第14話  準備

女将さんに、『もう1泊‥‥。』と銀貨を渡した。

せっかくの眠気が、冷めてしまった。

朝食には、まだ時間がある‥村の散策でもしようか‥‥。

”ぶるっ”『寒いな‥』。まだ朝は肌寒い季節。ローブを着て、出かける。


ビヨンドの村は、初めてだった。見るもの全てが新鮮。

牧場で見る馬や牛や鶏。小さな教会も見つけた。

コリン教会ではないが‥‥。懐かしい思い出が蘇る。


(...みんなどうしてるかなぁ....元気にしてるかなぁ...。)

          

考えながら歩く。


だいぶ先の道端に、人らしき紅い点が見える。

点に近付いて行くと...酒場の立て看板に、寄りかかって座ってる。


『スーピー‥‥。スーピー‥‥。』

飲み過ぎで、酔っ払って、寝てるみたいだ。


かなり大きな紅い三角帽のつばで、顔や身体は、よく見えない。

シャツも紅い。紅いショートブーツで、片膝を立てている。

もう片方の足は伸びている。右手を掛けてるせいか、結構開いてる。

紅の丈短のスカートから......。黒の網タイツをまとった、


「生地の薄い黒いレース?」セクシーが、顔を出してる。


左手はスカートの上で、短い紅い杖を握りしめてる。

魔道士だろう.....。全身ほぼ紅い色の女性。

    

(...あーあ... ...やらかしちゃってるなー......もうこの辺り...  

...人通りが増えてくるよ......見えてるよ....大人のセクシーは...。)


俺は何回も目がく。


(...”いかんいかん”... ...気を取り直して...。)


自分のローブを、セクシーが隠れるように、そうっとかけた。

『”ぶるっ” うー寒いな。』 (...早く宿に帰ろうヤバイ.....風邪引く...。)

起こさないように‥静かに‥その場から離れ、宿へ戻る。


宿に帰ってきて、食堂に向かう。(..腹減ったなぁ...。)


女将さんと、何人かの女中さんが、忙しそうにしてる。

多分、ダンジョン攻略するパーティーの、冒険者だろうが、

何組か、もうテーブルを埋めている。


(...この宿にも‥たくさんいるな...。)空いているテーブルに座る。


『やっと20階層までは、たどり着いたな‥‥宝箱も出たしな。』

 

『そうだな‥‥15階層から20階層まで行くのに、

10日かかったな‥‥。

       各階層ボスには、かなり手こずったけどな‥‥。』

      

『状態異常の魔法を使う魔物も多いからねぇ‥‥。』

  

『麻痺・毒・眠り。状態異常で動けなくって、死ぬかと思ったぜ‥‥。』


『彼女のおかげだな。今日も待ち合わせしてるから、

                   彼女も来るだろう‥‥。』

    

『今日から25階層を目指すぞ!‥飯を食ったら各自準備‥‥。

 待ち合わせの時間にギルドだぞ。遅れるなよ!』『おおぅ.....。』


冒険者達の話に、聞き耳を、立てながら朝食を食べた。


部屋に戻ってきて色々考えた。


(...ダンジョンには潜ったことはない....攻略の途中で..

...何回かは出れるんだ....知らなかった....冒険者パーティーは5人...

...さらに待ち合わせしてるって言ってたな...

...あの姉妹とパーティーを...組むにしても3人だよ...。)


かなり不安になる。


「アイテムボックス」の中の、持っているアイテムを、確認した。

毒消し・麻痺回復ポーションは、1本しかない。

眠り??経験したことのない状態異常。



(...ダンジョンは攻略するのには時間がかかると...

...師匠は言ってたな....後で魔道具屋と薬屋に行こう...。)


(...食料も用意しないと..。.)


思いながら、ダンジョンではなく‥‥ベッドに潜った。



深く眠っていたようだ‥‥。

気がついた頃には、昼をとっくに過ぎていた。

昨日の徹夜のせいで、かなり身体が、だるかった。

『よし‥‥魔道具屋と薬屋‥‥ああ‥‥それと食料も。』

口に出して気合を入れ‥‥。起きて身支度を整え、部屋を出る。


また”バッタリ”女将さんと、顔を合わせる。

(...監視結界の魔法でも...かけてるのか?...。)


『あのお嬢さん達は、とっくに出かけたわよ”ふん”』鼻息荒く奥の方へ。

『そうですか‥‥。』 (...多分....女将さんの前世は....猪だ...。)


宿を出て「お節介情報」を聞いたので、まずギルドへ向かった。

          

ギルドに入って、辺りを見廻す。    居ない‥‥。


昨日の受付嬢に「!!!」って、顔された。

尋ねてみたが.....見てないと言われる。(...仕方ないな...。)


