいに入るわ‥‥。』


ベルマに乗っているアカリとジュリ。

かなりの高度にアカリは、若干腰が引けてる。

馬銜を握る手に、汗をかきながら、後ろで掴まる、ジュリを気遣い‥‥。

『ジュリ!前を見てみなさい。ハゴネの山間やまあいに入るわよー。』

この高さにも、全く動じないジュリは、姉に聞く。

『ネー!この結界って、かなり高度の魔法よねーー?

神代の魔法にも、こういうのあるのーー?あったら教えてーー。』

『ジュリ、どうしてそんなに、せっかちなの?今は、無理でしょ。

神代にもあるわよ、多分、似たような魔法‥‥ダー様も、

「奥伝」まで、使えるなら知ってるはずよ‥‥。』真剣顔のアカリ。

『そうか‥‥ネーは、使えるの?』ジュリが聞くと、

馬銜を持つ手が、やたらと、りきんでしまうアカリが、片手を離しながら、

『私は、ひとえしか、使えないから、扇術の型の進化と、

強化くらいね。あなた程の魔力がないから。ジュリ、あなたなら、

多分、結界魔法を、使えると思うわ。』しびれた手を振りながら言う。

『なら早く、教えてよー。神代魔法を教えないなら、こうするから‥‥。』

ジュリが、アカリの脇をくすぐる。(...ネー..の苦手な...所を...。)

『ち、ちょっと、やめてったら、”アーン”、ジュリー!』もだえるアカリ。      (...ダー様ならして...欲しいんだけど...。)

『”アーン”。わかったから、もうやめて。』真っ赤な顔のアカリ。

振り返って、笑ってるジュリの顔を見る。

小さい頃に、戻ったようなやり取りに、2人で”ゲラゲラ”と笑う。

『ちゃんと、掴まってね。ジュリ、山間よ。』

言いながら、緊張で、馬銜をちからを入れ、握りしめて持つアカリ。


かなり上空とはいえ、ハゴネの山々は、標高が高い。

越えるには、更に上昇しないと無理だ。

ベルマも、シグマも、「人」を、何人も乗せては、厳しそうだ。

2頭共に、ハゴネの山間に入って行く‥‥。

そびえる山々の間を、すり抜けて行く。

右や左に翼を傾けながら飛行する。

俺は、”ハラハラ”しながら、落ちないように、しがみ付く。

シグマが『グルッグググ‥‥。』こっちに振り向いて鳴く。

何かを警戒してるみたいだ。

『シグマ、大丈夫。向こうからウチらは、見えないから‥‥。』

シグマの頭を軽く撫でるミーア。

『見てにゃ!!あそこ!崖の上に巣があるにゃ!!』

アリーが、興奮して叫ぶ。目がいい。

巣の上に、白地に水色と緑の迷彩模様の、大きな卵が4つある。

『ワイバーンの卵だ‥‥。見た事、あるんだ俺。』

『そうよ。あれが卵、ウチも何回か、見たことあるわ。』

俺とミーアの会話を聞きながら、

アリーは、食べる物に、最大の関心があるみたいで、

美味うまそうにゃ!!』と、目を爛々らんらんに輝かせる。

『親のワイバーンは、今、ちょうど居ないみたいだから、

ここを、早く抜けよう。ワイバーンの巣が、わかっただけで、O K。

目印になる、あそこ見て。』ミーアが指さす。

俺とアリーが、そこを見る。崖の下から、幾つもの、

間欠泉かんけつせんが、噴き出ている。

凄い湯気が、立ち昇っている。

よーく見ると、点々と数軒の民家が見える。

(...こんな山奥に?...。)不思議に思った俺は、聞いてみる。

『ミーア、こんなところに人が住んでるのか?』

『人では、無いけど住んでるわ‥‥。ホビットが‥‥。』

『ホビットって‥小人族の?』聞いたことあるが、見たことが無い俺。

『そうよ‥‥薬草を取りに行く時に、よくそこに顔を出して、

物々交換しているわ。特に食料ね。彼らは、温かい所を好む。

それに、大の風呂好きよ。ここは、温泉が湧き出てるから‥‥。』

(...温泉?...最高ではないですか...絶対...入りたい...。)

大の温泉好きの俺は、”ニタ”る。


『ミーア‥‥ここで少し降りてくれないか?』俺は、聞いてみる。

『リーダーが降りたいなら‥‥。シグマ降りるわよ。』

シグマを撫でるミーア。

『グルッグギェー!』鳴きながら、

下降していくシグマ。ベルマもついてくる。

『リーダーここでいい?』崖の中腹にある少しくぼんだ場所。

『ああ。』ミーアの指定した場所に”サーー”と、

降りていくシグマとベルマ。

”ガツッ” 岩肌に爪を噛ませ、”バサバサバサ”着地する。ベルマも着地。

不思議そうに見てるアカリとジュリ。『ちょっと待っててくれー。」

俺は、皆に言って、1人でなんとかシグマから降りる。

地面から”ポコポコ”温泉が湧き出てる。

黄色い粉が岩の周りに沢山付いてる。

指で少し取っていでみる。

 ”ニタ”り‥‥。「硫黄いおう」だ。

『ありがとう‥‥。皆すまない。行こう。』

俺は、シグマになんとか乗る。

『リーダー‥‥。行くわ掴まって。アリーもいい?』

『大丈夫にゃ!!』アリーは、俺にしっかり掴まる。

ミーアは、シグマの頭を撫でて、『シグマ行こう!』馬銜を握る。

『グルッグギェー!』小さく鳴いて、

”バサッバサッバサッ”と、翼を羽ばたかせて、ゆっくり上昇していく。

ベルマも付いてくる。

俺は、またしがみ付く。ミーアの大峡谷を”むにゅ”っと掴む。

『”アーン”。』ミーアが、なまめかしい声を上げる。

ゆっくり上昇して、また山間を滑空する。

『ホビットの連中、ワイバーンは、平気なのか?』また聞く。

『大丈夫だと思いたいけど‥‥。

族長だけは、強力な魔力の魔法の指輪をめてるから、

それで、部族の姿を見えなくする魔法を、かけてるらしいわ。

これも、族長に聞かないと、わからないわ‥ははは。』

ミーアが、またも笑って言う。

『山間を抜けるわ。今度は、一気に下降するから、しっかり掴まって。』

ミーアが馬銜を握り直して言う。『了解にゃ!』アリーが俺に掴まり、

『ラジャー!』なぜか、カッコ付けて言ってしまう俺。手に力が入る。



”むにゅ”『”アーーーン”。』と、叫ぶミーアだった。





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