第10話  姉妹と兄


その頃、北の森の霧深い山の中‥‥。

山の洞窟に、左膝の下からを無くし、

全身血だらけ‥‥瀕死の男が横たわっていた。

口の中も血が吹き出し、前歯が折れて、4本が欠けてる。

『うぅ‥‥。』何度もうめき声を上げる。顔は無残にも焼けただれ、

眉や口元の髭も焦げていた。段々とその男の意識が、薄れていく。

男に一生懸命‥‥魔法を唱える...黒い影。


『エクストラ・ヒール!!』神々こうごうしい薄い緑色の光が、男を包む。

『エクストラ・ヒール!!』『エクストラ・ヒール!!』‥‥。

何度も‥‥何度も『エクストラ・ヒール』をかける。

『”ふぅーー”‥‥これでなんと命は繋がったわね。』

洞窟に差し込んできた陽の光で、黒い影が姿を現した。

頭の上には、魔道士らしい黒の三角帽。黒いローブ。

青い宝玉がついた長い金杖を持ち、髪の色は桃色で瞳は碧。

スレンダーな美女。かなりキュートだ。

額の汗を絹糸で作られた、高価そうなハンカチでぬぐっている。

必死な顔で『薬が必要ね...。』「万能巾着」から、

薄黄緑色の液体の入った小瓶を取り出し、

男に飲ませると思いきや‥。  自分で、一気に飲み干す。

『これで魔力も回復したしっ‥‥と。』満足した顔で小笑いして、

いにしえより来たれ‥‥‥‥。』詠唱を始める。

彼女の体が光り始める‥‥光が杖に移り‥‥。

『アストラル・ゲート!!』 杖の先から、

洞窟内に白い門のようなものが...”ボワン”と浮かんだ。

横たわる男に向かって杖を、一振りして『フローター・レヴィ!』

男の体が、ゆっくりと浮かび上がる。

男の体がその門に...吸い込まれように入った後、

その美女も門の中に消えた‥‥。


「研究室」で”ズリズリズリ”と、石臼で乾燥した薬草を、

両手に力を入れ、すりり潰ぶしていると、

居間の方から...膨大な魔力を感じた。

『ん?』アカリは、この魔力に覚えがあったが、手を離し身構える。

居間が急に明るくなり出した‥‥空間が歪み、

白い門のようなものから...浮いた男が現れる。

『何?何?』 身構えたまま...何が起きているのか、わからないアカリ。

『ネー!ネー!ネー!!!この人を治す薬を調合して!!』叫びながら、

すぐに現れたキュートな美女は、じっとりと額に汗をにじませる。

『ジュリ‥‥あなたはいつもせっかちですわね。』叫ぶ美女にこぼす。

”ほっ”と‥‥胸を撫で下ろす。安心した顔のアカリ。

浮いている男を、居間の横にある客室のベッドに下ろし、寝かせる。

アカリは、研究室の棚から、小瓶を取って来て‥‥その男に飲ませる。

ジュリの真剣な顔を見て、『これでなんとか‥‥今晩が峠ね‥‥。』

『あとはこの人...次第ね‥‥。』真剣な顔を見合わせて頷く。

2人は静かに客室を出る。


居間に戻り、アカリがキッチンで煎茶をれ、

茶菓子と共に運びながら、ソファー前のテーブルに載せる。

ジュリは‥‥もうさっさとソファーに座ってくつろいでいる。

ゆっくりと熱い煎茶を飲みながら思い返す‥‥。

「ある薬」を創りたいから「黄石英きせきえい」を探して欲しい。

大陸中を2年も、血眼ちまなこになって探し回ったが見つからず。

各国で集めた情報を元に、隔離された国のトランザニヤまで、

やっとのおもいで辿り着き、その鉱石をとうとう見つけた。

姉にどうしてもと頼まれたからだ。


『ほんと‥‥この石を見つけるのに...2年とちょっともかかったわ。』

ジュリは、わざと不貞腐ふてくされたように、

アカリに”ポーン”と投げて小さな布袋を渡す。

『ジュリになら...見つけ出せると思ってたわ。』

”ニコニコ”しながら、布袋の中身をみる。

黄金色に輝く「黄金石英おおごんせきえい」が、”ごろごろ”と入っている。

『これはすごいわ!! ”わーーい”。』と手放しで喜び、はしゃぐ。

黄石英より、貴重で希少な鉱石だ。

揶揄うように笑って、アカリがジュリに話しかける。

『ご褒美は何がいい? お金? イケメン? 何が欲しい?』

『じゃあ...変だー兄‥‥。』 伏目で照れてる。頬が少し朱い。

『あの人は...だーめー。』手をクロスしてあきれる。

顔を見合わせ、”ゲラゲラ” 笑う。

『なら‥‥神代魔法を教えてよ。ネー。』 急かす。

姉としては先ほどの「イケメン」に食いついて欲しかったのだが‥‥。

この子も、もう20代で良い歳なのだから‥‥と思い、

『まずは...イケメンから?』笑うと...。

『神代魔法よ!!!』真っ赤になり”ぷんぷん”してる。

当の本人にそんな気は更々無いらしい。

『変だー兄の事、いつから好きに...なったの?』朱い顔で聞く。

『あら‥‥初めてあの人を見た時よ。』照れを隠さず、あっけらかん。

姉妹は久しぶりの再会。昔話で盛り上がった。


「ここから過去へ遡る‥‥。」


小さい頃から仲が良かった姉妹は、

ここから遠く離れた国で、暮らしていた。

姉が急に「冒険者になる」と言い出して、妹は正直びっくりした。

そんな姉と一緒に国を出た。国を出て冒険者登録をして、

姉妹でパーティーを組んで数年旅した。

冒険者になったキッカケは、姉妹達が住んでいた国を出て、

帰ってこない「ナガラ」の名を、姉妹達の国で耳にしたからで、

大陸で唯一の「SS級冒険者の称号」を受けたと聞いた。

幼い頃に薬学や魔法やらを教えたのは、兄のナガラだった。

姉妹達の家柄一族は、魔力も高く、

一族固有の「刀術」「扇子舞踊術」は有名で、

国では、重要なポストに就いている名家。父は分家を継いだ。

父は「筆頭家老」と言うポストに就いていた。

母は「典医」と呼ばれ、国の最高位の医薬士の1人になっている。

そんな分家の家は、男子に恵まれず、養子を取る。

この家に来た時には、養子はすでに20歳。

父が見つけてきた養子は、異国の者であったが、

知的で人柄も素晴らしく、

父母から舞刀術・薬学・神代魔法を、スパルタで叩き込まれ、

”メキメキ”と実力をつけていった。

当時、姉が物心ついた頃で、妹はまだ幼かった。

父母は、幼い姉妹達には、まだ、しっかりとした教育を、

していなかったが、その養子は教わった全てを、姉妹達に教える。

面倒見も良く、姉妹達は、本当の兄のようにしたっていた。

その養子は特に刀術を最も得意とし、1番の才能を発揮し、

国中の猛者が集まる‥‥御前ごぜん試合でも、勝てる者が無く、

城主様より『大儀である。』と褒美ほうびに「桜刀」を1振りたまわった。

父からも「名」と「桜刀」を1振り、譲り受け、

名前は父「ナガト」から、2文字取り「ナガラ」と名付けられた。



 


       

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