第11話  目的


サクラ刀」‥‥数人しかいない「刀匠鍛治師とうしょうかじし」が、

魔力を込め、高価で稀少な鉱石の、

ヒイロカネとアダマンタイトで、鍛えあげられる刀。

刀匠鍛治師にも流派があり、

「兼松桜流」・「黄金桜流」2大流派の刀が主流。

「桜刀」は希少で、高価な刀ではあったが、

先祖代々、国の重要ポストに就いてる姉妹の「ミシロ」家は、

「桜刀」をいくつか所有していた。父はナガラに、

そのうちの1振りである「黄金桜一文字」を譲ってもらった。

城主様から賜った1振りは「兼松桜金剛」。

「桜刀」は、切れ味だけでなく、「魔刀」で、

使う者の魔力が強ければ強いほど、切れ味は増す。

魔法をまとわせることもでき、

様々な属性魔法の刀に変化する。まさに伝説級の”武器”である。

2振りの桜刀を扱うナガラに、国では、もう敵はいなかった。

父に武者修行の旅に、出たいと申し出た。

『この世を見聞してまいれ。』 父は、送り出した。

それから15年が経ち‥‥母は亡くなり、父も病に倒れた。

父は、ナガラに家督を譲ろうとしたが、

ナガラが帰って来ることは、なかった。


ミシロ家の家督を継ぐ者は、帰って来ない。

城代のコンゴウ家は、強引にミシロ家と縁談を進めて、

城代の次男が、姉をめとることを、決めていた。


嫁入りの3日前。


『家督を継いでくれるなら、うちの屋敷に住めばいいのに!!』

ぶつくさ言いながらも、妹も姉の嫁入り支度を、せっせと手伝っていた。


『それなりの嫁入り道具を持って行かないと‥‥。

沢山あるわね。屋敷の書庫から、何冊かと家宝の書物も‥‥。

「ミシロ流舞刀術の上・下巻」と「神代医師薬学の上・下巻」。

神代魔法書の「初伝・中伝・奥伝・秘伝」はマストね。

本家にも、書き写した物の本物があるだろうし、

叔母様の家にも‥‥大丈夫よね。

大判と着物、桜刀もあるし、干し肉や干し魚、茶道具もね。

「万能巾着」に入れるだけ、入れていくわ。

”ブツブツ”言わないであなたも手伝って。

必ず‥‥男子を産んでコクトを継がせるわ。』手当たり次第入れていく。 

姉の並々ならぬ意気込みに‥‥尻込みする妹だった。


婚儀の取り纏めを行う、コンゴウ家の武士達から、ある話が聞こえる。

『ミシロ家の家督を継ぐ筈だった、ナガラ殿の話‥‥貴公はご存じか?』

『武者修行に出て帰らぬ人に‥‥とは、聞いておる。』

『何でも大陸一の冒険者になったとか...。』 

『うーーん‥‥我には全くわからん...。ミシロの家を継ぐということは、

この国の主‥‥ヤマト城主に成れるかもわからん神代の血筋...。』

『冒険者とは‥‥それほどの?‥。』『さあな。本人に聞かねば‥‥。』

『此度の婚儀で、我がコンゴウ家も晴れて神代の家の親戚に‥‥。

我が殿は至ってお慶びになっていたぞ...。』


話をこっそり聴いていた姉は‥‥。

『冒険者になってナガラ兄様を探すわ。』

『え??え??冒険者?本気なの?ねー?嫁入りは?』

狼狽うろたえてびっくりしたが‥‥。

『一度決めたら曲げないのよ。』と、あっけらかん。


お互いの顔を見て”ゲラゲラ”笑う。


姉妹の国は、島国だったので貿易船が、頻繁に来ている。

『大陸に行きたいの‥‥。』姉は、なまめかかしく懇願こんがんする。

貿易船の船長は「ミシロ家」とは、

古くから取引のある商人の中年のダークエルフ。

『ご姉妹で出奔なさるのはナガト殿が‥‥。嫁入り前ですし‥。

コンゴウ家の怒りが私に向けられ‥‥商売が出来なくなりますし‥‥。

入国もままならずになるかと‥‥さもすれば打首になりますし‥‥。

姫様方々、どうかご勘弁を‥‥”ひぃー”。』とおびえて悲鳴をあげる。

『大丈夫よ‥‥。心配いらないわ。

お父様には妹の「カヤノ叔母上」が、いらっしゃるから。 

お父様に、もし何かあっても、叔母には3人の息子と、

姫がいるわ。「ミシロ家」は、誰かがぐわ。』

あっけらかんに言う姉。妹も頷く。

それなりの大判を渡して、船長を無理やり説き伏せ、

「万能巾着」に、嫁入り道具を入れたまま、船に乗り込んだ。

大判は、大陸で流通してる金貨とは異なり、純度が高く、

価値は通常金貨の10倍。船長もやはり商人なのだ。


潮風と共にドルバー海に出航し、国を出た。

波風は穏やかだが、日差しは強いし、

反射した海の照り返しが、肌を刺す。

海の魔物の遭遇に何回か会うが、乗組員が猛者もさ揃いで、

事なきを得ている。数日のうちに大きな陸地が見える。

貿易船は、無事に港に着く。


大陸で初めて入った国は、大きくて綺麗な港町が点在する、

「ファルダット自由国」

大きな港町についてすぐに大急ぎで、船長から、

冒険者ギルド支部に案内してもらった。

初めての冒険者ギルド支部。船長にも付いて来てもらう。

ギルドに入ると、船長が受付に行き、カウンターにいる受付嬢に、

『冒険者登録をしたいのだが‥‥。』

受付嬢に『こちらに記入を』と登録用の、魔法紙を渡される。

『お姫様方々、私めにお任せを。』”スラスラ”と書いていく。

『こちらで承りました。登録されたお2人の冒険者カードです。』

色々説明を受けて、無事に姉妹は、登録を終える。

受付嬢にFランクの錆鉄色のカードをもらった。Fランク‥‥。

薬草採取か弱い魔物の討伐依頼しかない。

上のEランクの依頼も‥‥似た様なもの。受付で説明を受けた。

『んーーーん‥‥暑っ。』手を”バタバタ”させて、顔に風を送る。

『ジュリ‥‥暑すぎないかしら‥‥この国。』

着物の胸元を”ぐい”っと下におろすと谷間があらわになる。

着物を太ももまで、たくしあげる。美脚を見せる。急に色っぽい。

周りに居た冒険者達と船長が、それに目が釘付けになる。

そんなことは、お構いなしの姉。また『暑っ。』

『ほんとに暑い国ねぇ‥‥。ジュリも着物をまくったら?

着物は、この土地では不向きなようね。それに目立ちすぎるわ。

船長‥‥私の胸元と脚ばかり気にしないで、街を案内してね。

宿と服屋と‥‥あと換金所もね。』揶揄からかいながらウィンクする。

『アカリ姫様、おまかせ下さい。』

船長は”デレ”っと、鼻の下が伸びていたが、急に真面目な顔で、腰を折る。

『ネー。胸と脚‥‥自慢してる?』

あきれながら、姉と目を合わせる。


”ゲラゲラ”笑いながら、船長と3人でギルドを出た。



   

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