あれこれと聞き出し、買い物ができる店を、メモしてもらった。


ギルドを出て、魔道具屋・薬屋・肉屋を探す。

教えてもらったメモを見ながら歩く。

(...俺....方向音痴だから..迷うんだよな...。)


魔道具屋を見つけた。(..ふう..。)入ってみる。店内で目当てを物色。

 

黒のテンガロンハットが目に止まる。かなり気に入った。何度も被る。

(...これは買いだな...。)  1人で満足する。他の目当てを探す。


見つからないので髭面店主に、

『魔法耐性があるローブは?‥‥ないかなぁ?』

半ば諦めモードで聞いてみる。

店主はカウンターの下を、覗き込んでゴソゴソしてる。

カウンターの上に、使い込まれたローブを出す。


『お客さんはラッキーだな‥‥もちろん冒険者だろ?

これこれ‥‥これはかなりの上物だよ‥‥。金貨3枚だ。』

上機嫌な髭面店主の顔。


(...ん?.....見覚えがあるローブ...。)


『ついさっきセクシーな‥‥魔道士さんかな?

 「買取してくれ」って持ってきたんだ‥‥。

 昨日までダンジョンに、潜ってたと言ってたな。』満面の笑みだ。


 (...納得......今朝...セクシーを隠すのに...かけたローブ...。)


『そ‥‥それを貰おう‥‥。』金貨を渡す。

『これも貰う。』(..絶対買う...高くても買う...。)

お気に入りのテンガロンハットの値段を聞く。


 頭を横に傾げながら...店主は、何をそんなに?の顔で、

 『銀貨1枚だ。』


銀貨を渡して.....ローブと、お気にのテンガロンを、受け取る。

(...なんだかスッキリしないが...あげたんだから...

...テンガロンハット...やたらに安かったな...。)魔道具の店を出る。


またメモを広げる。(...次は薬屋だな...。)

薬屋に向かう。   途中で偶然、肉屋を見つけた。

(...ラッキーだな....さっきの魔道具屋の親父も...。)肉屋の店に入る。


『乾燥腸詰と干し肉‥それと鶏モモの燻製‥‥を頼む。』

 (...とりあえず......買えるだけ買って...。)

   

『あんた‥‥随分買い込むねー。旅かい?それともダンジョンかい?』

 優しそうな‥‥おばちゃんが尋ねてくる。


 『ダンジョンだ。』


『そうかい‥買っていく冒険者達から、よく聞くよ‥。

こちらから聞いたことないのにねぇ‥皆、自慢げに話すからね。

ダンジョンには、各階層に、魔物が現れないセーフティーゾーンが、

あるって‥。階層ボスを倒さないと、出てこれないから‥

そこで野営するって、言ってたわ。

うちの乾燥腸詰は、パンに挟んで食べるのが、最高だって。

お世辞にも、言われたわ。』


『良い事を聴いたよ‥パン屋は‥‥この近くに?』

(..おおーーー.....いいこと聞いた。)


『この通り沿いにあるわよ。村で1番のパン屋よ‥ハイ‥

‥これ‥全部で金貨1枚にしてあげる。おまけね。毎度〜〜。』

  

金貨を渡して”肉達”を「アイテムボックス」に入れる。

『ありがとう。』肉屋を出る。

(...優しいおばちゃんだな...。)

           

『ヨシ!』パン屋を目指す。(...あんな話...聴いたら...挟みたくなる...。)


パン屋の前に着いたが.....。「close」がドアノブに。

仕方なくメモを広げてると.....。中から怒鳴り声が聞こえる。


『なんでパン作りの修行に行っだお前が!!!』

          

『俺はパン屋になんがなるもんかさ!!』

        

『バカもん!!!お前が継がんでどうするさ!!』

            

『サーシャがいるだろさ!!!』

         

『サーシャも手伝いはしてくれてる‥‥が

      サーシャはいずれ嫁に行ぐんだ。この店ばどうなる‥‥。』

            

『潰れれば‥‥いいんさ‥‥。』

  

『ぐぬぬ‥もう呆れだわ。何年振りがに帰っで来たと思ったら、

    冒険者なんぞに。ふんざけるな!!

             この親不孝もん!!出でいけー!!!』

        

『わがったよ!!もう帰ってくるもんかさ!!』


      

”バーン”と扉が開き勢いで「close」が地面に落ちた。        

出てきた男がみせもんじゃないって顔で、

にらみつけて走って行ってしまった。


(...見てないよ?....あーあ...パンは買えないな..

...あーあ挟みたかったな....年下に見えたけど...迫力があったな...。)


メモを握りしめてしまっていた。”クシャ”となったのを、

両手で伸ばして。仕方なく薬屋を目指した。


迷ってたら、日が暮れ始めた。

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