第9話  エマ



翌朝。オビリオは、双子の赤ん坊の鳴き声で、目を覚ました。

泣いている双子の片方を、優しく胸に抱き寄せ、

マルソーは授乳を始めた。

もう片方の赤ん坊は””スヤスヤ””と寝ている。

この鳴き声でも起きない.....緑青色の髪をした「兄エドモンド」。

泣き終えて母親のおっぱいを”チュウチュウ”と吸っている、

銀髪の白い目で、銀の瞳の赤ん坊が「弟エドワード」。

双子の赤ん坊は二卵生双生児で、エドモントは母親似。

エドワードは父親似....。まだ2歳位なので、

成長していく過程でどの様に変わっていくのか....。

両親は子供達の将来を、楽しみにしている。


”むくぅ”と起き上がる少女が寝癖でバクハツしてる。

長い銀髪の間から、

眠たそうな白い目の、銀の瞳でこちらを見る。

両手を上に上げ、少し背伸びをしながら『はあーあー。』

欠伸あくびする。『おはようございます。トー様。カー様‥‥。』

まだ、眠気が冷めない様子。また欠伸をして、ベッドにちょこんと座る。

『おはよう。エマ‥‥弟達ができてあなたはもうお姉さん‥。

1人で身支度は整えられるわね?』授乳中の母から...優しく言われる。

『うん‥‥。』大きめの水玉柄パジャマから両手を”んしょ”と出し、

ベッドで一緒に寝ていた、白熊に似たぬいぐるみを、片脇に抱え、

部屋を出る。多分.....顔を洗いに行ったのだろう。

”パリーン・ガッシャーン”

大きな音...。『こめんなヒャい』と聞こえる。

片付けをしている、亜人のメイドに謝っている。

どうやら、抱えていたぬいぐるみに廊下の花瓶が当たって、

倒れて割れたのだろう。『高価な花瓶なのに‥‥‥。』

亜人のメイドが”ポツリ”。

”パチッ”と、目を開けたエドモンドは、白い目の黒い瞳だった。

割れた花瓶の音で起きた。泣かずに...笑ってる。

朝食を終えて、亜人のメイドに抱きかかえられるエドモントは、

赤ちゃんのそれで『トート‥カーカ‥ネータ‥‥。』

しきりに声を出す。やっと覚えた言葉なのだろう。

エドワードは、母の胸でぐっすりと、また眠っていた。

『ネータじゃなくてネーネ。』弟のエドモントに何回も言う。

言ってるエマの後で、寝癖をキチンとかし、

亜人のメイドは、慣れた手つきで、

長い銀髪を...ツインテールに仕上げてる。


食堂にはメイドの他に、執事のイワンも、お茶の準備をしている。

エマは席に戻ると、カップを持ち”フーフー”と息を吹きかけ、

”ジュジュジュジュ”っとお茶をすする。

父はカップを置き......。はっきり悲しさがわかる声で、

 『お前達に話さなければ‥‥ならない事がある。』

憔悴しょうすいした顔は、目に涙があふれている。

母は何かを感じて、黙って頷き、メイド達やイワンも作業を止める。

『弟‥‥マグナスがヒドラの討伐に行ったが‥‥討死にした。』

悔しさなのか...喪失感なのか...。泣いていた。

『エッ??』とエマは持っていたカップを、離してしまった。

受け皿とカップが、お互いぶつかり”パリーン”と、皿が割れ、

倒れたカップの中のお茶が、テーブルにこぼれる。

『嘘?‥‥オジ様が??亡くなられた??』 悲痛な声を返した。


エマは弟達が生まれてから、メイド達に寝かしつけられていた。

寝たふりして、メイド達が部屋を出たあと、寝室を抜け出し、

マグナスの部屋に遊びに行った。マグナスは独り身で、

公務がない時は、夜な夜な遊びに来る姪を、いたく可愛がっていた。

見かけと違い子供好きで、普段の公務では、

絶対見せない...本当の自分を見せてくれた。

特に叔父の持っていた本『トランザニア物語』が、

大好きで、読み聞かせしてもらっていた。

眠るとメイドを呼んで、寝室へ連れて帰るようにしていた。

自分に厳しく、知的で優しい叔父が大好きだった。


あまりに突然の叔父の死に......。

”えーーんえーーん”と大声で泣き出した。


(...姫様... ...鼻水をお拭きください鼻水を....。)


 イワンは思った。

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